第63話 怪談の話(台本)
明転。
舞台は小さな部屋の中。
男1と女が机を囲んで座っている。
男1 ……どうも、皆さんこんばんは。
世の中には不思議なことって、あるんですよね。
今晩もそういった不思議な出来事をお話ししていきましょう。
女 ……。
男1 (ポーズをとりつつ)怪談の話をしよう。
女 なに、急に?
男1 夏だからな。
女 理由になってないよ。
あと怪談の話って、怪談っていうのがそもそも「怪しげな話」
っていう意味だから重複表現だよ。
男1 いいよ、そんなダメ出しは。
女 危険が危ないとか、パワー力っていうのと同じだよ。
男1 いいよ、具体的な例は!
女 で、何だって?
男1 怪談をしよう。
女 怪談ね。
男1 夏だからな。
女 さっきも聞いたよ。
扉がかすかに開いて人影が見える。
女、暫くぼんやりとみているが、やがてあっちへ行けと言うように手を振る。
人影、消える。
男1 どうした?
女 別に。
男1 誰かいた?
女 いない。
男1 ……実は、視える人、とか?
女 まあ。そんなふうに言えなくなくなくもないかもしれない。
男1 どっちだよ。
女 あれだよ。天井のシミが人の顔に見えたりするよ。
男1 それ、だいたいの人がそうだよ。
女 あ、そうなんだ。
男1 シミュラクラ現象って言うんだっけ。
〇が三つあったら人の顔に見えるってだけだよ。
女 なんだ、みんな視えてるのか。私だけかと思った。
男1 ないない、自分を特別扱いしすぎだって。
まあ、そういう気分っていうのもわからなくはないけどさ。
そういうのは基本気のせい--
女 あいつらたまに喋ったり歌ったりするよな。
男1 それはないな!
女 ん? みんな視えてるんだろ?
男1 顔みたいに見えたりするとは言ったけど。聞こえるとは言ってないよ?
「アイツら」とか……なに、その言い方……怖ぁ、マジもんじゃん。
女 ふうん。
男1 怪談をしよう。
女 さっきしたじゃん。
男1 したけどね。確かに怖かったけど。そんな不意打ち的なのじゃなくてさ。
女 仕方ないな……で、どんなの?
男1 この学校の七不思議はどうだろう?
女 七不思議ねえ。
男1 お前、そういうの視える人なら、七不思議の噂も本当がどうか知ってるんだろ?
女 ん~、まあ知ってるというか、何と言うか。
男1 よし。じゃあ、一つ目な。
「深夜に校庭を徘徊する銅像」
午前二時を回ると動きだし校庭を歩き回る二宮金次郎の像。
もしもその姿を目撃した場合、顔を伏せてすぐに逃げなければいけない。
なぜならば、二宮金次郎が本から目を離し、顔を見られてしまったら--
女 二宮金次郎像、三年前に撤去されたよ。
男1 マジで!?
女 うん、PTAからクレームが来たとかで。
男1 ああ、子供が歩き読みを真似したら危ないとかってヤツね。
そのクレームが怖いよなぁ。
なら、次、「十三階段」
女 怪談の話だけに?
男1 うるさいな。普段は十二段の階段だが、
気がつけば十三段になっていることがあるという。
さらにそこを上るとどこからともなく男のうめき声が--
女 あれ、ドMの男の霊。
気に入った女生徒が通るたびに階段の一番上に寝そべってるんだよ。
男1 うめき声は?
女 察しろ。
男1 …………もしかして、この学校の七不思議って
そんな変態ばかりだったりするの?
女 二宮金次郎は別に変態じゃないだろう。
男1 そうだけどさ。
女 まあ、いつの間にか持ってる本がSM雑誌になってたけどな。
男1 変態だ! え、もしかして撤去された理由ってそれ!?
女 そうじゃない?
男1 次、トイレの花子さん!
女 あー。
男1 またいなくなったとか、変態だったとかそんな話?
女 いや、さすがにそれはないんだけど。
男1 うん。
女 時代なのかなあ、おかっぱにつんつるてんのスカートは
ダサいと思ったらしくてさあ、イメチェンで萌えキャラになった。
男1 花子さんが!?
女 ロリータっていうの?
フリフリの服着て、理科室の骨格標本とユニット組んで
定期的にライブとかやってる。トイレで。
男1 トイレで!?
女 決め台詞は「お前を蝋人形にしてやろうか」
男1 うわあ……パクリだぁ……。じ、じゃあ、美術室のモナリザ。
女 あ~、あれね。
男1 ……なに?
女 モナリザでしょ? 額縁から飛び出す。
男1 ……うん。
女 太ったんだって。
男1 ……うん?
女 普段は頑張ってお腹ひっこめてるんだけど、
油断すると額縁から飛び出すんだって。腹が。
男1 もう……もう、どこから突っ込んだらいいか……。
女 あれだよ。3Dアートってやつ。
男1 絶対それは違う。次っ、理科室の骨格標本――
女 花子とユニット組んでる。トレードマークはメガネ。
男1 視力あるのかよ。
じゃあ、残りの体育館を夜な夜な駆け回る人影とか、
誰もいない音楽室から響くリコーダーの音とか、
全部そんなしょうもない感じなの?
女 まあ、おおむね。
男1 まじかよぉ……。
…………あれ、て言うかこれで七不思議全部じゃね?
女 ううん、六つ。
男1 え、だって、二宮金次郎だろ、十三階段だろ、花子、骨格標本、
モナリザ、体育館の人影、音楽室のリコーダー。
女 二宮金次郎は脱落。
男1 あ、そっか。なら六つだ。……あと一個ないの?
女 さあ?
男1 ん~、まあ、七つ知るとよくないことが起こるっていうからな。
これで良しとするか。
女 いいんじゃない。
男1 いや~、不思議なことって、やっぱりあるモノなんですね。
それでは本日の不思議なお話は、これまで。
さよなら、さよなら、さよなら。
暗転。
明転。
女独りだけ。
扉が開き、男2が入ってくる。
男2 あのう……終わりましたか?
女 ええ、今年はこれで終わりです。
男2 ありがとうございます。
女 ええ。
男2 すみません。毎年。
女 ……いいですよ。ただ話を聞くだけなら可愛いものだし、
それに、元同級生ですし。
男2 はあ……。
女 ……七不思議を知ったらよくないことが起こる、か。
女、机に花を供える。
暗転。
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