第273話 盗聴

森で祟りを受けることなく、俺は問題なく母屋に戻ってこられた。

問題があるとすればここからだ、ないラインを返した所為せいで、桃代が不機嫌な可能性がある。

桃代はもちろんユリと桜子も、女の人はどうしてフリック入力が、あんなに早く出来るのだろう? 


俺には無理だ。

なので、ついつい面倒で、文字数の少ないない返事を送ってしまう。


実際、ここで一緒に暮らすようになり、僅か一週間でキーコに入力スピードで負けた。

【男の人は指が太いから仕方がないよ。】キーコはそう慰めてくれたが、そうじゃない、俺が不器用なだけだ。

それを知ってるくせに、桃代はない返事をすると不機嫌になる。


案の定、車を車庫に入れ終わると、桜子が俺を呼びに来た。

桃代本人が来ないで、桜子が来たという事は、桃代の機嫌がななめなのだろう。

それが証拠に、桜子はニヤニヤしている。

俺が怒られると思っているからだ・・・・調子に乗るなよ桜子、俺はおまえ達の仕事が、スムーズに進むように頑張ってるだけだからな。


議長室に入ると、桃代はあごと肩で受話器を挟み、通話をしながらパソコンの画面を見つつキーボードを叩き、手元の書類に判を押したかと思えばユリに手渡していた。


・・・相変わらず、凄い処理能力だな。

だからイヤなんだよ、この部屋に来るのは。苺とは別の意味で劣等感にさいなまれる。


俺は桃代の手が空くまで待つ事にして、ソファに座り静かにしている。

桃代は平坦な声での通話を終わらせると、ユリを呼び、自分の椅子に座らせて少しの説明をすると、全ての仕事を押し付けていた。


可哀想なユリ・・・同情はしてやる。だから、そんな泣きそうな顔で俺を睨むな。

次は俺の番なんだから。


さて、桃代が隣に座ったぞ・・・連絡が遅い、内容が短い、その程度でいちゃもんを付けるんだろうな・・・まあ、何を言われても、俺は変わらないけどね。

しかし、俺の予想と違い、桃代は機嫌良く話を始めた。


「お疲れさま。無事に戻れて良かったわ。キーコがラインをくれたけど、森の異常が消えてたんでしょう。僅か二日で不思議よねぇ」

「へっ? あ、そうだな不思議だな。でも、ちょっと待て、キーコがライン? あいつ何時いつの間にラインを送ったんだ?・・・まさか、スッパイ3号?」


「わたしに心配をさせないように、キーコは何時いつも良い子よ。スッパイ3号になんてする必要がないでしょう」

「そうか、それならいいけど、キーコに変な事をさせるなよ。じゃあ、森がどういう状態なのか知ってるな。あそこは、もう問題ないって龍神が言ってるから、あの仕事を引き受けても大丈夫だと思うぜ」


「そう、ありがとうね。ちなみに今の電話は、その仕事の打ち合わせだったの。お祓い料込みで、かなりの金額で受注したから楽しみにしてなさい」

「そうですか、相変わらず手回しの良い事で・・・オイラは森の祟りより、桃代さんの方が怖ろしいですぜ」


「あら? わたしが怖ろしいの? まともな連絡を寄越さない夫の紋ちゃんを、健気に待つ妻のわたしが怖ろしいの?」

「なんか嫌な言い方をするな。どうせおまえのことだ、健気に待つていで、裏では何かしらの方法で俺たちの会話も盗み聞きしてたんだろう」


「あら? よくわかったわね、紋ちゃんが賢くなってうれしい・・・なんてウソよ。そこまで出来る訳ないでしょう・・・車内の会話だけだよ」

「怖っ! それでも充分怖いわ。あっ! そうだ。車内の会話を聞いてたんなら、苺の昔話も聞いたよな。あの話、何か引っ掛るんだけど、なんでだと思う?」


「あ~~アレね。ヘビのように大きな口を開けて【わたし、綺麗】って聞いた話ね。アレはどう聞いてもあの都市伝説だよね。まさか、苺があの都市伝説の元凶なんて、面白いめぐり合わせよね。だけど、苺が傷つくからこの話は内緒ね」

「あっ、あ~~なるほど。そう言えば、あの都市伝説と符合するな。あっ! だから苺の古井戸があった寺は、土砂崩れのあと急いで移転したんだ。納得しました・・・桃代の言う通り、この話は苺が傷つくから、俺は口が裂けても言わないぜ」


「だから、言うなって言ってんでしょう。大酒飲みだけど、苺は意外と乙女なんだからね」

「はい、すみません。それじゃあ、俺は用事があるから母屋に戻るな。何か聞きたい事があれば、食事の時にでも他の奴らに聞いてくれ」


「用事? 用事ってなんなの? 紋ちゃんは、今からわたしと一緒にお風呂に入る予定でしょう」

「また訳のわからん事を・・・ユリが恨みがましい目で俺を見るから、そういう事を言うな。用事はアレだ。龍神をデッキブラシで磨く為に、川に行くだけだ」


「そう、では、いってらっしゃい。川の水が冷たくなってるから、気を付けるのよ」


何かおかしい? 妙にあっさりと桃代が俺の言い分を信じてくれた。

もしかすると、変な設定だけでなく、俺のスマホに未通話状態で声が拾える、ヤバいアプリケーション、ももウィルスを仕込まれた可能性がある。


一度、キーコに調べてもらいたいが・・・でもな~ エッチなサイトの履歴を見られたくないからな。

【紋次郎兄ちゃん、不潔!】なんて言われたら確実にヘコむ。


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