第9話 JKとOJの共同戦線

1週間ほど留守にしていた千久良の部屋にまた帰ってきた勇乃進は、千久良の部屋がなぜか我が家のように落ち着いた。変な話だ。勇仁の家は自分の孫の家なのだが。


「お帰りなさい、勇乃進さん」

「ただいま」

「どうでしたか? ご自分の子孫のお家は?」

「ああ、良かったよ。だが、誰とも話せないのが辛かったな。お前とは話せる。それだけでここは落ち着くよ」

「そうですか、歓迎しますわ」


 翌日も幽霊を伴い登校した千久良は、傍から見ると、独り言をブツブツ言っているようにみえた。


 早瀬さんと近づいてきた同級生が訝しそうに問いかけた。


「早瀬さん、最近、独り言ブツブツ言っていること多いけど、大丈夫?」

「うん、ああ、授業の反復をしているの!」

「そうか! だから早瀬さんて成績優秀なんだね!」

「ああ、まあ……」


 ふ~、危なかった。あんまり学校で幽霊の藤原勇乃進と話していては訝られる。千久良は自重した。


「千久良は成績優秀なのか?」

「予復習を欠かさないだけです」

「なるほどな、偉いな。千草もそういうところは真面目だった。あいつは師範を目指してたからな」

「ひいおばあちゃんは教師だったんですか?」

「ああ、そうだ」



 勇乃進は、千草の話をするときにことの他優しい瞳をする。本当に愛していたのだ。愛しあっても結ばれないことがあった時代に生きていた。


 千久良は、藤原勇仁に入学以来憧れ続けていた。だから、藤原勇乃進を見た時、幽霊だとすぐ分かったがあまりにも勇仁にそっくりだったので、幽霊である怖さをすっかり忘れて話しかけた。そして、やはり先祖だと分かって心が躍った。本人じゃないのは分かっていたが、そっくりさんでも一緒に過ごしたり自分に目を向けてもらえるだけで、胸が高鳴ったのだ。


 それどころか、勇乃進は、勇仁を手に入れろ、これは運命だと言って指南役を買って出てくれた。そのおかげで勇仁と話すことができた。デートもしたのだ。



 でも、だからと言って恋人と呼べる関係になったとは言い難い。女の子としては、やはり彼の方から告白してほしい。自分から食い気味に行くのはちょっと癪だと、千久良はぐずぐず思った。


「あの、勇仁さんは、お付き合いしている人っていないようでした?」

「おお、1週間ほど観察したがな、女と会ってる様子も、スマホとやらで親密に話している様子もなかったぞ」

「そうですか……」

「おお、嬉しそうだな? 自分の入る余地があると思ったか?」

「ええ、でも、やっぱり、勇仁さんから告白されたいというか……」

「お前、令和の新しい女だったら、自分から食いついたらどうだ?」

「でも……」

「なんだよ、あんなに俺に古臭いと噛みついたくせに」

「そうなんですけど……私も女の子の夢を見るというか……」

「女はいつの時代も、勝手で複雑だな」

「ええ、ほんとに!」


 少女と幽霊は顔を見合わせて笑った。二人の勇仁攻略作戦が再開した。

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