第九話「新たな出会い」

 Side 緋田 キンジ 一尉


「村を捨てる?」


 日が暮れてきても村での自衛隊による救助活動が進む中、俺は村長の決断を聞いて一瞬耳を疑った。


「君達が必死に戦ってくれたのには感謝しているが、帝国軍に目を付けられた以上はどうなるか。それに村もこの有様では生活する事もままならん。こうなってしまった以上は村を捨てるしかない」


 との事だった。


(どうする? 止めなくていいのか? それとも保護するか?)


 キョウスケが当然の事を言ってくるが――


(ここは日本国内じゃない。戦地だ。自衛隊基地の近くに難民のための施設を作ったとしても攻撃目標になる。あの世界とは勝手が違うんだ)


(確かにな――)


 あの世界では一般人の武装が下手な自衛官よりも凶悪だった。

 ガトリングビーム砲とか戦車とかバリバリにチューニングしたパワーローダーで武装した猛者たちなのだ。

 この世界の普通の住民と比べるわけにはいかない。


 まあ本音を言えば放っておけないのだが、逆に付き纏うと攻撃の巻き添えになりかねない。難しいところだ。


 最終的な判断は村長たち次第だろう。


「これからどうするの? キンジ?」 


 ここでリオが尋ねてくる。


「想像以上に戦闘が激しかったからな。補給しないと――」


 この世界は電波干渉があるので、補給要請は早め早めにしとかないと物資が不足してしまう。 


「機影確認!! 反乱軍です!!」


 などと考え事をしていると自衛隊の隊員が慌しくなってきた。


「反乱軍って事は味方だよな?」


 確認するようにキョウスケが言ってくるので俺は「ああ――そうみたいだ」と返しておいた。



 反乱軍のリーダー。

 フィア・バハムスとその部隊だった。 

 

 白髪の中性的な美少年。

 黒と白のボディスーツ。


 白いドラゴンのようなマジックメイル。

 金色の一本角。

 

 画像で観た通りフィア・バハムスの特徴と一致している。

 

「で? フィア・バハムス皇子? 何しに来たんですか? もう戦闘ならとっくに終わってますけど?」


 と、俺はちょっと棘を含んだ言い方でフィアに接する。


「すみません。もっと早くに来れたら良かったんですが――戦況は余談を許さない状況で各地で帝国軍以外にも未知の勢力が暴れている以上、放っておくわけにはいかなくて」


「……そうですか」


 そう言われたら納得せざるおえなかった。

 現にヴァイパーズの残党が何故かこの世界でのさばっているのだ。

 これは撃ち漏らした自衛隊の責任でもある。

 

 そう思うとこの世界に関して責任感や罪悪感のような物を感じた。


「それで用件は?」


「この村の救援もあるんですがジエイタイの手を借りたくて――」


「内容によりますね。一緒に帝国軍を攻め滅ぼしましょうなんて言うのはもっと上の方に掛け合ってください」


「違います。異世界に通じる門です。何処に通じているかは分かりませんが奴達はそこから異世界に攻め入るつもりです」


「はあ!?」


 思わず俺は素が出た。


「失礼――その情報は確かなんですか?」

 

 気を取り直して俺は確認をとる。


「はい。仲間達がそれを防ぐために頑張っていますが一刻の猶予もない状態です」


 まさかまさかの急展開である。

 地球か。

 あの荒廃した異世界か。

 ヴァネッサの世界か。

 はたまた自分達の知らない世界かは分からない。 


 だが見過ごすにしてはとんでもない情報だった。


「どうするんだ?」


 キョウスケが判断を求めてくる。


 俺は「一先ず上の方に判断を仰いでくる」と言っておいた。


 現場の判断で決めるにしてはとんでもない内容だからだ。

 この世界に跳ばされてきた狭間駐屯地の司令官に話を通しておくべきだと思った。



 トレーラーからあの荒廃した世界で手に入れた純白の大型飛行機械、アルバトロスと言うレーダーレドームを背負った飛行機に乗り変える。


 これに乗るのはヴァイパーズの陸上戦艦に殴り込んだ時以来か。(第一部:第五十六話「陸上戦艦制圧作戦」参照)


 補給物資、荷物の搬入作業を終えて場所のチェックを行っている段階だ。


 フィア皇子はと言うと横になって休んでいた。


 傍で守っているのはリオと同い年ぐらいの女の子でボディスーツを着ている。 

 彼女もマジックメイルの装着者なのだろうか。

 長い金髪の美女。

 気高い騎士然とした佇まいだ。


「私に何か?」


「いや、皇子様疲れてるのかなって」


 そう言うと彼女は悲しそうに「はい――」と言った。


「度重なる連戦や異世界の今の騒動でクーデターは想定外に長期化してしまい、兵士達を鼓舞するために彼方此方で連戦を重ねている状況です」


「そうか。やらしい対応しちまったな」


 何だか荒廃世界と関りを持った初期の頃を思い出す。

 装備もまだ貧弱で一日何度も襲撃があって、それが毎日のように続いて――そう思うと何か悪い事をしたなと思う。


「申し遅れました。私はセシリー・ゴルディアーナ。セシリーとお呼びください」


「じゃあセシリーさん、教えてくれませんか? この国の事とかクーデターの事とか」


 ある程度の事は聞いてるがどうしても色んな人間から話を聞きたかった。


「分かりました。私の知る範囲の事を語ります」


 そう言って彼女はこの国で起きている事を話し始めた。 


 

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