第76話 新たな洞窟 その6

後方支援で街の中を見張る役目は、私を含め20人いる。

若い男が多いが、年寄りの剣士も何人かいて指示を出している。通りに並ぶ店の前にも木でできた柵が用意されている。いつでも店を守れるようにしているのだそうだ。それと、店で働く人間も武器を用意していると聞いた。店の人間が戦うようなことにならなければよいが。


この街は塀に囲まれていて、出入りするための門がいくつかある。

門の他にも外につながっているものがある。地下の水路だ。下水といったか。以前ネズミの群れと戦った時に入ったことがある。水路は、私でもやっと通れるような小さなものから、人間が歩けるほどの大きさのものまでいろいろとある。こういった水路が街の地下にはたくさんあるのだ。大きな水路は街の通りの下を通っていて、広い通りの下には大きな水路、狭い通りには小さな水路があるのだという。


地下の水路は最終的には一本の大きな水路に集まって街の外に出る。塀の外に出るところには金属でできた格子があり、外から入ることはできないようになっているが、ここから街に入られるかもしれないので、見張りの人間が立っている。大きな下水道には人間が入って調べているそうだ。持ち場が下水にならなくてよかった。匂いが付くとベルナに風呂に入れられてしまう。


私の持ち場は人通りの少ない門のあるあたりだ。このあたりはこれまでに来たことがない。街の外にある農場から野菜とかを運び込むのに使われている門ということだ。この門に向かう街の通りは狭く、このくらいなら通りを飛び越えて屋根から屋根に移動できる。

私は屋根の上から見張り、一緒に行動する鍛冶屋の見習いテオ・レンツは通りを歩き建物の隙間とかをのぞき込んでいる。門には見張りがいるし、このあたりを見張ってもあまり意味はないような気がする。実際、初日は歩き回っただけで何もなかった。門の外でも何匹かの目撃情報はあったものの、特に何もなかったそうだ。


翌日は、初日に歩き回って足が痛いといっている人間も多かったので、交代で決まった場所を巡回することになった。私は夕方、教会の5回目の鐘が鳴ってから夜中まで担当する。門に行くと、街の外に出る荷馬車が並んでいるところだ。近隣の村から街に来ていた人間が帰るところのようだ。


並んでいた馬車がすべて街の外に出て門が閉じられようとしたところで、こっちに向かって走ってくる人間が見える。外で警備している人間のところに向かっているようだ。


「おい、ラバール門に向かう道で闘いが始まった!」

ラバール門というのは、この門とダンジョンの森に向かう門との間にある門だったか。確かここと同じくらい人通りの少ない小さな門だ。


「相手はどのくらいだ?」

警備していた人間がその男のところに集まる。

「少なくとも300!」

「くそっ、暗くなってから来やがったか」

「今、デニス門から救援に向かっているそうだ」

デニス門は一番大きな門で、広い通りに繋がっている。警備している人間も多い。

「この門も警備を固めるんだ。休憩中のやつらいたら全員呼び出せ。俺は他の門に伝令に行く!」

そういうと男は走り去る。

警備していた男の一人が休憩している奴らを呼びに走る。門の上で見張っている男にも呼び掛けている。

残っている男らは剣を抜いている。門は少し開いている。休憩している人間が門を出てから閉じるのだろう。さて、私はどうしたものか。持ち場は街の中なので、取りあえず戦いが始まったことをテオと一緒に報告に戻ることにする。それから、今は鎧を着た人間の姿で行動している。最初は鎧は付けずにいたのだが、ゴブリンと出くわした場合には危険ということで鎧を着るようにいわれたのだ。


後方支援舞台を指揮しているのは年寄りの人間だ。以前は憲兵隊で働いていたのだそうだ。

我々も戦いに行くのかと思ったのだが、後方支援の我々は街の中からは出ないそうだ。戦いが始まると、隙を見て街に入ってこられるかも知れないということで、より見張りをしっかりするようにとのことだ。休んでいる他の人間を呼ぶのかと思ったが、今はまだ侵入はされていないので、昨日と同じ体制で監視をするということになった。


ということで持ち場に戻ることにする。私は屋根の上、テオは通りを歩く。戦いが始まったという話を聞いて、街の店は木の柵で正面を守りだしたようだ。ラバール門の方向から音が聞こえてくる。人間の叫び声のような音も時々聞こえる。


その時、近くで人間の叫び声が聞こえてきた。方向としてはラバール門の方向だが近い。

見ると、人間が走っている。その向こうにいる小さい人間みたいなのはゴブリンじゃないか。街に入られたのか。


「くそっ、ラバール門が突破されたのか!」

テオが叫ぶ。

「300相手じゃ防ぎ切れなかったんだ」


「こっちに来るぞ!」

テオに呼びかける。ゴブリンが3匹こっちに向かって走ってきている。

テオは通りの真ん中で剣を構えている。3匹も彼に気づいたようだ。剣を持っているのが2匹、もう1匹は斧のようなものを持っている。鎧を着ているが胴体だけだ。足と腕はむき出しで頭にも何もかぶっていない。


足の速い1匹がテオに向かって突進してくる。2匹をずいぶん引き離している。

ゴブリンがテオに切りかかったところで、私は屋根の上からそいつの後ろに飛び降り、姿勢を低くして剣を地面に平行に振りぬく。

ゴブリンが叫び声を上げる。

私の力では足の切断はできなかったが、体勢を崩したゴブリンに向かってテオが剣を振り下ろす。剣は首のあたりに斜め上から入り、ゴブリンの血が噴き出す。

やった。

ゴブリンが通りに崩れ落ちる。倒れた背中に剣を突き刺すテオ。よし、1匹倒した。

振り返ると、残りの2匹が近くまで迫っている。1匹は私の方に向かってきたので、屋根に飛び上がる。こっちの方を見ているが、追いかけてはこない。どうやら跳躍力は大したことがないようだ。

もう一匹はテオが相手にしている。テオの最初の一撃は剣で防がれたようだが、体はテオの方が大きいためかゴブリンは跳ね飛ばされたようだ。私の方を見ている奴の体の大きさは私よりちょっと大きく、持っている武器は斧のような形をしている。


そいつの前、ちょっと離れた場所に飛び降りると、斧を振り上げこっちに向かって突進してくる。

私もそいつに向かって走り上に向かって跳躍、頭を飛び越え反対側に着地、すぐに振り返りゴブリンに向かう。こっちに体を向ける前に背中を剣で切り裂く。叫び声を上げるが、体をこっちに向けると斧を頭の上に振り上げ近づいてくる。

今度はそいつの右側に向けて跳躍。斧を私の方に向けて振り下ろしてくるが、私の速度に反応できず通りに斧を振り下ろすことになる。斧を引き上げようとしているところに剣を振るう。腕に剣があたり手ごたえがある。腕を切り落とすことはできないが、骨に当たった感触がある。ゴブリンは再度叫び声をあげる。


叫び声に反応したもう一匹のゴブリンが横を向く。そのすきにテオが突進し剣を振る。剣は腕に当たり、腕を切り落とす。テオは私よりも力は強いようだ。それとも私の剣よりも大きな剣を使っているので威力が大きいのだろうか。


手負いのゴブリン二匹を退治。この場はやり過ごすが、街の方からも叫び声が聞こえてくる。街に侵入したゴブリンは他にもいるようだ。


「これは援軍を呼んだ方がよさそうだ!」

テオが私の方を見る。

「ぼくは声がした方に向かう。ゴブリンが侵入したと報告してきてくれ」

「わかった」

私の返事を聞くと、テオは通りを走っていく。


屋根の上に登ると、周りの音がよく聞こえる。ラバール門の方向だけではなく、街の中心部からも叫び声が聞こえてくる。

どうやらかなりの数のやつらが侵入してきたようだ。外がどうなっているのか気になっていたが、それどころではない。

屋根に飛び上がり報告に向かう。

とにかく援軍を呼びに行かなければ。

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