第55話

     Harum-scarum


 春休みになって、久しぶりに伊丹 紗文の家を訪れた。これは正確ではない。呼び出しもなく、彼女の家にやってきたのが久しぶり、ということだ。

 彼女は驚いた様子だったけれど、すぐに招じ入れてくれた。母との二人暮らしで、昼間は母親も仕事をしている。公団住宅のような、古い四階建てのそこは、母と娘の二人暮らしにはちょうどいい。

 でも、ここはそれ以上に、オレと女の子のエッチ部屋となっているのだ。オレは彼女から連絡をうけてここにやってくると、他の女の子が待っている。初めてなので優しく破って欲しい……。彼氏との行為では満足していない……。女の子らしくなりたい……。色々な事情はあれど、ここにくる目的はたった一つ。オレとエッチをすることだ。

「今日はキミと、二人だけでエッチをしようと思ってね」

 いつも、伊丹は複数の女の子とエッチをする中で、その一人として参加する形だった。部屋を提供させているのに悪いと思っていたので、こうしてその償いをするつもりだったのだ。

 彼女はそういわれ、顔を赤らめる。あまり感情をだすことがなく、エッチも淡々とするタイプなので、その反応は少し意外だった。


 まだ小学五年生、春休み明けには六年生になる。でも、エッチは彼女が小二のころからしている。

 彼女はオレの上に乗って、自分から動くタイプだ。座った状態のオレにまたがって、今日はこちらに向いて彼女は自分で激しく上下する。

 今では胸も大きくなった。ぺったんこだった頃から、エッチをしている相手だからこそ、ふと二人きりのエッチでそんな感想を抱く。ただ、彼女は自分がイクと、よく「ありがとうございます……」と感謝の言葉を述べて、その後で自分の胸をこちらの顔に押しつけてくる。

 オレが『授乳』と呼ぶ行為だけれど、オレはそのとき、優しく胸をさすり、唇で彼女の乳首を慰めてあげる。そこまでが、彼女のエッチの流れなのだ。

 あまり連続でするのが好きなタイプでもないので、授乳で満足した彼女のことを、ゆっくりとオレの腕の中にかき抱いた。

 複数の相手とエッチをする中では、中々そういうことはできない。伊丹もそうされて、真っ赤な顔でオレの胸に顔をうずめている。


 オレは、彼女が本当はエッチがあまり好きでないのでは? と考えている。いつも一回、多くても二回しかしないし、後は他の女の子とのエッチの手伝いに徹しているからだ。

 彼女にとって、オレは親? 兄? そういう存在だと感じている。母親との二人暮らし、数少ない男性との接触。その中で、エッチをするのは絆をつないでおくこと。だから母性をもってオレにも接する。まだ男性との付き合い方を知らないうちに、オレとそういう関係になってしまったことで、まるでお人形遊びをするように自分が親で、オレが子……。そんな思いこみが『授乳』だと理解していた。

 全裸で抱き合っていると、色々なことを思い出す。彼女は最初、オレの妹からイジメを受けそうになっていた。そして同級生の男子から、性的暴行をうけそうになっていたところを、オレが救った。ただ、それでも〝時の強制力〟によって、体の疼きが止まらず、それで最初は自慰のやり方を教えたけれど、それでは満足せずに、最終的にはエッチをしたのだった。

 今では、男の子からも人気の高い、美少女に育っている。ただ、同学年の男子のことは今でも苦手としていた。何よりイジメをうけていたともあるだろう。当時、彼女は母親が離婚をし、仕事もなく、生活もぎりぎりという状態で、小汚い恰好をしていたことが、その原因だ。

 そのころ、オレと出会った。でも、オレは特別視しなかったし、むしろ守ろうとした。彼女がオレに抱いた複雑な感情……。それは親愛、憧憬、慈恵、そうした諸々のものがあるはずだった。


「も……、もう一回、いいですか?」

 彼女は恥ずかし気にそう尋ねてきて、オレが頷くと、黙ってまたオレのを自分のそこに挿し入れた。二人きりだと、こうして甘えてくるんだ……。オレも驚きを隠しつつ、彼女の背中をみつめる。

 彼女は自分で動いて、ふたたび満足すると、オレに背中を預けてくる。後ろからその背中を抱きしめ、胸に手をまわし、ふり返った彼女の唇をふさぐ。

 エッチが少しでも好きになってくれれば、もっと前向きになるかもしれない。そう考えていた。

 そうなると、ここをエッチ部屋としてつかえなくなるけれど、その方が彼女にとっては幸せなのだから……。


 三回目を終えると、横になったオレの上に彼女はうつ伏せになって横たわる。まるでラッコの親子のようだ。

 彼女はオレの鎖骨の辺りに頭をのせ、幸せそうにオレの肩や二の腕辺りの筋肉をなぞるように、指を走らせる。

 放課後にここにくると、こんなゆったりしていられない。何しろ複数の女子とエッチをして、満足させないといけないからだ。彼女の母親が帰ってくるのが十九時ぐらいなので、賞味三時間ぐらいで完結しないといけない。こんなまったりと過ごす余裕もない。これも春休みだからである。

「いつも大変だろ? 女の子と連絡をとったり……」

 何の気なしに、そんなピロートークをはじめた。彼女はうっとりしながら「サイトがあるので……。私は人集めはしていなくて……」

「……え、サイト?」

 伊丹も失敗した……という感じで頭を上げると「サイトがあって、そこに連絡してくるんです。その管理者から、私も連絡をうけるだけなので……」

 あまり詳しく、こういうことを聞いたことがなかったので、初耳だった。

 サイトをみてみると、何のことはない、悩み事がある人は、その悩みと連絡先を入れるようになっているだけの簡素なものだ。嘘くさい占いサイトでも、もう少し頑張って客を集めるはずだ。

「サイトそのものは簡素だけれど、女の子の中では口コミで話がまわっていて、エッチしたい子が連絡先を入れてくるのか……」

 サイトの管理者は誰だろう……? そんなことが気になったけれど、伊丹に聞いてはいけない気もした。それはその話をしたことで、少し落ちこんでいる様子だったからだ。


「もう一回、エッチをしようか」

 今日は彼女を喜ばすために来たのだ。そう声をかけると、彼女はパッと表情が明るくなり、頬を染めながら小さく頷く。

「今度は、オレがしてあげるよ」

「え? そんな……」

 躊躇う彼女と議論をしていたら、せっかくの気持ちが萎えてしまう。半ば強引に、彼女を横たえると、オレも手練手管をつかい、彼女のことを優しく責める。あまりそういう感じでエッチをしたことがない伊丹は、戸惑いつつも、それでも感じているのか、目をつぶりながら受け入れている。

 彼女の好きなリズムは、すでに知っている。彼女が上になったとき、いつもそうしてきたからだ。オレが腰で、そのリズムをとっていると、すぐに彼女はイッた。

「あ、ありがとうございます」

 彼女は横になったまま、そう感謝の言葉を述べて、『授乳』するため起き上がろうとするので、その口を唇でふさぎ、その胸に手をもっていく。感謝はいいとしても、変な性癖は今のうちに正してあげないと、いずれ彼女に好きな男の人ができたときに困るだろうから……。




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