第344話 身内感覚

ざいえんからの連絡に俺は話を聞いてやると、勝手に約束してしまった。

この件は、上手うまく桃代に説明しないと、また不機嫌になる。


受話器を置いて振り向くと、桃代の眉間にはすでにシワが寄っていた・・・相変わらず察しの良いことで・・・。


さて、どうしよう?【警察に協力するのは国民の義務ですよ。】なんて言えない。

言えば、【間違って手錠を掛ける、変死体を見つけて通報すれば犯人扱いする、そんな奴らに協力する義務はない!】なんて、俺が桃代に怒られる。


「紋次郎、今のはざいえんからだよね。明後日あさっての午前中、ここに来るのね。わたしも同席するから、ひとりで対応しないようにしなさい」


桃代が仕事で不在の時に、話をするつもりでいたのだろう・・・ざいえんのヤツ、可哀想に、当てが外れたみたいだ。


「ねぇ、紋ちゃん。【見つけた時の状況】って、言ってたけど、それって二年前の【マネキン人形に本物がざっていた事件】の話ではないの?」

「なんだ、その訳のわからん事件名は・・・でも、そうらしいぜ、まだ犯人が捕まってないってよ」


「今更、何を聞きたいの? もしも、紋ちゃんをまた犯人扱いしたら許さないからね。ペナルティを科してやるわ」

「また変な事を言い出した。オイラのような平民が、警察にペナルティを科せる訳ないですぜ」


「あら、紋ちゃんは知らないの? グループ会社の真貝警備保障では、警察のOBを随分と再雇用してあげてるのよ」

「いいか桃代、そういうしがらみに俺を巻き込むな。話を聞いてやるくらい、如何どうという事はない!」


俺の強い口調で、桃代は静かになった。


まあ、強い口調ではぐらかした、だけなのだが、この状況でマネキンにざっていた本人が呼んでいる・・・なんて言えない。

イヤ、変死体が俺を呼んでる訳ではない。いくらなんでも火葬されてるはずだからな。きっとアレだ・・・って、誰だ? また幽霊か?・・・う~~ぅ、気持ちが重たくなってきた。


内緒話は済んだのか、桃代は楓と高校時代の話を始め、学校にかよったことのない苺とキーコは、二人の話を興味深く聞いている。

考えをまとめたい俺は、居間を出て自分の書斎に行くことにした。


廊下を歩き寝室に行く途中で、扉が空いたキーコの部屋の中の様子が見える。

りんどうが目を覚ました時に、閉じ込められたと感じないよう、扉を開けているのだろう。

何時いつでも自由に入っていいよ】キーコに許しを得ている俺は、りんどうの様子を見る為にちょっと中に入ってみた。


ベッドの上でスゥスゥと静かに寝息を立てるりんどうは、子供らしい可愛い寝顔をしている。

この顔を見て、どうして男の子だと、俺は思ってしまったのだろう?

そのままベッドの上に腰を掛け、頭を撫でてやると、眠っているりんどうの顔は、うれしそうな表情に変わった。


朝からゴタゴタ続きで疲れていた俺は、キーコの匂いが充満した部屋に、安心したのかも知れない、考えをまとめるのも忘れてりんどうが眠るベッドのはじに横になると、目をじてしまった。


時間にして10分くらいだろう、目をけると俺の胸の上に頭を乗せて、抱き付くような形でりんどうが眠っていた。

精神年齢が同じと思われてしまう所為せいなのか、俺は割と子供にまとわりつかれる。


りんどうがおおかぶさったところで、たいした重量ではない。

苦にもならない。

ただし、ベッドの横に桃代とキーコ、苺と楓が並んで見下ろして居なければ・・・。

どうしよう急に胸が苦しくなってきた。


「どうして、あたしのベッドで紋次郎兄ちゃんが眠っているの? しかも、りんどうさんに抱き付かれて・・・あたしとは一緒に寝てくれないのに」

「え~っとですね。いいですかキーコさん、誤解を招く言い方をしてはダメですぜ。ほら、りんどうが起きたら可哀想でしょう。静かにしましょうか?」


「ねぇ、もんじろう。あなた、りんどうに如何いかがわしい事をしてないわよね?」

「はい、それはもう誓ってそんな事はしておりません。誤解を招いてすみませんでした楓さん」


「いいですか紋次郎さん。年端としはがいかないとはいえ、りんどうさんは女性なんですから、眠っている横に勝手に寝転んではダメですよ」

「そうですね苺さんの言う通りです。キーコの匂いが充満してたので、つい身内感覚で寝転んでしまいました」


「紋次郎、夜に眠れなくなるから、そろそろりんどうを起こしてあげなさい。あなたには後で話があるからね」


俺の軽率な行動に、珍しく桃代がヤキモチを焼かなかった。

よかったぜ。

なにせ、楓のことや、ざいえんの話のことで、桃代に対しての言い訳を考える余裕が俺には無いからな。


だけど、あとで死ぬほど謝っておこう。


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