人類の天敵と皇子
Side フィア・バハムス
僕は復興が急速に進みつつある学園でソフィア姉さん――もとい、ソフィアの体を乗っ取っているゼレーナと会話する。
内容は世間話――ではなく、今回の戦いの裏側についてだ。
「知っての通りソフィアはグラン・バハムス――お前の父親の手で異世界に飛ばされ、私の元に辿り着いた」
「ええ、そう言う話でしたね」
再確認するようにその事を話すソフィア。
「その後はまあ、お前の死っての通りだ。ソフィアの記憶を読み取り、この世界の存在を知り、そしてグラン・バハムスの召喚魔法に介入して規模を拡大し、この世界を巨大な並行世界の交差点にして現地住民を家畜にするつもりだった」
「一つ分からない事があるんですけど」
「なんだ?」
「どうして召喚魔法を使うタイミングが分かったんですか?」
召喚魔法に干渉して事態を拡大させたと言うのは分かった。
だがそのタイミングがどうして分かったのか謎だった。
「あの男――グラン・バハムスが何度も渡航実験を何度も繰り返したおかげでこの世界に――君達で言うところのスパイを送り込む事に成功したからだ」
「え、じゃあそのスパイは――」
「スパイと言っても小さな虫のような物だ。それにこの世界は魔力と言う精神エネルギーに頼った世界なのも幸いした。これが科学寄りの世界なら発見される恐れがあった」
「そんな事をしていたんですね」
「我々もやってる事は酷いが、グラン・バハムスも相当ではないか。まあ我々の介入やこの世界に自衛隊が現れなくても、計画通りに事が進んでいてもグラン・バハムスの野望は頓挫していただろうな」
「緋田さん達の世界への侵攻計画ですね」
「人の野心とは計算では測れない物らしい――この世界の支配に飽き足らず、様々な世界への侵略を考えていたようだ。我々ゼレーナと何が違うんだ」
「それを言われると――」
ゼレーナも酷い生態をして居るが自分の父親のしでかした事、した事を考えると強く言い返せなかった。
「調べによると不老不死にまで手を出そうとして、人体実験までやらかしていたようだ」
「本当にあの人は何処まで欲深いんだ……」
思わず僕は頭を抱えた。
同時にクーデターを引き起こした事をアレだけ悩んだ事に対して馬鹿らしくなってきた。
「我々ゼレーナだがこれから先、人ゼレーナと言うべきか……人になってみようと言うゼレーナは出てくる筈だ。いわゆるシンギュラリティポイントのような物が発生するとは思わなかった」
「シンギュラリティポイント?」
「技術的特異点――科学技術が発達すれば将来こうなるだろうと言う人間の考えだ。AI――人工知能何かがその代表例だ」
「ちょっと難しく良く分かんないですけど、自衛隊の人達が使っているロボットやドローンとかの事ですかね? 人が乗ってないパワーローダーみたいな兵器とかを動かす脳に当たる部分と言うか」
「概ねその認識で間違いがない。まあ自衛隊が使っているAI技術は別世界の物だがな」
「荒廃した世界とは聞いていますが――」
「我々ゼレーナのグループの中にフォボスと呼ばれる存在と戦争をして痛み分けしたグループがいたようだな」
「フォボス?」
「荒廃世界の支配者だ。緋田 キンジ達が破壊したらしいがな。フォボスについては彼らに聞いた方が早いだろう」
「は、はい」
「フォボスは我々と似た生態の集団だ。その本体があの荒廃世界にいるとは思わなかったがな――私も何度かやり合った事がある」
「緋田さん達、そんな恐ろしい奴と戦って勝利したんですか?」
「まあ運もあっただろうがな」
緋田さん達の異常な強さの秘密が分かったような気がする。
「だが同時に不安でもある」
「え?」
「ゼレーナにも色々と考え方がある。それにフォボスが本当に全て機能停止したとは思えないからだ」
「つまり――ゼレーナの過激派が動いたりとかフォボスの残党がいると?」
「概ねその認識で間違いない。軍事力は備えておけ。他の世界にもフォボスやグラン・バハムス、ゼレーナのような奴がいないともかぎらん」
「はい――」
会話の内容はまるで暗雲を予感させるようなものだった。
それでも守り抜くんだ。
それが僕に出来る、クーデターを引き起こした責任なのだから。
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