第260話 祟り

俺たちが桃代の元に帰り着いたのは、あと少しで日が暮れ、闇に包まれる寸前だった。

人払いを頼んでおいたおかげで、桃代とキーコとユリの三人以外は、誰も残ってない。


無事に戻って来たが、【怪我をしてないか?】桃代に聞かれ、キーコに前から抱き付かれ、ユリには後ろから抱き付かれ、苺はみんなが心配してくれてた事に感謝して謝罪をすると、油断した不甲斐ない自分に対して悔しさをにじませていた。


再会を喜んだあとで、【暗くなる前に、ここを離れた方が良い。】キーコの助言で、俺たちは急いで帰路についた。

桃代は運転を俺に任せ、自分は後部座席でユリと一緒に、苺の心配をしている。

キーコは助手席で何かを警戒していたが、あの場をある程度離れたところで、やっと緊張を解いていた。


「ねぇ、紋次郎君。苺さんを病院に連れて行かなくていいの?」

「ユリ、おまえはパーか? 苺を医者に診せて、レントゲンでも撮られたら、どんな姿が写るんだ?」


「だけど心配だし・・・あっ、そうだ! 苺さんにヘビの姿になってもらって、動物病院に行けばいいんだ」

「ユリさん。わたしは大丈夫です、何ともありませんわ。ですから動物病院とか言わないでください」


「うっ、ごめんなさい。ちょっと失礼な言い方でした。でも、心配なんです。何処どこか痛い所や不調があれば、すぐに言ってください」

「大丈夫ですよ、身体の表面は怪我しておりません。ただ、ハートが重傷です。あのような姿を、紋次郎さんと龍神さんに見られるとは、苺一生の不覚です」


「あのような姿? って、どのような姿だったんですか苺さん」

「ユリさん、それについては、わたくしの尊厳にかかわりますので勘弁してください」


理論武装をしてるとはいえ、俺と龍神が見つけた時の状況を、苺に話して欲しくない。


しかし、苺の恥ずかしそうな表情で、何かをさっしたのだろう。

ルームミラーに映る桃代の顔は、灰色の顔した死体や幽霊より、めちゃめちゃ不気味な表情をしていた。


更に、桃代の不気味な表情を見て、何を悟ったのだろう。

助手席に居るキーコは、俺の太ももを軽くつねり、辛い状態で俺は安全運転を続ける。

おまえたち、もう少し俺をいたわれ。


道に迷ったりバックをする事なく母屋に戻ると、桜子と梅さんが出迎えてくれた。


桜子は桃代から連絡を受けると、真貝建設の人間に苺の無事を伝え、明日の午前中にはなれにある会議室で、今後の打ち合わせをするように段取りを組んでいた。

ちゃんと仕事をしたようだ。


苺の部屋で怪我の有無を桃代が確認したあとで、風呂上がりに食事をする苺を見て、俺は気が付いた。

コイツ、本当に何処どこにも異常がないな。

普段通りよく食べるし、何時いつも通り血色もいい。

あの蝋化ろうかした死体みたいな、異常な風貌はなんだったんだ? 死んだフリが上手すぎるだろう。


食事が終ると、森の中で何を感じたのか? 苺がいよいよ説明を始めた。


「桃代さん、あそこの仕事を請け負う件なんですが、請け負う前に、調べ直した方がいいです。あそこには良くない何かが必ずあります」

「まぁ、そうだろうね。水神様の遣いとして、あの程度の神力しんりょくを持ってる苺が、ヘビの姿で逃げるくらいだもの」


「あのですね桃代さん。わたくしが本来の姿に戻り逃げた事を、どうしてご存じなのですか?」

「そりゃあ分かるわよ。あんなに恥ずかしそうな顔をしてたんだから。姿を戻すのは構わない。だけど、人の姿になる時に脱いだ服をどうするか、今後は考えなさい」


「申し訳ありません、以後気を付けます。それで、どうされるのですか? 請け負う前にお祓いをしなければ危険です。しかし、あそこを祓うとすれば、かなりの時間が掛かると思います」

「それなんだよね。神主が倒れた話を事前に聞いてたら、最初から龍神様と行動したのに、情報を小出しにしたり隠蔽する相手は信用が出来ない。だけど、今更受託しないのも難しい。あまり時間も掛けられない。困ったわね」


「俺と龍神でなんとかするから、桃代は悩まなくていいぜ」

「あのな~紋次郎、あんたが一番心配なんじゃ。アレは、ワシを怖れん祟り。あの森に入ると、紋ちゃんが祟り殺されるかも知れんのんじゃ」


「問題はそこなんですよね。アレを素早く解決するには、紋次郎さんの協力が欲しい。しかし、紋次郎さんを危険な目に遭わせたくない。紋次郎さん自身はどう思いますか?」

「だから、俺は平気だぜ。気味の悪さは感じたけど平気だったし、桃代の為ならなんでもする。龍神と苺はもう少し俺を信用しろ」


「紋次郎兄ちゃんは怖がりなのに、本当に平気なの?」

「キーコもかぁ・・・いいか、俺は紋次郎。何も力は無いけれど、なんとかする男。今回もパッパッと解決してみせるぜ」


「え~っ、紋次郎君がパッパッと何かを解決した事なんて、あったっけ?」

「おい桜子、オメエが山で迷子になった時に、見つけてやったのは誰だ?」


「うっ、そうでした。紋次郎君のおかげで遭難しないで済みました。あの時は本当にありがとう」

「よし。では、こうしましょう。森に関しては、まわりを調べるだけで、中に入るのは極力避けるように。龍神様は、紋ちゃんのそばを離れないようにお願いします。苺とキーコも龍神様のそばに居なさい。わたしとユリと桜子は、祟りの原因がなんなのか、情報を集める。真貝の人間に祟ろうなんて、死ぬほど後悔させてやる。って、もう死んでるか」


桃代が変なテンションだ。

現場で俺を迎えた時もそうだが、普段の桃代なら他人が居る前で、はしゃぐ姿を見せたりしない。

それなのに、手を振りながら走る車に駆け寄ってきた。


森の事も、普段なら【絶対に近付くな。】そう言うはずなのに、今回は極力避けるように。なんて、曖昧に意見を濁した。


苺の裸を見た事も、しつこく追及してこない。

普通に考えればたいした事ではないが、今までの桃代の言動からは、外れている。

桃代の言動が外れる時は、気分が高揚している時なのだが、コイツの気分が高揚する時は、アレだ。

ピラミッドやミイラの他に黄金のマスクなど、埋葬品や財宝が絡んでいる時だ。


だが、それらしきモノは何も無かったのに、どういう事だ?


もしかして、俺の知らない何かが、隠されているのかも知れない。


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