第182話 暁の家

 少し早めのお昼を地下鉄駅の近くの牛丼屋で済ませた僕たちは、暁の家の道場、遠野修練所まで向かう。土曜日は午後から開いているらしくて、4月からの入会を前に見学させてもらうつもりだ。


「3時からなんだよね。まだ少し早いから、俺の部屋で話そうぜ」


 今の時間は12時半。ゆっくりと話すことができそうだ。


「さあ、こっちの階段から上がって」


 途中のコンビニで調達した飲み物と、ちょっとしたお菓子を持って道場横の階段を登る。


「遠野先生はいるのかな?」


「親父はどうかな……いたら挨拶したいよね」


 うん、これから指導を受けるんだから、きちんとお願いしておきたい。


 暁は家の鍵を開け、中に入る。


「親父―。立花君たち連れてきたよー」


 中からは返事が無い。


「誰もいないみたい。親父は大学かなぁ……土曜日でも行っていることがあるんだ。道場の時間までには戻って来るから、その時に改めて紹介するよ。さあ、上がって、部屋は三階」


 遠野教授の家は、忍者の頭領の家とは思えないような今風の内装だった。


「どんでん返しとか無いの?」


 そうそう、忍者屋敷と言ったら定番だよね。それに、掛け軸の裏には抜け道があるの。


「ぶっはぁー、いつの時代だと思ってんの、そんなの作っても外への抜け道が作れないよ。下掘ったら地下鉄だったとかシャレにならないからね」


 地下鉄に直接行けるのも面白そうだ。


「ここが俺の部屋。好きなところに座っていいよ」


 暁の部屋も洋風のフローリングで窓の下にはベッドが置いてあり、部屋の中央にはちょっと厚めの絨毯が敷いてあった。


 好きなところと言われたけど初めての場所だし、結局真ん中のテーブルを四人で囲んで座ることになった。海渡がいたら迷わずベッドに座って、お宝を探すんじゃないかな。


「そうそう、カインでこれが作れるか聞きたかったんだよね」


 そう言いながら立ち上がった暁は、ベッドに向かい窓の横の壁を触る。ピッと音が鳴ったかと思うと、スルスルと壁が動いて空間が出てきた。


「「「!!!」」」


 そしてその中から、少し大きめの箱を取り出し、


「これって作ることできるかな?」


 と、僕たちに聞いていた。

 暁は箱を開けて中を見せようとしてくれたんだけど、先に聞きたいことがある。


「ち、ちょっと待て! 普通に出してきたけど、あれ何? 壁が動いたぞ」


「ああ、これ。まあ、見てもらえばわかるけど、これって持っているのがばれたら大変なんだよね。だから、普段は見つからないところに隠しているんだ」


 改めて確認した箱の中身はクナイに手裏剣、それに少し短いけど刀もあった。どれも手入れがされていて、いつでも使用可能な状態だ。

 確かにこういうものを所持しているのがばれたら、警察のお世話にならないといけないだろう。


「どんでん返しは無かったけど、隠し部屋はありそうだな」


 竹下の呟きに僕は無言でうなずく。よく考えたらこの分厚い絨毯も怪しい気がしてきた。さすがは忍者の末裔。まだまだ、仕掛けがありそうだ。


「これが作れるかは僕たちではわからないから、凪に聞いてみる。ちょっと待ってて」


 鍛冶工房のことはリムンである凪がよく知っている。箱から武器を取り出してもらい、何枚か写真を撮って凪のスマホに送った。


「そうそう、もし作れるのならタルブクから連れて行っている子が作れるかも聞いて欲しい」


 凪に追加の質問も合わせて送る。

 預かっている職人の技術が足りているのなら、タルブクでも作ることができるからね。


「それでこういう隠し部屋とかはさ、誰に作ってもらったの? まさか、用が済んだら口封じとかしてないよね……」


 凪からの返事を待つ間、気になったことを聞いてみる。

 口封じとか勘弁してほしいよ、知ってしまった僕たちも危なくなってしまう。


「ここを親父が建てるときに建設会社の人に頼んだんだけど、口封じなんてしてないよ。なんでも昔からの知り合いらしくて、設計図に無いようなところも作ってくれるんだ」


 設計図に無いのって作ってよかったのかな、本当はダメなような気がするけど。


「なんてところに頼んだんだ」


 これから秋一さんの建設会社でアルバイトをする予定の竹下は興味があるらしい。


「いいけど内緒にしていてくれよ、迷惑かけちゃいけないからね。作ってくれたのは立花工務店さん……あれ、立花と同じだ」


 そこって確か。


「秋一さんのところだ」


 そうそう、風花のおじさんの秋一さんの会社だったはず。


「知り合いなの?」


 暁に風花のおじさんだと告げる。


「そうなんだ、あの社長さん秋一さんって言うんだ。気さくで感じのいいひとだよね」


 秋一さんは暁の家を定期的に訪れて、家の状態や仕掛けを確認しているらしい。他の社員に任せないのは、この家にいろいろと秘密があるからかもしれない。


 おっと、着信だ。


「凪からみたい」


『先輩すみません。みんなと一緒で気付くのが遅れました』


『いいよ、急ぎってわけでもなかったから』


『先輩寂しいですぅ』


 この声は海渡かな。みんなって言っていたから唯ちゃんと碧も一緒かもしれない。


『海渡うるさい! ごめんなさい。結論から言うと鍛冶工房で刀以外は作れます。ただ、タルブクの子はまだ無理です』


『ありがとう。楽しんでいるところごめんね』


『いえ、でもこの写真の光沢って本物ですよね。どうされたんですか?』


『あはは、少し長くなるからあっちで詳しく話すよ』


 さすがは凪、写真見ただけで本物かどうか見極めた。


「えーと、リムンによると刀以外は作れるけど、タルブクの子はまだ無理だって」


 凪にお礼を言い電話を切った後、暁に内容を伝える。


「うちの子がまだ作れないのは仕方がないとして、刀が難しいのか……。しょうがない、他のは作れるんだよね。お願いしていいかな」


「刀以外全部?」


「うん、全部。それと刀の代わりになるものが欲しいよね。昨日も大変だったんだよ、剣もなまくらしかなくてさ。盗賊には悪いけどかなり痛かったんじゃないかな」


 エキムのところにはカインのように切れ味のいい剣は無かったはずだ。スパッと切れずにズブっといったと思う。それも声を出させないようにだから首じゃないのかな……うぅ、ぞくっとしてきたよ。


「刀の代わりはカインで作られている剣でいいの?」


「刀が使い慣れているけど、背に腹は代えられないからそれでお願いします。でも、早いうちに刀を作って欲しいな」


 刀を使い慣れているんだ。それに作って欲しいと言われても……


「ねえ、竹下。凪はこれを見たら作り方わかるかな?」


 写真では無理でも実物を手に取ったらわかったりしないだろうか?


「うーん、難しいんじゃないの。なんか日本刀って西洋の剣と違う作り方だって聞いたことあるよ」


 確かに、西洋の剣は分厚くて真っすぐだけど、刀は薄くてっている。カインで作られている剣も西洋の剣をモデルにしたって竹下は言っていた。


「パルフィならどうだろう」


「パルフィならわかるかもしれないけど、持って行く手段が無いよ」


 そうなんだよね。パルフィと穂乃花さんが繋がっていたら、穂乃花さん見せたら済む話なんだけどね。


「凪に作り方を調べてもらって、それをパルフィに伝えるしかないじゃないかな」


 竹下の言う通り、できる範囲でやっていくしかない。


「仕方がないか。でも、ほかのは早めに欲しい。さすがになまくらしかないのは安心できない」


 明日の朝、テラでリムンたちにお願いして剣とクナイに手裏剣を作ってもらい。出来次第タルブクへの隊商を出すことで話は決まった。


『暁、帰ったぞ! お客さんか?』


 下の階から声が聞こえてきた。


「あ、親父が帰って来たみたい。みんなで行こうぜ」


 そろそろ3時になるので、部屋を片付け遠野教授のもとへと急ぐ。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

あとがきです。

「樹です」

「海渡です」

「「いつもお読みいただきありがとうございます」」


「あれ、海渡じゃない。どうしたの?」

「僕に了解もなく終わりになるとか信じられません。無理矢理このコーナーに出てやりましたよ。それにしてもそちらでは面白そうなことになってますね。姉ちゃんから写真を見せてもらいましたけど、忍者さんでもおられるんですか?」

「うん、まあね。詳しくは明日テラで話すよ」

「現代に生き残る忍者。たぎりますね。是非とも忍法を教えてもらいたいです。ニンニン」

「ニンニンはもうやったから。海渡もこっちで暮らすようになったら教えてもらえるかもよ」

「ニンニンが被っていたのは残念ですが、忍法は楽しみですね。受験頑張りますよ!それにしても作者の野郎、僕の出番を増やすどころか逆に終わらせるとか何を考えているんですかね」

「完結した後も追加エピソードをたまに更新するみたいだからそれに期待したら」

「それって、いつものように外伝じゃないんですか?」

「僕かソル視点ならこっちだと思うけど、どうだろう」

「こうなったら何が何でも絶対出てやります!」

「頑張ってね。それでは次回のご案内です」

「次回は久しぶりに少しですがテラのお話もありそうですね」

「あと3話です。最後までよろしくお願いします!」

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