その5②「勉強って、何?(綾波風)」
「ここってそれじゃあどうやるか、分かる?」
「……ぅぅ……じゃ、じゃぁ……ここのやつ……くくります、か?」
「あぁ、そうだ。そんな感じだよ! いいね、地味!」
「……っ⁉ は、恥ずかしいです……」
と、地味は言っていたのだが——実際のところ。
恥ずかしいのは、机を隔て向かい側に座っている僕の方だった。
いや、何を隠そう。
この——いや、あの胸。
おっぱいだ、あのおっぱい。
お前ら、分かるか今の状況?
教えてやろうか?
いや、ほんとは教えたくはないんだけど……まあこのまま心にとどめておいたところで僕が理性にうち負けて暴走する可能性があるから言っておこう。
「……な、なん、なんですか……?」
「え? あぁ……別に、いやぁね……なんでもないよ」
「……?」
おっと、危ない。
危うく地味の胸を凝視しているのがバレるところだった。
あ、そうだそうだ。忘れてた。
それで、なんで僕がこんなにも彼女の胸に興奮している……じゃなくて驚いているのかというと、端的に述べると——地味の胸が机の上に乗っかっているからだ。
真っ黒なブレザーからYシャツがはみ出んばかり、しかも皺がびーっと線が引かれて、もう……なんなんだ、あのパツパツなおっぱいは‼‼
重力によって机に押し付けられていて、地味が集中して前のめりになるともうこれがもう……(語彙力)。
だって、ぷるんって‼‼ ぷるんってなるんだもん! これは一端の男じゃ我慢ができない。というかできないが普通なのだよ、後輩共よ! ここにいる高校一年生、中坊の諸君は覚えていくように、女の子の胸は偉大なり。
エヴァのアスカも言っていたが……
「ほ、ほほ……ほんとに……なんでも、ないんですか?」
「——え?」
「さ、さっきから……前のめり、に……なって……」
「あぁ、あぁ‼‼ 別に違うんだよ? 全然違うんだよ⁉」
「ちが……う?」
「そうだ、大丈夫だ、何も問題はない‼‼ ほらな、とにかくそこの問題やってかないと」
「ぁ……す、すみません……うぅ……」
「良いから大丈夫だ! とにかくやるんだぁ‼‼」
「わわわ……あぁ……あいっ‼‼」
ビクビクと肩を震わしながら慣れない大声を上げて、黙々と教科書にある練習問題を始めていったのだった。
それから1時間後。
「……もしかして、おっぱいて正弦定理とか使って表せることできるのかもしれないなぁ……あ、いや……違う。おっぱいは地味のじゃないといけないからもっと下をふんわりさせないと……」
「にゃ、にゃにゃにゃ……にゃんて、にゃんて言ってるんですかっ⁉」
「にゃあ?」
「あ、いえこれは——その……違うというか、いや、そう言うことじゃなくて……お、おおおおお、おお、おぱ、おp、ぱぱぱぱ……おっぱいって……うぅ」
先程まで黙々とこなしていた教科書をその大きなカブ――じゃなくて大きな胸に押し当てて、口を淡淡させている地味。
いやいやと首を振っても、彼女は頬を赤くしながら若干の軽蔑の瞳を向ける。
「ちが、そういう話じゃない‼‼」
「で、でも……しっかり、この耳で……」
「そ、それは空耳だ‼‼ 僕はただ、その——む、む、ムスカ‼‼ ムスカの絵が描けるかどうかの話をだな‼‼」
「む……むす、か?」
「ああそうだ‼ ムスカだ、だからぼくはその……おっぱいの話なんてしてないぞ? 絶対に言ってないからな‼‼」
「……ほ、ほ……んとに?」
「ああ、もちろん‼ まさかそんな、僕がそう言うこと言うわけないだろ? な?」
「……ん、ぅん」
確かにと、地味は若干赤らめた顔を頷かせた。
危ない危ない、僕が地味の乳を揉みたい星人になるところだった。ここまで頑張って来たのに、それがたった一言で崩れるなど言語道断。絶対にダメだ。
静かで簡素な部屋に、地味の息遣いが聞こえる。
いやはや、こう見ると本当に綺麗だ。
長い真黒な睫毛、艶のある黒髪。
そして、大きな胸と、化かすようにつけている丸眼鏡。
何よりも綺麗なのはぷくっとしている桃色の唇だ。
しかし、だというのに。
なんて何もない部屋なんだ。
もっとこう、女の子らしいものの一つや二つあってもいい気がする。
「……ここは?」
「あ、あぁ……えっとP45の公式を使って————」
ふと目に映った教科書の兎キャラの絵。
「あ、そっか」
「……?」
「あぁ、いや。こっちの話」
「ん……」
そうだ、僕が今度買ってあげればいいのか。
ゲーセンにでも行って取ってみるのも……ありかもしれないな。
次回、ゲームセンターお二人様編
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