第237話 悪夢の現実

昼間の内は散々遊び、夜はBBQを楽しんだ。

船には水道水が入るポリタンクが大量に積んであり、それをシャワー代わりにして、海水を洗い流したので、ベタつく事もない。


俺に気付かれないように、ここまで用意をするとは、最初から俺をおどろかすつもりだったのだろう。


二つあるテントの振り分けは、ひとつを鬼門家おにかどけの三人と、苺を合わせた四人で使い、もうひとつのテントを、桃代と俺の他に、キーコと桜子の四人が使う。

そんな振り分けになっていた。


その振り分けたテントに今すぐ戻り、爆睡したいところだ。

とにかく、俺は非常に眠い。

昨夜も移動で寝てないし、この島に到着してからはドタバタとした所為せいで、仮眠も取れてない。

昼間も砂浜で寝ようとしたが、寝ようとすると桃代が邪魔をする。

離れた場所で、隠れて寝ようとするとキーコが呼びに来る。


ただでさえ思考能力が低い俺なのに、今は何も考えられない状態だ。

それでも、寝かせてもらえない。

【キーコを楽しませる為でしょう。】そんな風に桃代に言われて浜辺に連れて行かれると、くだらない会話に付き合されている。


龍神は食べるだけ食べると、テントの近くで眠っている。

それは大目に見よう、ヤツも昨日は寝てないのだから、だけど昼間は寝ていたくせに裏切り者め。


さて、頑張ってはいるが、そろそろ限界が来たようだ。目をけているのが辛い。

俺は砂浜に座ったままで目を閉じると、瞬時に深い眠りに落ちていた。


秒で眠りに落ちた俺は、また変な夢を見ている。


木々に囲まれた高台のようだが、ここは何処どこだ?

一心不乱に穴を掘っているようだが、どうして穴を掘っている?

穴の向こうにあるかめはなんだ? 何が入っている?


地面に穴を掘っている俺が、まわりを見渡すと、高台の下の方にある波打ち際には、小さな木の舟がいくつもある。

あの舟は誰の舟なんだろう? なんの為に集まっているのだろう?


見続けていると、その舟に体格の良い奴らが赤黒く染まった何かを積み込み、次々に隣の島に帰っていく。

赤黒く染まった何かは、大きなモノから小さなモノまで色々あるが、あまり見ては、いけないような気がする。


どうして俺は奴らと同じように、隣の島に帰らないんだ? なんで俺だけここで地面を掘っている?

さっきも頭をかすめたが何の為に掘っている? もしかして、このかめを埋める為か?


見ない方が良いと思いつつ、意に反し、俺はかめの中を覗いてしまった。

う~~っ、覗かなければよかった・・・・かめの中には、赤黒く染まった惨殺死体が入っていた。


う~~っ、やっちまったな! ついに俺は殺人鬼になっちまった・・・って、違う!違う! 俺じゃねぇ、俺が殺すわけがない。


・・・・・・あれ? でも、ちょっと待てよ? この惨殺死体の顔は何処どこかで見た事がある。

しかも、誰かに似てるような気がする。


何処どこで見たんだ? 誰に似てる気がするんだ?・・・・・・・・あッ! あ~~ッ、思い出した!

悪夢の中で見たキーコの母ちゃんだ! キーコに似てるんだ!・・・えッ! じゃあいまの俺は誰だ!


俺の疑問に、夢の中の俺は答えてくれない。

黙々と地面を掘り続け、深くまで掘り進めると、慎重にかめを降ろして埋めていた。

埋め終わり、その上にたわらのような大きな岩を乗せて墓石代わりにすると、俺の知らない何かをつぶやき始めた。


「茜・・・すまなんだ。助けてやれんで、すまなんだ。その代わり、消えた鬼子は、必ず見つけてやるから、安心して地獄へってくれ」


・・・コイツは何を言ってんだ? なんで地獄なんだ? 普通は天国ではないのか。

鬼の天国は地獄なのか? 変な感じ・・・って! そうじゃねぇ、いま鬼子キコって言ったのか? キーコとコイツはどういう関係なんだ?


もしかしてコイツはキーコの親父? もしもそうならば、テメエは今まで何処どこで何をしていやがった! ぶっ飛ばすぞッ!


夢の中の俺は、夢と現実がごっちゃになると、キーコの親父らしき鬼をぶん殴る。

ヤツは、自分のゴツイ腕で顔を殴ると鼻血を流し始め、不思議そうにまわりを見渡していた。

ふふふ、自分で自分を殴るとは間抜けな奴め!


コイツがキーコの親父なら、今の俺はキーコの親父目線で夢を見ている。

そのキーコの親父を殴るという事は、当然なのだが、俺が俺を殴るという事なのに、どうして気付かないのだろう。


あまりの痛みに飛び起きると、俺も鼻血を流していた。


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