第38話 肩に

 大学時代のこと。


 始めて独り暮らしをしたアパートでは、夜の十時に椅子に腰かけていると肩を叩かれることがあった。


 トン、トン、と。


 振り向いても当然誰もいない。


 気味は悪かったが、気のせいで済ませているうちにいつしか慣れてしまった。


 ある日、親戚の家族が遊びに来た。


 夜、五歳になる姪がゆらゆらと上体を揺らしながら、椅子に座る私の頭上を見つめている。


 どうしたの、と問いかけると、彼女は中空を指差して言った。


「その人、ぶらさがってなにしてるの?」

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