第303話 カン? 缶? 感?

さて、やしろの様子を見に行くのはいいが、苺とキーコに気付かれないようにしないと、一緒に行くと言い出しかねない。


気のせいかも知れないが、ちらと映し出された森の様相に、俺は何かを感じた。

何かを感じ無意識に行動しそうな時は、【まずは、わたしを呼びなさい。】何時いつも桃代に言われるが、そんな曖昧な感覚で桃代の邪魔をしたくない。


黙って行くしかない。


もちろん、キーコと苺にも内緒でだ。

俺の曖昧な感覚で、ふたりを付き合わせる訳にはいかない。

もしも、あそこの河が氾濫でもしようものなら、エラい事になるからな。


俺は静かに立ち上がり寝室に行くと、必要になるかも知れない物をリュックに詰めて、車のキーをポッケに入れる。

リュックを玄関脇にコソッと置くと、居間に行きキーコと苺に【龍神の様子を見に行く】と伝えて、留守番を頼む。


しかし、シラケた顔をしたキーコと苺に、大きなタメ息をかれた。


「紋次郎さん、あなた、あの森に行くつもりですね。ダメですよ。近くにある河は、氾濫危険水位だったではないですか。それでも行くつもりなら、わたしを連れて行きなさい」

「え~っと、何のことでしょう苺さん。オイラは龍神の様子を見に行くだけですぜ。そう言ったでしょう」


「は~~~ッ、あなたは本当に素直というか、純粋というか、どちらにしても分かりやすい人ですね」

「あのねモンちゃん。考えてる事が、時どき口から漏れてたよ。あたしは気にならないけど、その癖は治した方が良いよ。それでどうしたの? どうしてあの森に行きたいの?」


「いやいや、俺は何も漏らしてないぜ、本当に龍神のところに行くだけですぜ。キーコさんも苺さんも、オイラを信用できないの?」

「往生際の悪い。いいですか紋次郎さん、呼びますよ。桃代さんを呼んで来ますよ。呼ばれる前にいた方が身のためですよ」


「はい、降参します。オイラは嘘をつきました。お願いです、桃代さんを呼ばないでください」

「では、理由をお聞かせください。何故なぜ、森に行きたいのですか?」


「え~っと・・・カン?」

「はぁ? 声が小さくて良く聞こえませんでしたが、カンって言いました? かんってなんですか? なんの缶ですか?」


「え~っと、オイラの太いドラム缶?」

「紋次郎さん! ふざけているのなら巻き付きますよ。あなたも、龍神さんと同じふざけ方をするつもりですかッ!」


「いや、違うんだ。俺は直感って言いたかったんだ。苺がなんの缶って聞くから、乗っかっただけなんだ」

「じゃあ、最初から直感って言いなさい! あなたも龍神さんも言葉が足りないんですよッ!」


「落ち着いて下さい苺さん、らしくないですよ。ねぇ、紋次郎兄ちゃん、感は確かに曖昧だけど、ちゃんと話せば桃代姉さんは分かってくれると思うよ」

「だけどなキーコ、アイツは仕事で忙しい。それなのに、俺の曖昧な直感でわずらわせるのはイヤなんだ。何も無ければすぐに帰って来るから、桃代さんには内緒にしてくれる?」


「ダメですよ紋次郎さん。ですが、どうしても行くと言うのなら、わたくしをお供させてください。龍神さん程ではないですが、仮に氾濫した場合でも河の危険を多少は抑えられますからね」


う~~っ、こうなる気がしたから、内緒で出掛けようとしたのに・・・。


さて、どうしよう? 氾濫の危険があるのなら、苺が居ると心強い。

だけど、あの森に、苺を連れて行くのは不味い気もする。

確かに、みずちの気配は消えた。龍神はそう言っていた。だが、アイツはポカを頻繁にやる。その都度、俺はひどい目に遭う。


しかし、悩む時間はあまり無い。

苺を連れて行くしかない、下手にごね続けると桃代を呼びに行かれる。


それに、早く行かないと、豪雨の所為せいで道路が冠水するかも知れない。

そんな場所が各所に発生すると、森まで車で行けなくなる。

さすがに徒歩だと時間が掛かり過ぎるからな。


俺は覚悟を決めると、雨に濡れないように濡れても平気な服に着替えるように苺に頼み、着替えを待つ間に、キーコには留守を守るように頼む。

ついでに、桃代には内緒にするよう、お願いをする。


キーコは最初に不安そうな表情を浮かべたが、俺の顔を見て強くうなずくと、無事に帰る約束をさせられた。


よし、これでなんとかなる。

苺に取り憑いたみずちの件や、やしろを設置したあとでみずちの気配が消えたこと、突然現れた喋るカワウソのクルミも、いま見た森の映像のイヤな感じと繋がっている気がする。


もちろん、根拠のない俺の直感だ。


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