第24話 新人冒険者の初仕事
久しぶりにギルド本部に入る。人が多くにぎわっている。
「誰か腕の立つ剣士はいないか? 10人募集だ!」
誰かの声が聞こえてくる。見ると2人の男を引き連れた身なりの派手な男が呼びかけているようだ。
剣士の格好をしたやつらが注目する。カイもその男の方を振り返る。
「やめとけ。あの手のは新人はいいようにこき使われるだけだ」
ギースが振り返ることなくいう。
「そういうものなのか」
カイが振り返る。
「ああ。剣士が複数集まるようなのは、たいてい偉そうなやつが何人かいて新人を下っ端扱いする。で、お前のような奴は生意気だってことで標的にされかねない」
ギースはカイの方を見ることなく説明する。
「最初は、そうだな、お前のような腕は立つが他の剣士とはうまくやってけないような奴に向いているのは護衛関連だな」
ギースが掲示板を眺める。
「それも規模の小さいやつだ」
「後はそうだな、討伐系で仕切るやつがいない個別に動けるやつとかだな」
ギースが壁の掲示を眺める。
「これはどうだ。ダンジョンで測量やってるやつの警備で、剣士2人募集だ」
カイが張り紙を指さす。
測量? この前、夜の酒場で話していた男が測量しているっていってたな。確かゴブリンだったか、とかを見かけたとかいう話だった。
「だが、測量は確か13層とか地図のないところでやってるんじゃなかったかな。初心者にはちょっと厳しいか」
ギースがつぶやく。
「これには10層と2層と書いてあるな」
カイが募集の内容を見ていう。
「12層までは公式の地図はあるんだが、ん? 10層と2層だって?」
ギースが改めて募集を見る。
「ああ、そう書いてある」
カイが指さす。
「10層と2層は横穴でつながっているんだよ。それを報告したのは俺だ」
ギースも近づいて張り紙の内容を読む。
「君が報告したのか? 横穴の件は」
横を見ると、男が立っている。こいつはゴブリンの話をしていた測量士の男だ。間違いない。
「ああそうだ。で、あんたは?」
ギースが男の方を見る。
「この依頼は私が出しているものだ。その横穴を調べようとしていてね」
男がいう。
「横穴を測量するのか?」
「そうしたいところだが、まだ方法がなくてね。今回は10層のどの横穴が2層につながっているかを調べるんだ。10層で煙をおこして2層まで届くかを確認する」
男がこたえる。
「10層と2層じゃあ離れすぎているが、いつどの穴から煙を送ったとか、どの穴から出てきたかはどうやって確認するんだ?」
ギースが質問する。
「持ち運べる時計を二つ用意して、時間を決めて煙をたくんだ」
男が説明する。
「時計? 教会の塔にあるようなやつか?」
時間を表示しているというあの丸い形をしたもののことだな。
「あれは大きいが、このくらいの大きさの時計がある」
そういうと男は両手を肩幅くらいに広げる。
「最初は横穴に大声で呼んでみようと思っていたのだ。距離はあるが、横穴は狭いし声が届くんじゃないと思ったんだよ」
男が楽しそうにしゃべる。
「よさそうじゃねえか」
ギースも同意する。
「ああ。声は届くとは思うんだが、途中で枝分かれしたりつながっていたりすると、どの横穴か区別が付かないだろうと思ってな」
「なるほど。で、2層と10層それぞれで警備が必要ってことか」
ギースが男に確認する。
「そういうことだ。私は10層、助手が2層で待機することになっている」
「まあ10層の方が危険だから、報酬はそっちの方が上になるのか?」
ギースが男に質問する。
「どうだろうな。煙を焚くと2層に毒ムカデやらを追いやることになるかもしれないから、相手にした魔物の種類や数に応じたものにする予定だ」
男が回答する。この前2層に行った際には、大量の大ムカデと巨大な毒ムカデで大変な目にあった。
「なるほどな。まあ妥当なところだ」
ギースもその説明に納得したようだ。
「興味深いな。ダンジョンは初めてだが、この街に来たからにはダンジョンはいつかはいかねばならない」
カイも興味を持ったようだ。そうか、カイはダンジョンは初めてなんだな。
「じゃあ、俺も参加して2層と10層で別れるか。初心者がいきなり10層ってのはどうかと思うし..」
「私が10層に行こう」
ギースが話すのを遮るカイ。カイが行くなら私も10層とやらに付き合うか。
「大丈夫か?」
ギースがちょっと心配そうだ。
「みゃあ」
私がついていくから大丈夫だ。
「ん。猫も10層に行くってよ」
ギースは私の言葉がわかるのか?
「そうだな。ダンジョン自体はこの測量士は経験が豊富だろうし、大丈夫かもな」
ギースが測量士の方を見る。
「測量士のおっさん、この猫も連れて行くといい。こいつは人間の言葉がわかるし、同じサイズの人間にも変身できる。横穴にも入れるから何か役に立つはずだ」
ギースは私の方を指さしながらいう。
「みゃあ」
その通りだ。
「ほう。それは興味深いね」
男がしゃがんで私の方を見る。
「それに君はそうだな、姿は立派だがまだ若いようだ。ダンジョンは初めてとのことだが大丈夫かな?」
次にカイの方を向いて頭から足の先まで見ているようだ。
「私はカイ・メットブラム。ヴァンストレーム領、領主カリン・メットブラムの三男だ。剣術は子供のころから鍛えられている」
カイが自信満々な感じで返答する。
「俺は、ギース・ストランド、どこかの領主の息子ってわけじゃない普通の剣士だが、横穴がつながっていることを報告したのは俺だ」
ギースも自己紹介する。
腕を組み、ちょっと考え込むようなしぐさの男。
「そうだな。では君たちにお願いするかな」
ギースとカイ、それに私の方を見る。
「私はラルド・セブノワ、測量士だ。これまで14層までは何度も遠征しているし、同行者で死んだ者や大けがしたものはいない。だが、これだけは約束してくれ。ダンジョンでは私の指示に従うこと」
「承知した」
「わかった」
「みゃあ」
私も了解した、と伝える。
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