第180話 俺も住んじゃダメ?

「ごめん、いろいろと止められなくて」


 目が覚めた暁はぐしゃぐしゃに泣いてて、そのまま僕に抱き着いてきたみたいだ。その後も涙が止まらず鼻水まで……


「いいよ。洗濯したら済むことだから」


 というわけで、今日も洗濯は竹下にお願いして、僕は朝ごはんを作っている。


 今朝のおかずは昨日スーパーで買ってきた魚の干物と納豆。それにスクランブルエッグに焼いたハムを添えて、ちょっとだけサラダも作った。もちろんご飯とみそ汁も忘れていない。


「すごい! こんなに手早く、それに美味しそう。樹はいいお嫁さんになりそうだね」


 テラではもうお嫁さんになっているけどね。


「お前、樹を口説くなよ。風花に殺されるぞ」


「く、口説いてない、口説いてない。風花いないよね」


 キョロキョロと辺りを見回す暁。

 心配しなくても大丈夫だよ。風花もそう簡単には殺さないよ……たぶん。


「今日は洗濯に時間がかかったね。どうしたの?」


「いや、昨日料理で油を使っただろう。服にそれが飛んでるの見つけちゃってさ、落としていたんだ」


 竹下は呉服屋を手伝ってたときに、ちょっとした染み抜きはお店でやっていたみたい。それにいろいろと衣服の手入れに関する知識を持っているようで、昨日の洗濯もかなり上手にできていた。

 干すときに洗濯物をパンパンと叩いているからどうしてか聞いてみたら、この方が出来上がりのシワが無くなるんだって。確かに夕方取り込んだ洗濯物にはシワがほとんど見当たらなくて驚いた。これならアイロンがけもそんなにしなくていいから助かるよね。




「樹ー、この納豆って食べないとだめか?」


 朝食も昨日の夜と同じように三人と一匹で食卓を囲んでいる。竹下は目の前の器に盛られた納豆に苦戦しているようだ。


「こちらでは納豆がどこに行っても出てくるから、慣れておかないと食べるものがなくなっちゃうよ」


 僕たちの地元では納豆を食べる習慣が無い人たちもいる。竹下の家もそうだったようで、子供のころからあまり食べ慣れていないらしい。この前の受験の時に夏さんの家で出されたときも、食べずに残してしまって怒られていた。


「そうそう、健康にいいんだから食べておけよ、こっちにはカルミル(馬乳酒)が無いんだからな」


 馬乳酒というのはほんとにすごい健康飲料らしくて、遊牧民の人たちが冬場全くと言っていいほど野菜を食べないのに元気なのは、これを夏にたくさん飲んでいるおかげかもしれないんだって。


「それに、今度大豆が手に入るんでしょう。そうしたら納豆を作るようになるからさ、僕たちが食べるお手本にならないとみんな食べてくれないよ」


「そ、そうだな、村の人たちにいいよって勧めて、その本人が食べきれませんじゃ説得力無いよな……」


 竹下は意を決したように、かき混ぜてねばねばになった納豆を口に運んでいく……


「くっ! この匂いと粘りが……」


 が、がんばれ!

 竹下は、鼻をつまみながらもなんとか納豆を口に運び、幾度か咀嚼そしゃくをして……


「あ、あれ? ……美味しいかも」


 その後竹下は器に残った納豆を口に入れ、食べていく。今度は鼻をつまむことなく。

 ……ここまでくれば大丈夫かな。食わず嫌いってあるからね。


「大豆か……シュルトでサルディンにお願いしていたよな。何をしているだって思っていたら、こういうことなんだな」


 納豆を難なく食べることができる暁は、最後に残した一粒を箸でつまみながら聞いてきた。


「うん、あちらではたんぱく質のほとんどを肉で取っているでしょ、それ以外のものも必要かと思って」


 大豆っていろんな料理に使えるし、乾燥させたら保存も効く。それに海渡がこうじを見つけたらお醤油やお味噌だって作ることができるかもしれない。






「ごちそうさまでした! 昨日の晩飯もうまかったけど朝ごはんもうまかった! 洗濯もなかなかの腕前だし、お前たちほんとすげえな。……俺もここに住もうかな」


 食事が終わり、みんなでお茶を飲んでいるときに暁が話し出した。


「お前んちすぐ近くだから、遊びに来ればいいじゃん」


「えー、めんどくさいよー。そこの部屋が空いているんでしょう。俺も住まわせてよー」


 暁が指さした先は海渡が住む予定の部屋だ。


「ごめんね、そこは僕たちの後輩が来る予定なんだ」


「残念。それじゃ、そこの部屋は?」


 居間と一続きになっている部屋は、カァルの遊び場所になっているけど……


「カァルどう?」


 お腹いっぱい食べ、満足した様子で横になっているカァルは、興味なさげに首を横に振った。


「ダメだって」


「うそ! じゃあ、たまに泊まりに来るのはいいでしょ?」


 それにはカァルも仕方がないといった風で首を縦に振ってくれた。


「よかったー。それじゃ週一で泊まりに来るから」


 週一は勘弁してもらいたい。せいぜい月一だ。


「それで、ここにくる子が昨日言っていた他の仲間なの?」


 この家に住む海渡のことと夏さんの家に住む凪のことを話す。


「リムンはあの時ユキヒョウのカァルと全力で遊んでた子だよね。夢で見ていてサーカスの猛獣ショーかと思っていたよ。ルーミンは……あー、あのおしゃべりで料理がうまい子だ!」


 リムンとカァルのじゃれ合いは話でしか聞いてないけど、猛獣ショーって……


「ということは、海渡君はリムンのこっちの人格なんだね」


「いや、海渡はルーミン。リムンは凪だな」


「驚いた。性別が変わっているのは樹と風花だけじゃないんだ。……それで、俺はこれから何に気を付けたらいいの?」


 僕たちは暁に僕たちが守るべきことを話すことにした。


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あとがきです。

「樹です」

「竹下です」

「「いつもお読みいただきありがとうございます」」


「大豆が手に入ったら、いろいろと作ってみたいものがあるよ」

「何を作ってくれるの?」

「豆乳、豆腐、納豆、きな粉。そして、枝豆を塩ゆでして食べても美味しいよね」

「え、枝豆って大豆なの?」

「……知らなかったんだ。大豆が未成熟のうちに収穫したものが枝豆。覚えておいてねこれから作っていくんだから」

「お、おう!」

「それと、豆腐作るためにはにがりが必要だから、何とか確保してほしいんだけど」

「にがりって海水からだっけ? ……一度は海を調べないといけないよな」

「まあ、命が大事だから、無理はしなくていいからね」

「了解! いつものようにできることから頑張るよ」

「よろしく! それでは次回更新のご案内です」

「次回は暁に繋がったことへの注意点を話します。とても大事な事なのでしっかりと伝えておかないと……」

「大事な事って何だろう? あ、それと皆さんにお知らせがあります。僕たちの物語『おはようから始まる国づくり』ですが、あと5話で本編が完結いたします!」

「えっ! 完結しちゃうの!?」

「うん、そのほかのエピソードは完結後も時折更新するみたいだけど、本編自体は終わるみたい」

「そっかー、あとちょっとなんだ……頑張らなきゃいけないな」

「うん、頑張ろう! 皆さんあとわずかですが、最後までお付き合いくださいねー」

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