第278話 監視

今回は未遂という事で、俺はどうにか許してもらえた・・・あれ? 許してもらえたんだよな?

それが証拠に、俺の腕は罰を受けるのだから。

それでも桃代の言った、苺の件が片付いてから沙汰さたを出します。その言葉が、頭の中で繰り返される。


陽が沈みばなれから戻る俺を、闇に紛れて逃げないように桃代は強く手を握り、引っ張るように母屋へ連れて帰った。

まあ、それでも手錠をしてないだけ、ましかもしれない。


中に入ると、何時いつもの光景が広がっている。

食事の用意をする今日の当番は、朝と同じくユリと桜子なのだが、にぎやかというよりやかましい。

居間にいるキーコは、森の変わりように納得が出来ないのだろう、パソコンで何かを調べている。

梅さんはリモコンを手にして、テレビのザッピングをしている。気持ちはわかる。最近のテレビはつまらない。


さて、問題の苺だが、ヤツは今どこに居る? 居間にいないのであれば、自分の部屋で裁縫でもしてる? 裁縫が趣味なんて変なヘビ。


あれ? そういえば、龍神の姿も見えない。


んっ? 二人の姿が見えないのは、マズくないか? 

まさか! 俺と桃代が母屋に戻る前に、みずちが覚醒して苺の身体を乗っ取った? みずちが暴れる前に、巣食っている苺を抱きかかえて龍神は太陽に向かって飛んで行った? だから、二人の姿が見えない?


そんなアニメのような事実はなく、しばらくすると怒鳴り声を上げながら苺が居間に入ってきた。


「いい加減にしてください、龍神さん! わたくしを付け回すのはやめてください。まして、トイレにまで付いて来るとは、あなたは下着泥棒だけでなく、覗きもする気ですかッ!」

「い、いや、そういう訳ではないんじゃ。これには深い訳があるんじゃ。お願いじゃから、ワシを性犯罪者みたく言わんでくれ」


「だって、あなた、姿を消してトイレの前に居るなんて、わたくしでなければ気付きませんでしたよ。さぁ、白状なさい。そうやって、今まで何人の人のお花を摘んでる姿を覗いたのですか!」

「ち、違うんじゃ。本当に覗きなんかしとらんのじゃ。ワシの気配を感じるキーコなら分かってくれるじゃろう。ワシがトイレの前に陣取ってないって」


「へっ、あたしですか? もちろんわかってますよ。もしも、姿を消した龍神様が、トイレの前に居るとドアは開かないですからね」

「いいえ、油断してはいけませんよキーコさん。龍神さんは浮かぶ事が出来ますからね。天井にはり付いて様子を伺っているかも知れません」


そういう事か、龍神は苺の様子をうかがっていたのだろう。

だけどな~もう少し上手くやれよ。トイレにまで付いて行ったら怒られるに決まってんだろう。


「ホンマなんじゃ。ワシは覗きなんかしとらん、お願いじゃから信じてくれ。さくらちゃん、あんたならワシの言う事が信じられるじゃろう」

「龍神君、覗きでなければ、トイレの前で何をしてたんですか? 理由を言わないと苺さんは納得しないと思いますよ」


「うっ、それは・・・それだけは、口が裂けても言えん。じゃが、やましい気持ちはひとつもない!」

「口が裂けても言えんって・・・龍神さん、それは、口が大きいわたくしを侮辱してますか?」


「も、もうイヤじゃ~~ッ! 全部、紋次郎の所為せいなんじゃッ、紋ちゃんが苺の下着をワシのツノに引っ掛けるけぇ、下着泥棒の汚名を着せられ、今度は覗き魔じゃ! 紋次郎、あんたええ加減にしんさい!」

「ちょっと待って龍神君。今でた下着泥棒ってなんですか? 紋次郎君が下着をツノに引っ掛けたってなんですか?」


龍神のヤロウ、俺に矛先を向けやがった。これはマズい流れだぞ。

桜子のことだ、必ず龍神の肩を持つ・・・何処どこが肩なのかわからないけど。

桜子が龍神の味方になったところで、ユリも桜子に追随する。

そうすれば、俺に対して罵詈雑言の嵐だ・・・もしも、そうなれば、コイツ等全員、ここから叩き出してやる。


しかし、そうはならなかった。

下着泥棒の汚名を着せられた出来事を、龍神が話し始めたところで、苺本人がストップを掛けたからだ。


「もういいです龍神さん。今日のところは大目に見ます。ですから、森の中での出来事を、これ以上は話さないでください。わたくしの尊厳にかかわります。それから、トイレはもちろんお風呂にも付いて来ないでくださいね」

「はい、すまんかったです。じゃけど、これだけは言うとく。ワシは覗きなんかせん。紋次郎、あんたの所為せいで汚名を着せられたけど、この汚名は必ず挽回する」


バカめ、汚名は返上するモノで、挽回するのは名誉だ。

そんな間違いをしてる限り、今後も俺と一緒におまえはバカ一直線だな。


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