第212話 シャベル

しばらく歩き続けると、まわりの畑や田んぼが無くなり、アスファルトもなくなって石畳になると、左右に樹木が立ち並ぶ薄暗くあやしい雰囲気に、景色と道が一変した。


足元には木の葉や小枝が乱雑に散らばり、向こうの方には石灯籠が倒れたまま苔むし、気温が下がったように感じる。


以前、ここは参道だったのだろう。

縁日などが開かれて、騒がしかったのではないか? 祭りや行事のたびに賑やかだったのではないか? たくさんの人が行き来して活気があったのではないか? 今はもう参る人の居ない参道、鳥の鳴き声ひとつ聞こえない石畳を歩きながら、そんな事を考える。


鳥の鳴き声は聞こえない。

しかし、桃代がモモクイズを出し、龍神が大きな声で騒ぐので、ひたすらやかましい。

そりゃあ鳥も鳴かないよな。


もしかすると、もう一つのピラミッド山にも、何か呪いのたぐいがあるかも知れないのに呑気のんきな奴ら。

まあ、あったとしても取りかれるのは俺だ。

そりゃあ呑気のんきはずだよな。


意外と歩き辛いデコボコの石畳を歩き続け、寺の跡地らしき場所に着いた。

この先にはもう道が無い。

土砂が石畳まで幅を寄せ、寺の姿も何処どこにも無い。

土砂には草や木が生え、山の一部と化している。


だが、折れた柱や壊れた木の扉の残骸が、地面の中から飛び出しているので、この奥に建物があったのだけはよくわかる。


事の発端になったと思われる、形の失われた寺院、今はもう何も無いかも知れないが、ここで何かがあったのだろう。


キーコの事を思い、土砂に呑み込まれた寺の跡地を歩き、シャベルを突き立てる俺に、先の方に居る桃代と龍神が声をかけてきた。


「紋ちゃん、早く来なさい。そんな所でポーっとしてると、ポークになっちゃうよ」

「早う来んかい紋次郎。なんでそげな所で穴を掘ろうとしとるんじゃ。迷子になってもワシは知らんで。このバカたれが」


「あ~~穴なんか掘ってねぇよ。今すぐ行くからちょっと待て。てか桃代、おまえの重たい荷物の所為せいで大変なのに、なんだその言い方は。龍神、おまえの昼飯とおやつは俺が持ってやってるのに、なんだその言いぐさは、もう少し俺に対して気を遣え!」


「だって、紋ちゃんが持ってくれるって言うから、甘えただけなのに・・・そんなに怒らなくてもいいでしょう」

「仕方がないのう。ここからは道が無いし、人もおらんけぇ、ワシの背中に乗りんさい。それでええじゃろ紋次郎。ほじゃけぇ、ワシのおやつを食べんとって」


何か納得は出来ないが、この先は道がないので龍神の背中を借りる。

下手に藪を歩いて、ヘビが出たらイヤだからだ。


龍神の背中に乗ったところで、桃代は地図とコンパスを手にして、的確に方向指示をしていく。

俺は重たい桃代のバッグが落ちないように必死だ。

それでも、龍神のおかげで素早く、楽に移動をすると、桃代の想定する目的地に苦も無く到着出来た。


「さてと、この辺なんだけど・・・似たような起伏と、たくさんの樹木で探しづらいわね」

「ももよ、俺が探しに行く。おまえはここで荷物の番をしてくれ」


「ダメ! 紋ちゃんは探しに行かないで。あなたが行くと違う物を見つけて大騒ぎになるから」

「桃代さん、アレじゃろ、あそこの小山。ユリの家にあるモノと高さが同じじゃ」


「あ~っ、それっぽい。では、入り口を見つけましょう。ユリの家にあるピラミッド山の入り口は、寺の方を向いた南西にありましたから、ここは北東方向にあると思います。龍神様、ここをその硬い爪で崩してみてください」

「任せんさい。こげなもん、ワシの爪でガリガリっとすれば一発じゃけん。桃代さんは休んで待っといて」


桃代は龍神に指示を出し、龍神は桃代の指示通りの場所をガリガリやっている。

なんだろう? 何かが違う。何かを忘れている。

違和感に気付いた俺は、龍神の作業を見守る桃代に聞いてみた。


「ももよさん。オイラは、なんの為にシャベルを持って来たのでしょう?」

「あ~それね、わたしも紋ちゃんに聞きたかったの。なんの為に持って来たの?」


「だって、入り口を見つけるのに使うと思って・・・手で掘ると破傷風になるって、前に怒られたでしょう。だから持って来たのに・・・」

「バカね~ 龍神様にお願いをすれば、あっという間に終わるのに。まして手で掘る訳ないでしょう。紋ちゃんは原始人なの?」


「あなたが【二人でピクニック】って、言ったんですよ。だからシャベルが必要だと思ったのに・・・まあ、いいです。おい龍神ッ、おまえはわかってたんだろう」

「そりゃあ、昨日一緒に来てもらうって、桃代さんが言うた時点で、こうなる気はしとったで。紋ちゃんがやると時間が掛かるじゃろう」


なんだろう俺だけ蚊帳の外、そんな気がする。


まあ、それはいい、シャベルを用意した俺は、これで原始人ではないと証明されたのだから、キーコにさげすまれる事はないだろう。


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