第224話 威厳

龍神の為に、おやつの買い置きを客間に取りに行き、居間にいる桜子にリュックのお礼を言うと、ヤツは何時いつもの調子に戻り、とにかくよく喋る。

ついでにユリと桜子にもおやつを分けてやると、二人とも庭に出て来て、一緒に食べながら仲良く雑談を始めた。


先程までの不穏なムードは無くなり、ユリは頭の傷を心配してくれる。

桜子はどうして石がぶつかったのか、その原因を聞き、龍神がその原因を答える。

原因を聞いたユリと桜子は、大きなタメ息をつくと、【やっぱりあなたの頭はおかしいでしょう。】そんな表情を俺に向けた。


口に出さずに我慢したので、今のは勘弁してやる。


そこに桃代たちが帰って来ると、おやつを食べているところを見つかり、夕飯前に間食をするなと怒られた・・・俺だけ。


桃代が時間と手間をかけて、作ってくれた夕食。

まぁ、当然なんだけどエジプト料理だ。

俺はよく食べさせられているのだが、他の奴らには新鮮みたいだ。

こんな離島で、よく材料を手に入れられたな。


食べる前にキーコは桃代に断りを入れ、料理を小皿に取ると仏壇に供える。

百合に対してのお供えなのだろう。

そのあとはにぎやかとは名ばかりな、うるさいだけの食事が始まると、耳から入る声だけでお腹いっぱいになった。


俺はさっさと食べ終わると席を立ち、縁側に座り直して月を見ながら考える。

結構気楽に思っていたのだが、龍神の言う通り殺された他の鬼の恨みが、もしも残っているのなら、確かに俺はヤバい状態になるかも知れない。

まあ、龍神が【ワシがなんとかしてやる】そう言ってくれたので、甘えさせてもらうしかない。


あとは、この事を桃代に知られてはいけない。

また、桃代に心配を掛けるのは不本意だし、もしもバレれば桃代の怒りで、俺が不本意な目に遭うからだ。


月を見ながらそんな事を考えていると、キーコが食後のデザートとしてカップに入るアイスを持って来て、一緒に食べようと誘ってくれた。


「ねぇ、モンちゃん。これ、アイスクリームって言うんだって。すごく美味しいの。さっき買い物の帰り道で、桃代様と苺さんの三人でコーンの方を食べながら帰ってきたんだけど、苺さんがいちご味のアイスを食べながら【これがイチゴ、こんなに美味しくて良い香り。これが名前の由来なのね】って、喜んでたよ」

「へぇ~そうか、それは良かった。でも、食べ過ぎるとお腹を冷やすから、気を付けないとダメだぞ。それから桃代、おまえはちょっとこっちに来い」


「なあに? わたしに食べさせてほしいの? それともバニラじゃなくて、何時いつものモモ味でないといやなの?」

「なんだ、何時いつものモモ味って? そうじゃない、おまえはアイス食いながら帰ってきたくせに、なんで間食をするなって俺に怒ったんだよ」


「ああ、そのこと? えへへ、ごめんね。紋ちゃんには、わたしの手料理をたくさん食べてもらいたかったからなの。ごめんなさい」

「なんか上手く誤魔化された気がするけど、まあいい。食べ終わったら早めにキーコを風呂に入れてやれ。出た後で、明日からの予定を話したい」


「そうね、わたしも話がある。キーコと苺はユリと桜子に任せるから、今から浜辺に行って話をしようか?」

「いいけど・・・・あのなモモちゃん、椿さんが言ってたけど、この辺は夜になるとマムシが出るって。オイラ、ヘビに巻き付かれるのは、もうイヤですぜ」


「もう、それを言うと我が家も同じでしょう。マムシなんて人が歩く道にはそうそう出ないから安心しなさい」

「紋次郎さんって本当にヘビが苦手なんですね。わたしで良ければ、苦手を克服するお手伝いをしましょうか?」


「いや、いい。いいか苺、大きなお世話を考えるな。俺は克服という名の拷問を受けるつもりはない」

「拷問って、紋次郎さんはオーバーですね。無毒で小さなベビちゃんと、ちょっとたわむれるだけですよ」


「なんだベビちゃんって? ベビーのヘビでベビちゃんか? 語呂が悪いぞ。いいか苺、毒とか大きさの問題ではない。ヘビはイヤなの。俺とヘビを和解させようとするなッ」

「はいはい、つまらないやり取りをしてないで、さっさと行くわよ。すぐに帰って来るから、みんなは仲良くしてなさい」


自分はつまらないやり取りをする癖に・・・なんて事は思わない、桃代が話を打ち切ってくれて良かった。

あのまま、苺と話を続けていたら、声が裏返るか足が震える。

早く苺に慣れないと、みっともない姿を晒し、俺の残り少ない威厳が無くなる。


・・・威厳なんて、俺にあったっけ?


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