第8話 ちょっと進展!

「君って面白い子だね」

「あ……あの」

「アイスクリームを奢るよ、一緒に帰ろう」

「あ!はい!」


 勇乃進が木の上で感慨に浸っている。


「俺は、千草が家を継がなくてはいけないと俺に告げた日、それに抵抗さえしなかった。前から親父さんに、跡取り娘だからやれないぞと言われていたからだ。でも、もしかしたら、千草は、俺に駆け落ちしてでも連れ去ってほしかったのかもしれないな。だから、あの生き写しの娘は、家に縛られることにこんなにも抵抗し、怒りを露わにするのかもしれない」


 勇乃進は、昔の自分達にそっくりな勇仁と千久良がアイスクリームを舐めながら談笑する姿に目頭が熱くなった。


 自分とて、時代が許せば千草と添いたかった。好きなのに別れざるを得なかったあの時の痛みが100年の時を超えて胸に迫ってきた。


 俺は、意気地がなかったのだろうか? あれほどに惚れていた千草を、千草の家が継承されることのために諦めた。男だったら、愛をとるべきだったのか? 


 屈託なく笑いあっている二人を見つめていると、胸が疼いた。あれは、千草に生き写しだが、千草ではない。彼奴も俺に生き写しだが俺ではない。俺が人生をやり直せるということではないのだ。そう思って勇乃進は苦い後悔に駆られた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る