変化する日々

第十七話「帰投」

 Side 緋田 キンジ


 第7偵察隊は引き続き現地に残り情報収集。


 俺達、第13偵察隊は自衛隊基地に、いったん帰還することになった。


 リオとパメラ、パンサー達は引き続き護衛やアドバイザーとしてくっついてくる事になった。


 周辺情報の整理などもあるが、現状把握も大切だ。


 シップタウンから離れ、パワーローダーや武器などを仕入れたトレーダーの集会所を経由する。


 そこでも自衛官達は大人気だったようだ。


 そしてさらに北へ――グレイヴフィールドの中に戻る。


 自衛隊だけでなく、トレーダーやキャラバンの人間とすれ違う回数も多い。


 戦闘が不自然なぐらいにない。


 首を捻りつつも自衛隊の基地の近くに行くにつれてその理由が直ぐに分かった。


「なんじゃこりゃ・・・・・・」


 なんと自衛隊基地の直ぐ近くの廃墟を中心に人が住み着いているではないか。

 トレーラーが横並びになり、バリケードを作ったり、銃座を配置したりしている。

 住み着いた住民によると「自衛隊相手に商売」を持ち掛けているらしい。


 自衛隊は武器や弾薬、情報、武力を欲している。


 そしてこの世界の人々は水や食料だけでなく、生活必需品を提供してもらっているのだとか。


 自衛隊はPXを出張販売して物を売り買いしたりしているのだとか。

 

 テロリストも真っ青な、元の世界の現代戦車を容易に破壊できる重武装した市民達が住み着くと言う狂った状況下。


 基地内では早々にパワーローダーの纏まった数が配備されて訓練を行っている。


 現地の人間も指導や訓練として招かれていた。


 取りあえず俺は久々にクソ上司の顔を拝みに行くとする。



「ああ、帰ってきたのか。かなり派手にやったみたいだな」


 応接室で佐伯 麗子はソファーでグッタリしながら語りかけた。

 俺は一先ず「なにがあったんですか?」と尋ねることにした。 


「パメラ氏に言われた通り水や食料などで物や情報を得る作戦が上手く行きすぎたようだ。それで次々と雪崩れ込んできて――皆、自衛隊基地を壊滅させるレベルの重武装だぞ? 正直生きた心地がしなかった・・・・・・」


「ここ一応危険地帯ですからね・・・・・・」


「それにヴァイパーズ相手に大立ち回りして、戦後処理した話を聞きつけて――なんか騎士団とか言う連中も挨拶に来たりして――本当に大変だった」


「騎士団?」


「この世界の自警団らしい。なんか聖人みたいに崇められた」


「まあ嫌われるよりかは良いんじゃないですか?」


 佐伯 麗子は「それもそうだな」と言ってこう続けた。


「もうそろそろリビルドアーミーの連中が来るんじゃないかって上の方は待ち構えている状況だ」


「実は既に偵察達を送って様子見をしてるのでは?」


「それも考えている」


「で? 話はこれで終わりですか?」


「いや、こっからが本題だ」


「本題?」


「これまでの功績やこの世界での教訓を踏まえて、第13偵察隊、第7偵察隊は独立部隊として稼働させて権限を大幅に向上させる」


「うわ~厄介そう」


「君ならそう言うと思っていた。まあ、自衛隊としてドが過ぎない限りは自由に行動できる権限だな。現状を把握するためにも暫くこの基地に引き籠もってもいいし、今日か明日にでもシップタウンに戻ってもいい。戦闘行為も大幅に緩和される」


「大丈夫なんですか? 特に戦闘行為の大幅緩和部分――」


「勉強料が高くついてその料金の返済のためには批難、批判は覚悟の上らしい」


「らしい?」


「この世界にずっと居続けて分からないだろうが向こうの世界はこの世界の技術で未曾有の大混乱が起きている。世界のパワーバランスがひっくり返り兼ねない程にな。そのパワーバランスを巡って、パワーバランスを維持するために大国間同士で牽制し合っているのが向こうの世界の現状だ」


「レーザーやビームにプラズマ、レールガンに小型化した核融合炉とかですもんね」


 佐伯 麗子の説明は難しい。

 

 どうにか上手く噛み砕いて説明しよう。


 大国とか軍事国家とか:「日本が手にした技術を独占したい! だけどテロリストとか自分達に恨みがある国とかに渡ったら大変だ!! 一先ず協力して自分達の利益を確保するぞ! 時が来て隙を見せたら他の国を蹴落として独り占めするけどね!!」


 とまあこんな感じだ。

 日本は日本で、


 日本:「本当はこの世界の技術を独り占めしたい!! だけどそうすると外交圧力を掛けられて国が干上がっちゃう!! それはヤダだから非核3原則とか憲法とかある程度、度外視して分け前を言う通りに与えるから手を出さないで欲しいかな!?」


 とかこんな感じだろう。 


「ともかく、政治家連中も大国からの圧力と国民の機嫌取りで必死だ。それに一応はゲートの発生を探ると言う大義名分もあるしな」


「それはそれで厄介な事になりそうですね」


 佐伯は鼻で笑った。


「ここは剣と魔法のヨーロッパ風ファンタジー世界ではない。豊富な資源やら水が綺麗で緑豊かな大地とかそう言うのとかは縁がない不毛の土地だ。自国にこの世界のゲートをなんて考えもしないだろう。せいぜい核のゴミ捨て場か人間の流刑地ぐらいしか利用法はないだろう――まあ国によってはやりかねんがな」


「ノーコメントで」


「ともかくこの土地を独占するにしても関わり続けるにしてもリスキーだ。だが既に関わってしまった。だから上手く関わり続ける方法を模索しなくちゃいけない」


「佐伯一尉もヤキが回りましたね。そんな大役を自分なんかに務まると思います?」


「それぐらい追い詰められてる」


「まあ給料分はやりますよ」


 そう言って立ち去ろうとしたが――


「・・・・・・はっきり言っておこう。君はなんだかんだ言って根は善人だ」


「そんなんだと部下に嫌われますよ。佐伯一尉」


 遠回しに俺は佐伯 麗子の言いなり通りに。

 まるで愛国者の如く立ち回るようになると言うのだ。

 

 ・・・・・・だからクソ上司なんだよ、アンタは。

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