第十五話「シップタウン防衛戦」

 Side 緋田 キンジ


 俺たち第13偵察隊は南門。

 この町に訪れた時に戦闘した場所が北門だったので丁度反対側だ。


 宮野一尉たち第7偵察隊は町の中央のランドーマーク、陸上戦艦を中心に何時でも動けるようにしている。


 ちなみに南門に配置したのは、理由は色々とあるが――あのキーツさんの決定らしい。

 

 護衛と言う名の見張りの兵士までいる。


 外側の様子より自分達を監視している様子だった。


 ここまで露骨だといっそ清々しい物を感じる。


「て言うかあの爺さん、また北門に敵が来ると思ってるのか?」


 キョウスケが愚痴るように言うが――


「まあこっちに来る可能性もゼロじゃないんだ。言われた通りにしておこうぜ」


「とか言っといて本音はどうなんだよ?」


「敵の練度とか戦力、此方側の戦力を考えるとヘタに戦力を分散させずに、戦力を一カ所に纏めて一点突破した方がいい」


「なんだ。ちゃんと考えてるんじゃねえか」


「単純な数学の問題だ。100対100なら勝率は五十パーセント。だけどこっちは戦力を東西南北に四分割して100対25だ。こちらの勝率は低い。相手はそれを四度繰り返せばいい」


「分かり易い解説だな」


「さらにヘタな場所を攻めるよりかは勝手を知ってる場所を攻めた方が良いだろう。逆に先日のように包囲殲滅を目論んでるならそれはそれで楽に済む」


「・・・・・・イヤな予感してきたんだが」


「うん、俺も」


 その予感は当たる事になる。



 Side 防衛部隊 隊長 キーツ


『敵の猛攻が激しいです!』


『奴達、真正面から攻めてきやがった!』


『西ゲートも戦闘中!』


『東ゲートも手が離せません!』


『南ゲートにも敵が!』


(他のゲートの敵は囮。恐らくこっちが本命じゃろう)


 ゲートに攻撃が加えられて崩壊していく。

 敵の数が多い。

 戦闘ロボットや武装車両、パワーローダーなども含めると300近くはいる。

 近隣のヴァイパーズの総兵力だろう。


(このままでは突破される――!!)


 そうなればシップタウンは地獄だ。

 住民は殺され、奴隷にされ、全財産は奪われ、シップタウンがヴァイパーズの物になる。

 それだけは避けねばならない。


 だが敵の火力が激しくて反撃もままならない。

 どうすればいい?

 

 などと思っていたその時だった。


『なんだ――空飛ぶ乗り物?』


 このタイミングでリビルドアーミーかと思ったが突然ヴァイパーズを攻撃してきた。

 更に後方から町の住民達がパワーローダーや武装車両に乗り込んで駆けつけて来る。

 その中にはジエイタイと言うあの怪しげな集団も混じっていた。



 Side 緋田 キンジ


(隊の指揮は任せて北門に向かえ。あのジイさんの憎まれ口は嫌いじゃないんでね)


 と、キョウスケに南門の守りを任せて、俺はパワーローダー「フェンサー」を身に纏い、北門に向かった。

 更にリオと合流。

 パメラとパンサーは東門に向かったらしい。

 

 第7偵察隊も一部は西門に向かったようだ。


 問題は北門。


 第7偵察隊の観測班によると300はいるらしい。

 他の門は100と言ったところか。

 総勢600の戦力である。

 

 自分の考えを推し進めた上でそれを実行できる戦力を保有していて(本当に野盗連中なのか?)と驚いたものだ。


 先日、自分達の基地を襲撃したのと同じぐらいの規模である。


 他のゲートの部隊は陽動で北門の300の戦力で正門を押し潰してこの町を制圧する作戦なのだろう。


 駆けつけた時は事前工作――地球から持ち込んだ物資で現地住民を懐柔する作戦で傭兵として雇ったのだ。

 

 そしてリオも此方に来た。

 そういや無線渡してたな。

 恐らく傍受して此方に来ちゃったのだろう。


『そのパワーローダー、あの時の――』


 ドランタイプのパワーローダーから特徴のある声が聞こえた。

 キーツ隊長の声だ。


 俺は――


『キーツ隊長殿、命令違反の説教は後で! 今はこの場を乗り切るのが最優先ですよ!』


『ッ、すまん!!』


 と、すかさず返してリオと一緒に戦闘へ突入した。

 自衛隊の増援――ヘリ部隊も間に合ったようだ。

 

 ヘリ部隊もこの世界での戦闘で慣れてきたのか、一部が敵の攻撃を引き付け、機動力で相手を攪乱して残りがトドメを刺すと言う教科書に乗せたいレベルの連携プレイを取得している。


『調子にのるなよ! ヴァイパーズの恐ろしさはここからだ!』


『なんだありゃ!? 戦車か!?』


 敵の大将格が乗ってると思わしき戦車が現れた。

 それにしても大きい。

 普通の戦車の倍以上。

 

 陸を走る小型の戦艦と言っていいサイズだ。


 具体的に言えば全高五mはある。

 10式戦車で2m30cm。とあるアニメで猛威を振るった第二次大戦のドイツ軍戦車マウスでも3m60cmだ。

 主砲以外にも小型の砲塔がある。


 現代の地球では第二次世界大戦には廃れたタイプだ。

 理由は様々だが――この世界の軍事兵器だ。欠陥兵器ではないだろう。


『主砲の射線から離れろ!!』


 俺は嫌な予感がしてそう指示を飛ばした。

 少し遅れて相手の主砲が火を噴いた。

 正門の傍。

 バリケードで覆われている部分が抉れるようにして吹き飛んだ。

 

 バリケードの先の建造物も見事に抉れている。

  

 さらに複数ある副砲塔からはレーザーが雨のように発射される。

 周りの敵も勢いづいてきた。 

 

 火力は敵の戦車に集中しているが中々貫けない。


『どう言う装甲してやがんだ!?』


 この世界の驚異的な――文明が崩壊する以前のテクノロジーに舌を巻く。

 履帯(キャタピラ)や砲台も頑丈だ。


『ダメ、生半可な火力じゃ通用しない。高出力のレーザーか、ビーム、プラズマ――あるいはレールガンとかじゃないと!!』


 リオの言う通りなのだろう。

 手持ちの対パワーローダー用の火器では通用しない。

 戦闘ヘリ部隊のミサイルも撃ち落とされたり、直撃してもピンピンしている。

 とんだ化け物戦車だ。


『どうにかして近付いて――せめて周囲の敵や副砲だけでも破壊してくれれば――』


『分かった』


『分かったって――どうするんだ?』

 

 リオは叫ぶ。


『皆聞いて!! このままだとあの戦車に全滅させられてしまう!! だからお願い、周囲の敵や副砲を引き付けて!! ジエイタイの人が何とかする!!』


『なんちゅうこっちゃ・・・・・・』(*←緋田キンジ)


 なんか俺達二人であの化け物戦車をどうにかする話の流れになってるぞ。

 化け物戦車は主砲を副砲を連射して他の敵と一緒に大暴れしている。

 戦闘ヘリ部隊も一時退避している。


 入れ替わるように援護射撃が始まった。

 指示通りに副砲や他の敵に対して猛烈な射撃を行っている。


『あーもう!! やってやんよ!!』


 俺はヤケクソ気味に空中へブースターを噴かして飛翔。

 後にリオが続く。

 続いて急降下。

 

 戦車の後部に着地する。

 狙う場所は編み目の熱い部分。

 そこかしこで熱された温風が吐き出されている。

 

『やっぱりラジエーターを狙うつもり!?』


『それしか方法はない!!』


 5mの巨大なサイズで動力はたぶん核融合炉なんだろうが、冷却システムもそれ相応の物が積んである筈だ。

 それを早急に探し当てて破壊しないといけない。


『何を考えてるのかしらねえが!!』

 

『好きにはさせねえぜ!!』


 と、敵のパワーローダーが乗り込んできた。

 素早くリオがビームピストルで撃ち倒すが次々と乗り込んでくる。

 俺はその間に冷却部の破壊に挑む。

 

 と言っても暴発覚悟でそれらしいダクト部をパワーローダーの力で殴りつけて穴空けて銃口を差し込んで撃つだけの作業なのだが。 


『もう限界!!』


『離れるぞ!!』


 俺達は急いで離脱した。

 どんどん戦車が赤熱化し、彼方此方で火花やスパークが起きる。

 そして目映い閃光を放って周辺の味方(ヴァイパーズ)を巻き込んで大爆発を引き起こした。


『ぶ、無事か?』


『なんとか――』


 リオも俺も無事らしい。

 一瞬、爆発に巻き込まれて死んだかと思った。


 後ろを振り向くと軽くキノコ雲が出来ていた。

 アレじゃ近くにいた連中や巨大戦車の乗員も全員死んだだろう。

 シップタウンの人々も爆発の衝撃で死んだように横たわっている。

 本当に死んでないよな?


『キンジ!? キンジ!? 無事か!? 物凄い爆発が起きたぞ!?』


『生きてるよ――見事な爆発オチだ』


『たく――心配かけさせやがって――』


 と、キョウスケに言われた。

 あの爆発でもパワーローダーの通信機は無事だったらしい。

 

 徐々に敵、味方ともに起き上がりはじめる。

 そして敵は呆然として、味方からは大歓声が上がり始める。


 敵部隊は逃走を開始。

 ヘリ部隊も燃料が限界なのか帰投していった。

 

 そして始まる追撃戦。

 北門の被害は甚大であるが、あの戦車の事を考えれば不幸中の幸いだ。


 これから楽しい楽しい戦後処理の時間が待ってるんだろうなと思う。

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