第15話 コンコン

 床下から音がする。

 私が住んでいるのは古いアパートの二階。

 だから下の生活音が抜けてくるのは仕方がないことだ。


 けれどガサゴソと人が動いているとか、会話が聞こえるわけじゃない。

 そういう意味で下の住人は至って静かだ。

 ただ、コンコンと、何かをぶつけるというかノックのような音が響いてくる。

 たぶん私の生活音が一階に響いていて、その抗議なのだろう。


 だから私はさっさと引っ越すことにした。

 大家や下の住人と話し合うとか生活をあらためるのは面倒くさかったし、更新期限が近づいていたのでタイミングもよかった。


 新居はロフト付きのワンルームにした。

 家賃は張ったが鉄筋コンクリだから防音は十分だ。


 なのに床下から音がする。

 コンコン、コンコンと。


 とんだ不良物件だと不動産屋に文句を言った。

 しかし、そんな小さな音が響くはずがないと取りつく島もない。


 一向に下からの音は鳴りやまない。

 夜になると枕元を狙ったように耳のそばから響いてくる。


 私はロフトで眠ることにした。

 それでも音が聞こえる。

 


 唐突に不動産屋の言っていたことを思い出した。


――そもそも下の階は空き室ですよ。


 そういえば、前のアパートもいつからか下には誰もいなかったんじゃなかったっけ?


 コンコン、コンコン

 だんだんノックの音が強くなっている気がする。


 怖くて下を確認できない。


 何かの気配がする。

 ソイツは私の真下にいる。

 ロフトの床板にべったりと張りついて、コンコンとノックをしている。


 息遣いが聞こえる。

 音は鳴りやまない。


 誰か


 たすけ

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