第310話 かたき討ち

俺は、なんとか耐え続ける。

赤い液体はアレだ、きっとイチゴジュースだ・・・飲んだ記憶は無いけれど、何時いつものように忘れているだけだ。


あがたもりのまわりに居る黒い死霊は、かなりの数が減り、あと僅か。

配下の奴が居なくなれば、ヤツと差しで勝負を付けられる・・・それまで頑張れ俺。


前を見据える俺にバレないように、やしろの後方で暗中飛躍あんちゅうひやくしながら、黒い死霊を減らす苺とクルミの助力を俺は知らない。

このあたりが、俺の間抜けの由縁なのかも知れない。


頑張り続ける俺なのだが・・・おかしい、またイチゴジュースが口からあふれた。

アレだ、イチゴジュースが終わって、今度はトマトジュースだ。

そう思い込まないと、気持ちがくじける。

気持ちがくじけると、心が折れる。

心が折れると膝をつく。

膝をついたら溺死する。

溺死をしたら・・・桃代に内臓を抜かれて、ミイラにされる。


絶対にくじけてたまるかッ!


気持ちを強く持ち続ける俺に、あがたもりのまわりに居た、黒い死霊の最後のひとりが取り憑き、いま消えた。


配下の奴らが全て消え、若干余裕が出たのかも知れない俺に、あがたもりの遥かうしろの遠くの空にある、雲の切れ目から夕陽がすのが確認できた。

西の方は、線状降水帯が通り過ぎたんだな、ここら辺もあと少しで雨がむな、河が氾濫しなくて良かったぜ。


んっ、という事は、どういう事だ?・・・明日は晴れか? 洗濯物がよく乾くのか?

いやいや、そうでなくて、あれ? やっぱり小降りになってきた。もうすぐむな。

んっ、それってヤバくないの? この先どうやって、俺はアイツを成仏させたらいいの?


若干出たはずの俺の余裕は、それ以上の絶望感であっと言う間に無くなった。


「ちッ、不甲斐ない配下の奴らよのう。じゃが、これでしまいじゃ。どうやって配下の者を消したのか、それは分からぬが、それだけ血を吐いてしまえばキサマはもう動けまい。抵抗も出来まい。わしはこの時を待っておった。キサマに憑依ひょういして、やしろと石垣を蹂躙じゅうりんしてやる。ついでにキサマの命も蹂躙じゅうりんしてやろう」


けッ、舐めるなよあがたもり、俺はまだ全然平気だぜ。


あれ? そう言い返したつもりなのだが、声が出てこない。なんでだ?

あれ? 気のせいかも知れないが、身体からだも動かない。なんでだ?

あ~なるほど、あれだ! 声が出ないのも身体からだが動かないのも、きっと金縛かなしばりの所為せいだ。


俺はポジティブというよりもバカの思考で、自分の状態を誤魔化そうとしていた。


「苺さん不味いですよ。紋次郎君が血を吐いてるそうです。早く助けに行かないと、紋次郎君が死んじゃいます」

「そうね、この姿を見せてはイケない言い付けですが、非常事態なので今はそんな事を言ってられません。クルミさんは紋次郎さんを頼みます。わたくしは何がなんでも、あがたもりに引導を渡してきます」


「苺さんの身体からだは大丈夫なんですか? 配下の死霊を片付けるのに、神力しんりょくを使い過ぎたのではないですか?」

「それは・・・それも今は言ってられません。身体からだの小さいクルミさんには酷ですが、紋次郎さんを引きずってでも、安全な場所に移動させてください」


金縛りではなく、オーバーワークによるオーバーヒートで身体からだの動かない俺に対し、憑依ひょういしようとあがたもりが近づいて来る。

う~~イヤだ。雨がんだ状態で、死霊とはいえ、あんなむさいジジイに取り憑かれたら、俺の身体からだから加齢臭が漂う。


などと、危機的な状況なのに、何時いつものようにバカな事が頭をよぎる。

そんなバカな俺の横を、地面をいながら白い影が通り過ぎると、あがたもりに巻き付いた。


んっ? なんだ、アレは? ひ~~ッ、ヘビだ! デッカくてぶっとい白ヘビだ! 


その白ヘビがあがたもりの身体全体に巻き付きついて自由を奪うと、かま首をもたげ威嚇している。

どうして、あがたもりに巻き付くのかは知らないが、俺は龍神に巻き付かれた幼い頃の記憶がオーバーラップして、ひたすら怖い。


あれ? よく見ると、あのヘビは苺ではないのか? 白ヘビだからな。

だが、俺は白ヘビ姿の苺を見た事が無いのでわからない。もしかして、俺を助けるつもりなのか?

いや、待て、待て待て、そんなに頑張ると、おまえの残り少ない神力しんりょくは尽きてしまうぞ。


苺に加勢をする為に、俺は力を入れて身体からだを動かすが、何かにつまずき体勢を崩すと、両手をついてその場に倒れてしまった。

くそッ、これも金縛かなしばりのせいだ。


そこにクルミがやって来て、俺の腕を引きずりながら何処どこかに連れて行こうとする。

なんのつもりだ?・・・てか、無理だって、身体からだの大きさを考えろ。


俺はクルミの頭を撫でて余裕を見せると、手でクルミを横に退かせ、なんとか立ち上がった。

立ち上がった俺なのだが、両手を両膝の上に乗せ、下を向いて肩で息をしている。

ついでに、また赤い液体を吐いた。正直、かなりしんどい。


口から赤い液体?・・・え~いッ、血だ! これは血だ! 認めてやるからもう出るな! 自棄やけを起こし、下を向いたまま口から血を垂らし、息を整える俺の目の前に、突然ヘビの姿の苺が転がってきた。

力尽き、神力しんりょくが尽き、ついに寿命も尽きたのか、苺はピクリとも動かない。


バカたれが、こんな寂しい場所で、泥だらけの姿で最期を迎えやがって・・・。

ごめん苺、俺と一緒に来なければ、こんな所で最期を迎える事はなかったのに、本当にごめん。


俺は苺に声を掛けない、介抱してやる事もない、何故なぜならヘビが怖いからだ。

だが、必ずかたきは取ってやる。


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