第19話

   Live Rally


 小学四年生になろうとしていた春休み――。

「どう、これ?」

「似合う、似合う」

「え~……、全然そう思っていないでしょ?」

「まだ体に馴染んでいないから、どうしても着せられている感じが……」

 梅木が中学の制服を見せに来てくれたのだけれど、『孫にも衣装』という感じでもあった。それを口にすると、絶対に怒られるし、正しい漢字は『馬子にも衣装』であって、賤しい人間も立派な服をきると、それなりに見える、という意味である。決して、お爺ちゃんがなけなしの年金から孫の制服を買ってあげて、その喜ぶ顔をみる、という意味ではない。

「それは自分でも分かっているよ。肩とか、まだ全然、強張っているし……」

「じゃあ、抱きしめたらすぐに体に馴染むかな?」

「もう……、やめて。そんな状態で家に帰ったら、絶対に怒られるよ」

 ちなみに、梅木の母親は娘がお付き合いをしていることを知っているけれど、父親は知らないらしい。さらにいうと、母親も同世代の子と付き合っていると思っているらしいので、未だに家には行けていない。多分、三つも年下の小学生なんて、目を丸くされるのが確実だからだ。

「そういえば、妹が小学校に上がるんだよね?」

「うん。仲良くしてあげてね。美波っていうの」

 梅木は二人姉妹だそうだ。少し歳が離れているけれど、本人曰く『似ていない』そうで、どちらかと言えば控えめな姉とちがい、活発なのだそうだ。

「ご両親は、海好き?」

「そうじゃないみたいだけど、お父さんが、お母さんに告白したのが海の上なんだって。それで、娘は海に関係する名前にしたみたい」

 梅木もどこか抜けているような感じがするけれど、両親も変わった人たちなのかもしれない……と思った。でも、これを言っても絶対に怒られそうだった。


 こんな穏やかな時間ばかりではない。オレは警戒していた。

 春休み、オレは呼びだされた。春期講習で忙しい……といっていた幣原 真清からである。

 図書館にいくと、彼女はそこで待っていた。彼女とはあれからも、数週間に一度という感じで、関係をつづけている。それも、彼女が勉強につかれ、欲求が耐えられなくなったときに誘ってくる感じだ。

 清楚な感じで、真清はそこにいる。ただ、オレの顔をみるとすぐにその手を引いて、ぐんぐんと連れて歩く。

 槍名生市の図書館は比較的大きいのだけれど、それでもまだまだ拡張するつもりで、渡り廊下にするための通路が存在した。要するに、隣の敷地にも建物を建てて、そこに行けるための通路だ。でも、それは未だに行き止まりであり、なので、あまり人が来ないし、周りからも見えない位置にあった。真清は図書館にもよく来ているらしく、その構造を熟知しているのだ。


「服を脱いで、早く!」

 小さいけれど、鋭くそう命じてきた。いつも真清とは忙しい形でしかしていない。それは昼休みに、こっそりと隠れてするのだから、彼女はスカートを穿いたままで、服を脱ぐこともないし、オレもズボンを下げる程度のことで、しかも彼女が馬乗りになって致す。

 彼女が満足すればそれで十分なので、彼女が自分で動いてイッてしまう……。独りよがりなそれだった。

 彼女は眼鏡を外して、服をどんどん脱いでいく。まさかここで全裸になるとは思っていいなかったけれど、彼女に促されて、オレも服を脱いだ。

 全裸になると、服を畳むのも億劫とばかり、彼女はとびかかるようにして、オレの唇を求めてきた。

 小学校五年生になろうとする彼女は、リアには劣るけれど、それでも胸は大きくなってきた。それはこうやって、この歳で性行為をくり返しているぐらいだから、女性らしさは増しているはずだけれど、今日のそれはさらに激しかった。いつも、彼女はイッた後でキスをしてくるけれど、それはねっとりと、こちらの粘膜に吸い付いて重なる部分を増やそうとするようなそれだった。

 でも今は、まったくちがう。激しく求め、激しくこすりつけるようにして、まるで生気を吸い尽くさんばかりだった。


 いつもそうだけれど、前戯はほとんどない。というより、やはり時間がないので、そうするのも面倒だったし、彼女はもうそれ以前から、想像で受け入れ準備が完了しているほどだ。

 今回も、唇を激しく吸いながらこちらを押し倒してくると、すぐに跨ってきた。まだ胸もさわっていない……。オレも苦笑するけれど、もう彼女はオレのそれを受け入れると、激しく上下に動かしだす。

 といっても、音が漏れるのはやはりマズイので、音漏れしないよう、また声漏れもしないよう気をつかうのは、これまで通りだ。

 彼女はいつも、一回目は早い。「はぅぅぅ……」そんな吐息を漏らし、動きが止まった。

 ただ女性は、その高揚がしばらく継続する。それを証明するよう、いつものねっとりとしたキスの始まりだ。

 オレはこのとき、胸を弄ぶことを赦され……というか、それまで手も届かないのだけれど、そうやって同世代の中では大きめな、彼女の胸を揉み、その先端をつまみ、先端から円を描くようにしてその大きさを確認する。


 ただ今回は二回目を終えた後、彼女は意外なことを言いだした。

「郁君からしてよ」

 昼休みと違って、時間があるからか……。オレの服を彼女の背にして横たえると、彼女の膝をつかんで、ゆっくりと挿入した。元々、締まりのいい方だけれど、彼女の膝を広げたり、縮めたりしながら、オレは激しく動く。彼女は口に両手を置いて、必死で声をださないように堪えつつ、それでもぎゅっと閉じた目からは、若干の歓びみたいなものも感じられた。

 今日は敏感だな……。はっきりとそう意識した。二回目も早かったけれど、ほどなくして三回目も達した。

 生憎と、オレの方はどんなに絶頂を迎えてもだすものがないし、彼女はそれと気づけないだろう。でも、だすもののない彼女の方が、締め付けるその力の強さで、オレはそれと気づくことができる。

 そして、彼女が達すると、オレも動きを止める。

「はぁ~……。やっぱり……いい」

 彼女は両手を広げて、キスを求めてくるので、彼女に挿入したまま、体をむしろ丸めるようにしながら唇を重ねた。


 いつもは数十分ぐらいなので、その日は二時間ぐらい、とにかく激しく動きつづけたことで、お互いくたくたになって、横になった。

 彼女の上で、その胸に顔をうずめながら、普段はあまりさせてもらえない胸を舐めたり、噛んだりして、オレはその間もしばらく彼女を弄んでいると、彼女の方から声をかけてきた。

「私……初潮を迎えたの」

「……え?」

「そのせいか、どうしても我慢できなくなって……。今日は午後から春期講習なんだけれど、もうこのままでいいやって、そう思えてきた……」

 珍しい。彼女は勉強が最優先で、オレとの行為はその溜まったストレスの捌け口だと思っていた。もっとも、ここまで脳細胞を真っ白にした後では、春期講習にでたとしても、どこまで身になるかは分からない。

「何か変わった?」

「女の子になった」

「それはそうだろうけれど……」

「そうじゃなくて、はっきりと女性であると自覚できた。まだアナタは大丈夫かもしれないけれど、これからはちょっと工夫が必要かも……」

 それは避妊具の装着、ということか……。そして、前の時間では、彼女が自殺未遂を犯した日が、刻一刻と迫っていた。




 

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