第183話 遠野家の秘密

「遠野先生。お邪魔しています」


「あれ、君たちは……昨日暁が泊まりに行ったのも、もしかして?」


「うん、樹たちのところでお世話になってた」


「それは、面倒をかけたね。それにしても珍しいな、暁が部屋に友達を呼ぶって初めてじゃないのか?」


 へえ、そうなんだ。それだけ僕たちのことを親しく思ってくれているってことなのかな。


「まあね。それで、親父。こいつらに俺たちのことを話したからな」


 その瞬間、遠野教授は一瞬で入り口を塞ぐように立ちはだかり、風花が僕たちと遠野教授の前に立った。


「まあまあ、親父、落ち着いてくれ。九幻流を使うこいつらは、ご先祖様が言っていたあの立花だと思う。現れたら協力してくれって書いていただろう」


 ご先祖様!? ちょっと急展開でついて行けてないけど、もしかして僕たちと暁たちの間に何か因縁のようなものがあったの?


「しかし……ちっ! 口封じするわけにもいかねえか」


 だから、口封じとか勘弁してほしいよ。この人たちが言ったらシャレになってないから。


「あー、風花君。警戒を解いてくれ、俺はもう何もしない。ただ、話を聞かせて欲しいが……時間か、ちょっとここで待っていてくれ、道場に行ってくる」


 遠野教授が下の道場に降りて行ったので、暁と一緒に居間で待つことにした。


「コーヒー淹れるよ。親父が好きなんだ」


「ありがとう。それで、さっきのは何? 説明してほしいんだけど」


 竹下も風花もうなずいている。そりゃそうだ、僕たちはおいてけぼりだもん。


「ごめんね、いきなりでびっくりしたよね。説明したいんだけど、これから先は親父から聞いて欲しいんだ」


 三人で顔を見合わせる。こうなったら事情を聴くまで帰るわけにはいかない。


 数分後、遠野教授が道場から戻って来た。


「待たせたな。暁、あれもってこい」


 そう言われた暁は『わかった』と言って、家の奥へと向かって行った。


「お前たち、どこまで聞いた?」


 暁がいない今、何を答えたら正解かわからないので正直に話すことにした。


「遠野先生と暁は忍びの一族の出身だけど、今はそれを仕事としているわけではないと聞いています」


「うん、まあ、そうだな」


 少し歯切れが悪い気がするけど、追求しない方がいい気がする。


「お待たせ。はい親父」


 戻って来た暁は手に巻物のようなものを持っていて、それを遠野教授に渡した。


 そして、遠野教授はおもむろに巻物を開くと、ある場所を指示さししめした。


「ここを見てくれ」


「「「……?」」」


 読めない。達筆すぎてというより、日本語なのかも怪しい……


「先生、読めません」


「うん、まあ読めないとは思う。俺の一族で使われる暗号文だからな」


 そりゃ読めないよ。読めたら読めたで口封じされそうで怖いよ。


「ここには要約するとこう書いてある。俺のご先祖様の……」


 遠野教授によると遠野家のご先祖様の親友に九幻流の継承者の人がいて、その人は医術の勉強をするために長崎まで向かいそのまま帰ってこなかった。そして、再び九幻流を使うものが現れたら、協力するようにと言い伝えられているらしい。


「そして、その九幻流の継承者の方のお名前が立花というんですね」


「ああ、文書もんじょには立花舷丞たちばなげんじょうという名前だと記されている」


「そして、さっき話したこの家を建ててくれた立花工務店さんは、この地に残った継承者の縁者えんじゃの方だって聞いているよ」


 知らなかった。ということは……


「樹の家って」


「うん、うちのご先祖様はどこか遠くのところから医術の勉強に来て、街の有力者の娘と結婚してあの場所に診療所を開いたって聞いている。ただ、元々いた場所がこの辺りなのかは知らない」


 ご先祖様が立花舷丞という名前かどうかは覚えてないけど、お父さんに聞いたらわかるかもしれない。この前そろそろ家系図を作りたいって言っていたから。

 それに、もし立花舷丞さんだったすると、僕と風花の家は元々同じ一族だったのかもしれないということになる。


「なあ、親父。この文書もんじょに書いてある立花って樹のご先祖様に間違いないだろう」


「でも、僕の家では古武術とか伝えられていないよ」


 お父さんもおじいちゃんも武道とは無縁だった。その前の曽祖父ひいおじいちゃんはわからないけど武道をやっていたんだろうか。


文書もんじょにはその継承者は弟子を取らずに道場を閉めたと書いてある。だからそちらでは最初から九幻流自体を封印していたのかもしれないな。まあ、そんなわけで失われていたと思っていた九幻流がいきなり現れたと聞いて、調べに行こうとした矢先にお前たちが俺の目の前に来ただろう。言い伝えを守れると思って、思わず声をかけたって訳よ」


 なるほど、遠野教授があの時僕たちの前に現れたのには、こういう事情があったんだ。


 その後、風花が立花工務店の社長の秋一さんの姪であるとか、僕と風花が遠縁にあたることを知らなかったこととかを話した。


「それで、親父。これからどうするんだ」


文書もんじょの通り、九幻流の使い手には協力することになる。ただ風花、当面はおめえだ。危なっかしいのを何とかしねえといけねえ」


「はい」


 その後僕たちは道場へと向かい。訓練生の人たちに来月からお世話になることを伝え、練習風景を見学させてもらった。




「「「お世話になりましたー」」」


「それじゃ、暁。今日はありがとうね。いろいろとわかって驚いちゃったよ」


「いやー、俺も昨日のうちに話したかったんだけどさ。さすがに何でも喋るわけにはいかなくてさー」


 その割には、かなり早い段階で忍者の末裔だってばらしていた気がするけどね。


「暁、ありがとう。見送りならいらないよ。僕たちだけで帰れるから」


 道場を出た僕たちは家に向かって歩いているんだけど、なぜか当たり前のように暁もついて来ているのだ。


「いやいやそう言わずにさ、送らせてよ。時空を超えた親友の再会だぜ。別れが惜しいよ……。そうだ! 今日も泊まらせてくれ、明日も休みだしじっくりと話そう!」


 時空を超えた再会って、それを言うなら別に暁じゃなくても遠野教授でもいいと思うけど……。それに、夜はゆっくりと寝たい。あちらの体は結構大変な状況だからね。


 ゾクッ! その時何やら冷たいものを感じた。


「お、おい暁、止めておけ。風花が尋常じゃない目で見ている」


 お、恐ろしくて風花の方を見れない……


「仕方がないな。それじゃ晩御飯だけ食べさせて、プロフじゃなくてもいいけどあちらの料理。俺って繋がったばかりだろう、もう一度あちらの料理を食べないと今晩上手く移動できないような気がするんだよね」


 一度繋がったら簡単には切れないとは思うけど、最初だから安定しない可能性もあるのかな。


「それならボクも一緒に作ってあげるよ」


「風花も作ってくれるの! リュザールも料理うまかったから楽しみだよ」


 風花が一緒ならいいか、それに話足りないのは確かだし。







 その翌日の夜、父さんの家で夕食を食べ終わった私は、リムンに迎えに来てもらってユーリルの家での勉強会に顔を出すことにした。


「ふうー、お待たせ」


 お腹が大きいから動くにも一苦労するよ。


「ソル、大丈夫か? 無理するんじゃねえぞ」


 今日のパルフィは、ラザルとラミルと一緒に寝ずに待っていてくれていた。ユーリルが早速料理の手伝いをするって言っていたから、ちょっと余裕があるのかもしれない。


「ありがとうパルフィ。まだ、大丈夫みたい」


 陣痛はまだ来てないし、リュザールが戻ってくるのは三日先のことだから、それまで待ってほしいのが本当のところだけどね。


「リュザールを待ってんのかもしれねえが、あまり大きくなると大変だぞ」


 見透かされている。双子を出産したパルフィの言葉だ、重みが違うよ。

 改めて自分のお腹を見てみる。大きさは……この時期の妊婦さんと同じくらい。初産だから最初は大変だって聞くけど、私が立ち会ったみんなは初産でも頑張っていた。あと数日たったらもう少し大きくなるかもだけど、私だって頑張れる。


「うん、無理しないよ」


 辛くなったらみんなに頼ることにしているからね。




 みんなが集まったところで、昨日起こったことを伝える。


「手裏剣とかの画像が送られてきて何事かと思ったら、ほんとの忍者がいたんですね」


「そんなに面白そうな場面に同席できなかったなんて悔しいです」


 面白いって……確かに楽しかったけど、口封じとかいう人たちだかね。うかうかできないよ。


「それで、お尋ねのクナイや手裏剣については何とかなると思います。ただ日本刀については、作り方がネットで動画があったので見てみたんですが、火の入れ方とか叩き方とか……いずれにしろ経験が足りないので同じように作れないと思います」


 クナイに手裏剣は近いうちにエキムに渡せそうだけど、日本刀は簡単にはいかないみたい。昨日暁と話し合った通り、私たちが持っているような剣を渡さないといけないようだ。


「日本刀は経験が足りたらできそうなの?」


「はい、時間をください。パルフィさんと一緒に何とかして見せます」


「お、あたいもやっていいのか!」


「もちろん、僕だけじゃまだまだなので、よろしくお願いします!」


 パルフィも一緒になっての刀づくり。日本刀と同じものができるかどうかわからないけど、この世界に合ったものができたらそれはそれでいいと思う。


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あとがきです。

「ソルです」

「パルフィだぜ」

「「いつも読んでくれてありがとな!」」


「どう? 刀作れそう?」

「さあ、どうだろな。見てねえから何とも言えねえがやれるだけやってみるぜ。というか、刀ってどんなやつだ?」

「長くて細くて反っていて、切るための剣といった感じかな」

「あたいたちが作る剣はどちらかというと叩いて突き刺すといった感じだが、切るのか……そして長くて細い? それって折れねえのか?」

「折れないための技術がそこにあるみたいだよ」

「くぅー燃えるねぇ。どこまでやれるかわからねえがやってみるわ。それにしてももう終わりが近いんだろう。あたいがここに出てもよかったのか?」

「うん、パルフィ大好きだからね。一緒に出たかったんだ」

「嬉しいねえー。ソルももうそろそろだからなって、次回がそうか」

「そうみたい。ドキドキするよ」

「あたいたちがついているかな。しっかりやれよ!」

「わかった。頑張るね。それでは次回のご案内です」

「えーと、内容はあれだ。期待しておけよ」

「あと2話になりました。次回もお楽しみにー。私、頑張ったよ!」


追伸! お話に出てきた遠野家のご先祖様と立花舷丞さんのお話は外伝として少し書いてますのでそちらもどうぞ。

https://kakuyomu.jp/works/16816927861287203306

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