第57話 例の男 その2
ギルド本部の会議室。
レブランの他に二人の人間がいる。
「シイラさん、こちらは今回一緒に捜査するカレンスとイルマです」
レブランが二人を紹介する。
「よろしく」
とあいさつする。
「カレンスです。よろしくお願いします」
若い男があいさつを返す。レブランと同じくらいの年だろうか。
「初めましてイルマです。ほんとだったんですねー」
私の方を珍しいものを見るようにじろじろと見ている。
「あ、やっぱり信じてなかったんですね?」
レブランがイルマと名乗った女の方を見る。
「はい。実際会うまでは半信半疑でした」
「うわさを聞いてましたから、私は信じてましたよ」
これはカレンス。
ライゼルではセドネスという中年の男がいてレブランのボスだと紹介されたが、紹介された2人は見たところレブランと同じくらいの年齢に見える。
「私たちはギルド本部保安部の同期なんですよ」
イルマがいう。
「同期、とは?」
初めて聞く言葉だ。
「ギルド本部で働き始めた時期が同じという意味です」
それでみんな同じくらいの年で若いのか。
「ここのギルド本部に、例のライゼルのお偉方とかと関わっている者がいるはずなんです」
レブランが説明する。
「関係しているのはある程度上層部のはずですが、誰が関わっているのかわからないので、私たちだけでやることにしたんですよ」
「私たち若手で調査しようということです」
イルマがレブランの説明を引き継ぐ。
「そうなんです。手帳を手に入れること、例の男の偽装自殺を公にできれば、と考えてるんです」
カレンスがさらに付け加える。
「悪いやつらを捕まえるということなら協力する」
と返事する。
「ありがとうございます!」
レブランがすぐに反応する。嬉しそうでなにより。
「まず、シイラさんに教えてもらった男ですが、調べたところ犯罪組織の一員で、殺人の罪で収容されていることになってますね」
「殺人ということはふつうは出てこれませんし、死刑になる可能性が高いですね」
これはイルマ。
「用が済んだら死刑になるのでしょう」
カレンスが肩をすくめる。
つまり、手帳を手に入れられたらこの男は今度こそ殺されるということだな。
「さて、シイラさんから有益な情報を得ましたが、どう進めるかですね」
「ちょっと気になるのは、その男が例の男だという根拠がフクロウと関係があるという点だけというところですが」
考え込む3人。
「あの男とフクロウにはこれまで二度会っている」
といってみる。
「フクロウを飼っている男はそういませんし、例の男の自殺当日から収容されていることから間違いないと思いますよ」
レブランがいう。確かに、確実にあの男という証拠はない。顔も良く見えなかったし。
「考えてもしょうがないので、行動あるのみです」
イルマが主張する。
「そうですね」
「確かに」
二人の男も同意する。
「で、どうやるかですが、あの男と手紙のやり取りはできそうですよね」
とカレンス。確かに。問題は、言葉の通じないフクロウにどう伝えるかだが。私が窓を叩いてみるという方法もあるか。
「とはいえ、取引材料が必要ですね。手帳のありかを聞いても教えてくれるとは思えませんし」
取引か。お金を出すとかだろうか。
「このままだと殺されることは彼も知ってるんじゃないかと思うんですよね」
これはイルマ。
「そうでしょうね。手帳のありかを教えないことで今まで生き残っているのでしょう」
カレンスがイルマの方を見ながらいう。
「となると、殺されないようにする、といえれば取引材料としては十分なんですが」
「彼は元々は暗号表の窃盗で捕まってますから、本来の罪なら死刑にはならないはずです。余罪は知りませんが」
「それは、我々下っ端がどうこうできるところじゃないんですよね」
レブランはそういうと腕を組む。
3人はあれこれ意見を出しているが良い手がないようだ。
「ライゼルではセドネスという男がレブランのボスだったが、こっちには協力してもらえるボスはいないのか?」
と聞いてみる。顔を見合わせる3人。
「誰が関わっているのかわからないので、声かけるのを
レブランが困ったような表情でこたえる。
躊躇という言葉は聞いたことがないが、誰に声をかけてよいかわからないということのようだ。
「ライゼルの時のように、怪しい人間が集まっているところに私が忍び込んで調べないとわからないということか?」
まだ何も頼まれていないので、聞いてみる。
「それもやりたいんですけど、時間がかかりますね」
レブランが手を
考え込む3人。
「ここは視点を変えてみますか。取引材料は我々では用意できない、となると、上の人間が取引せざるを得ない状況を作るしかないですね」
レブランが何か思いついたようだ。
「どういうことですか?」
イルマが質問する。
「つまり、自殺したと報告されている男が実は生きている、というのは秘密で隠されているわけです」
レブランが2人の方を見る。
「まあ、そうですね」
「ちょっと前に、ダンジョン3層のキャンプであった騒ぎを覚えてます?」
「ああ、泥棒騒ぎを発端に乱闘になったってやつですね」
これはカレンス。
「キャンプの食堂で長年使われていた鍋が割れたということで、そこで30年以上働いていたおばあさんの話には泣いてしまいました」
イルマが悲しそうな顔をする。そんなことがあったのか。
「それです。そのおばあさんの話、ギルド本部や広場に掲示されたのを読みましたよね?」
「なるほど。男の話をそこに掲載するということですか」
カレンスがレブランの方を見ながらいう。
「作ってるのはギルド本部ですよね。お偉方の確認も入りますし、難しいんじゃないでしょうか」
イルマが指摘する。
「本を印刷している会社に知り合いがいるんですけど、ダンジョンや街の出来事を定期的に印刷して売り出そうとしている人がいるんですよ。本のような形ではなく、本部の掲示のような紙1枚もので」
男が生きているということを文字にして誰もが読めるようにするということか。街の人間がそれを知ることと、例の男が殺されずに済む、というのがどうつながるのだろう。
「よさそうですが、それをきっかけに男が殺されたりしないですかね」
イルマが指摘する。
「確かに。お偉方はその男は死んだと思ってるわけですから」
これはカレンス。確かに、男が殺される可能性は高いように思う。
「そこで、シイラさんの出番なんです」
レブランが私の方を見る。イルマとカレンスも私を見る。
「その掲示が出るということを事前に男に伝えるんです。で、掲示が出た後で殺されることがないよう、我々に手帳のありかを教えてくれるよう頼むんです。殺されたら手帳が公になるよう手配済みだ、とその男が主張できるように」
「いくつか懸念点はありますが、その方法でいきますか」
カレンスが腕を組む。
「そうですね。それなら私たちでできそうですし」
イルマも納得したようだ。
なんともややこしいことをしている気がするが、悪いやつらを捕まえることになるなら私も賛成することにしよう。
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