第342話 水晶

方向性は決まったが、楓の話はまだ続いた。

化け物が現れると、いきなり襲い掛かって来たらしく、楓は逃げようとしたが、デニムが脱げ掛かっている所為せいで逃げられず、防御した腕に喰いつかれた。


男達は、初めは何が起きてるのか分からずにいたが、血だらけの楓を見て、大きな悲鳴を上げて逃げ出したらしい。

ただ、幸運な事に大きな声を出して逃げる男達の方を、化け物は追いかけたそうだ。

当然だ、逃げる方を追いかけるのがけものの本能だからな。


楓は痛みと出血多量の所為せいで意識朦朧となり、腕を喰い千切られたとは思わずにフラフラと山をり、近くの民家に助けを求めたところで救急車を呼んでもらい、病院に運ばれた。


大きな病院に運んでもらえたので、悲惨な結果になりはしたが一命は取りとめた。

しかし、また別の悲劇が待っていた。


卒業や大学入試の為に、あまり休み続ける訳にもいかず、数か月後に無理して学校に行くと、男達を誘ったのは楓の方で、山でいかがわしい行為をしていたと噂になっていた。


しかも、男にまたがられ胸が露わになっている写真で、襲った事を言わないように、二人の男が脅迫をしてきたそうだ。


手足は延びて大人とかわらない体格・・・だが、まだ高校生、その伸びた手を化け物に一本奪われて、胸があらわになっている写真で脅迫されて、女の子としての尊厳も男達に奪われて楓は人間不信におちいると、学校を休みがちになってしまい、自宅で突発的に自殺をしたらしい。


だが、疑惑の目を向ける生徒や先生とは違い、まだ赤ちゃんだったりんどうの笑みを忘れられず、当初の目的を果たす為に幽霊になっていたそうだ。


「そういう事だったのね。本来なら男達の言い分も聞きたいところだけど、あの男達だったらさもありなん。噂って本当に信用できないわ」

「ねぇ真貝桃代、あなたはわたしの言い分を信じてくれるの? もしかしたら、わたしの都合の良いように話を作ってる、だけかも知れないよ」


「そうね、わたしは楓の事をよく知らない。だから、その可能性がないとは言えない。だけど、わたしの胸を見ながら声を掛けてきた、あのイヤらしい眼つきの男達は信用出来ない。それだけで充分でしょう」

「いいな~あなたの大きな胸って、嫌な男をふるいにかける事が出来るのね。わたしも大きくなりたかったわ」


「あのね~大きいと大きいなりの悩みもあるのよ。あの学校の夏服なんて最低だったでしょう。透けたシャツからブラがほんのり見えて、生徒だけでなく教師もイヤらしい目で見てくるのよ。しかも、胸が大きいとバカだと思われる。だから、わたしは成績トップを守り続けたのよ」

「なあ桃代、おまえが二年生になって制服が替わったのは、シャツが透けて下着が見えた所為せいなのか? もしかして、あなたが率先して制服を替えたんですか?」


「当たり前でしょう。あの高校の土地は真貝が貸し出してるのよ。性犯罪者を出しかねない制服を推奨する学校とは、次の契約更新をしませんって、理事長をおどしてやったわよ」

「桃代・・・おまえって権力を持たせたらダメなタイプのヤツだよな」


「なんでよ、女子生徒には凄く感謝をされたのよ。だいたい白いシャツなんて透けるのが分かってるのにおかしいでしょう。紋ちゃんはわたしの下着姿を他の人に見られてもいいの?」

「おい苺、そんなに興味津々な顔で俺を見るな。桃代も答えづらい事を人前で聞くな。それで楓、もしかして、おまえが幽霊になって探していた物は腕ではなく、りんどうのお守りにする水晶だったのか?」


「そうだよ。死んだわたしの腕を見つけても、今更どうしようもないでしょう。だけど、両手でりんどうを抱き締められるのなら、見つかるといいなぁって思ってるよ」

「そうか・・・取りあえず、俺は明日あすにでも事故現場の下見に行こうと思う。桃代は場所を教えてくれる?」


明日あしたなの? だったら、わたしも一緒に行く。紋ちゃんもその方がうれしいでしょう」

「おまえはダメに決まってるだろう。もしも、化け物が生きてたら襲われる可能性があるんだぞ」


「じゃあ、紋ちゃんだってダメじゃない」

「俺は問題ない。ヤツが居るからな。あとな楓、事故で死んだ男達も腕を探しているって聞いたけど、その辺はどうなんだ?」


「あ~~あいつ等ね。あの人達も幽霊になってるみたいだけど、わたしと一緒に行動している訳ではないからね、よく知らない。あんな奴らとは会いたくもないし」

「じゃあ、居ることは居るんだな。いいか桃代、おまえは絶対に来るな。もしも、おまえにフラれた男が取り憑こうとしたら、俺は何をするか分からないからな」


「むふ、わたしが心配なのね。でも、大丈夫。紋ちゃん以外にわたしの身体からだは自由にさせないからね」

「だからね、そういう際どい言い方もやめてもらえます」


「あなた達って、イライラするくらい仲が良いのね。だけど、わたしが一緒に行けば大丈夫だと思うわよ」

「イヤ、楓は来なくていい。もしも、男達の幽霊と遭遇したら、辛いことを思い出すからな」


「もんじろう・・・ ・・・ありがとう」


もちろん、俺は楓の心残りを叶えようと思っている。

楓は根が純粋なヤツなんだろう。だから、男達に手伝うと言われて、それを素直に受け入れたのだろう。


桃代の労わるような言葉にも感激していたようだし、俺の言葉にも気遣いを見い出した。

だが、俺は楓の心残り叶える他に、ドクロの形をした水晶もついでに探そうと思っている。


そんなバカな俺を、やすやすと信用するなよ楓。


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