第139話 学校帰りの集まり:竹下の部屋3

「そうなんですか。砂漠が広がっていっちゃってるんですね」


 翌日、学校帰りに竹下の家に集まった僕たちは、いつものように勉強しながら情報交換をやっている。場所はこれまでは持ち回りであちこちでやっていたんだけど、カァルが来てからは竹下の家一択だ。だって、カァルも僕たちの仲間だからね。


「川が枯れてしまって、その川を水源にしていた村や町が無くなってしまったみたいだね。砂が来ても誰も掃除しないから埋もれっぱなしになっているようだよ」


「僕たちが住んでいたところは、そこまで乾燥していないのでわかりませんが、盆地を抜けるとそんなに違うんですね」


 カインやルーミンたちが住んでいたビントの辺りは、夏場にほとんど雨は降らないけど、冬場はそれなりに雪が降る。そして春になると雪が溶けた後には草が生えるから、村にいながら羊や馬の放牧ができる。

 ユーリルたちみたいに乾燥地帯に住んでいたら、草を求めてそれこそ遠くのロシアまで移動しなければならない。過酷な環境のところに住むのは大変なことなのだ。


「それで建物はすでに壊れていたんですね。まあ、管理する人がいないのなら仕方がないか」


 元々、テラの建物はそこまで頑丈にはできていない。なんせ日干し煉瓦で作るから、割れて崩れることもたまにある。住んでいる人がいたら修繕することができるけど、いないとそのまま崩れっぱなしだ。


「それで、水が枯れた理由はわかりましたか?」


「さっぱり分からなかった。竹下は何かわかった?」


 あの辺りを通ったけど、原因になりそうなものは見つけきれなかった。


「山の上の方には雪が見えたんだよね。だから雪が降らなくて水が枯れたとは思えない。多分だけど、山のどこかでがけ崩れか何かで川がせき止められて、流れが変わったんじゃないかと思う」


「え、それじゃ、どこかに新しい川ができているんじゃないですか?」


「それは見つからなかった。でも、流れが変わった場所で地中に流れ込む場所があって、それがどこか違う場所で湧き出していることも考えられるから……。広範囲に調べないとわからないよ」


 ヘリとかドローンとか飛ばせたらわかるかもしれないけど、さすがに今のテラの技術水準じゃ再現することが難しい。


「確かに、パッと見てわかったら苦労しませんよね。それに、いまさら水が戻っても町に人は戻らないでしょうし」


 もうあそこまで荒廃が進んだら、元の建物が使えないから一から作る方が簡単だと思う。それに、いつ水が無くなるかわからない場所には、怖くて誰も住めない。


「もしかしたら、近くに新しく人が住める土地ができているかもしれないけど、それは誰かが探すだろう。俺たちはできることをやっていこうぜ」


 そうそう、私たちだけで出来ることには限りがあるから、やれることからやっていかないとね。


「それで先輩たちは温泉に行かれるんでしょう? 羨ましいです!」


「竹下、明日だっけ? 温泉に着くの」


「ええと……たぶん明後日じゃないかな」


 ん? なんか怪しいぞ……


「場所はわかっているんだよね?」


「実は行ったことが無いんだ。隊商宿で聞いた話を元に行こうと思っているんだけど……」


 ……このまま竹下に任せていたら、たどり着けないかもしれない。


「風花は知らないの?」


「ボクも話でしか聞いたことは無いよ」 


 カァルもそのあたりは縄張りじゃないからわからないと言った感じで、素知らぬ顔を決め込んでいる。


「まあ、明日行く村で聞いたら教えてくれるさ」


 うーん、下手すりゃ温泉の場所がわからないことも……楽しみにしていたけど覚悟しとかないといけないかな。


「おっと、ちょっと待って」


 着信があったんだろう。竹下はスマホを取り出して話し出した。


「……うん、わかった。聞いてみる」


「どうしたの?」


「カァルにお客さんだって、大丈夫?」


 そう言うとカァルは


「にゃ!」


 と言って、とことこと部屋のドアのところまで行き、上手にレバー式のドアノブに手をかけてドアを開け、部屋を出ていった……


「ち、ちょっと、いつの間にあんなことできるようになったの!」


「俺たちの様子を見て覚えたらしくて、いつの間にかできるようになっていたよ」


「すごいですね。それじゃ部屋の出入りも自由じゃないですか」


「いや、ドアノブ下げてドアを押すのはできるけど、今はまだ引くのはできないからそれは入れてやらないといけないな」


 それにしてもすごい。


「それでカァルは何しに部屋を出ていったんですか? お客さんって言っていましたけど」


「ああ、お店のお客さんがカァルに会いたいって」


「お店の? カァルに何の用だろう」


「カァルは、俺が学校に行っているときはよく店にいるらしくてさ、お客さんの相手をしてくれているみたいなんだよね」


「へえ、カァルの愛嬌ならさぞや人気でしょう」


「そうそう、つかず離れずなところもいいみたいで、毎日来てくれるお客さんもいるんだぜ。母ちゃんたちも売り上げも上がって大喜びしている」


「おー、リアル招き猫さんですね。こんなことなら無理してでもうちで飼うべきでした」


「もうだめだからな。カァルはうちのネコだから! やっと俺の膝の上乗ってくれるようになったんだから、いまさら渡せるか!」


 僕たちがいないときに寂しくしてないかと思ったけど、余計な心配だった。それにお店の手伝いもするとは、さすがはカァル、自分で居場所は確保したみたいだ。


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あとがきです。

「海渡です」

「竹下です」

「「いつもお読みいただきありがとうございます」」


「くぅー、こんなことならうちで飼っておくべきでした」

「さっきも言ったけど、もう渡さないからな。俺のネコだからな」

「そうなんですね。羨ましいです。しかし、カァルっていつもどっしりと構えていて猫っぽくないですよね。遊ぶことってあるんですか?」

「ま、まあな。遊ぶこともあるようだよ……」

「なんだか怪しいですね。ちゃんと遊んであげているんですか?」

『ち、ちょっとカァルやめてよ』

「樹先輩まだ帰ってなかったんですね。……先輩、カァル全力で樹先輩に飛び掛かっていってますよ……」

「うん、いいよね、あれ……」

「……先輩、いつかきっと体を駆け上ってくれますよ。それまでの辛抱です」

「うん、頑張る」


「「それでは次回をお楽しみにー」」

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