第207話 乳酸菌

相も変わらず、風呂上がりの桃代は、いい匂いがしている。

もちろんキーコも同じ匂いがしている。

シャンプーやリンスの匂いのはずだが、同じ物でも、桃代だけ微妙に匂いが違う気がする・・・なんでだ? 微かに桃の香りがする。


ゾンビパウダーならぬモモパウダーでも付けてるのか? もしも命を失うと、桃として蘇生するのか? それはそれで怖いぞ。


でも待てよ、ここはユリの家だ。

昨日は気を回せなかったが、どうして同じシャンプーやリンスがあるんだ? 

そういえばボディソープやトリートメントも桃代が使う物と同じだった。


まさか! ユリって違う意味で本物のユリなの? 

そういえば、妙に桃代に執着している気がする・・・・・・・・・・・・・・・・・


これについて、俺は気付かない事にした。


風呂上がりのキーコの頭を撫でながら、そんな事を考えていると、【今日は汗をかいたから、早くお風呂に入りなさい】っと、桃代に注意された。


・・・おまえが俺におぶさるから汗をかいたのに・・・なんだそれ?


言い返したいのを我慢して、俺も急いで風呂に入る。

もちろん、桃代への警戒を怠らない。

自宅でなら問題ないが、ここはユリの家だ、恥ずかしい姿を見せたくない。

しかし、今後は自宅でもキーコが居る以上、そこら辺も考えないといけない。


明日の打ち合わせをしたいので、さっさと風呂から出ると、脱衣所にはパジャマを脱ぎかけてる桃代がいた。


「どういうつもり桃代さん? あなた、お風呂に入ったでしょう。なんでパジャマを脱いでるの?」

「えへへ、かまってあげないと紋ちゃんが寂しいかと思って・・・だって、お風呂は一緒に入る約束でしょう」


「いいか桃代、他所よその家でみっともない真似をしようとするな。早くボタンを閉じて、そのデカい胸を格納しろ。明日の打ち合わせをするぞ」

「ちぇ、はいはい、明日の予定を決めればいいのね。それで、紋ちゃんはどこまで真相に近付いてるの?」


「え~っと、ですね桃代さん。言い訳になりますが、オイラはキーコの事が心配で、何もわかってないのですが・・・」

「まぁ、そうだろうね。じゃあ、リビングで話をしよう。でも、その前にぱふぱふする?」


「ももよさん、いい加減にしないと、また指で弾きますよ。痛くしても、オイラ今度は謝りませんぜ」

「むふっ、オッパイに触りたいのね。でもダメよ。みんなが待ってるからね」


なんだろう、この異様に噛み合わない苛立ちは、俺に余裕がないからか? それとも桃代のおふざけの度が過ぎるからか? まあいい、桃代がリビングに行くつもりなら、言い返さずに、黙って付いて行こう・・・・面倒くさいから。


シャツと短パンに着替えた風呂上がりの俺は、タオルで髪を拭きながらソファに座る。隣では、ユリが用意をしたのだろう、キーコがカルピスを飲んでいる。


俺もガキの頃に飲んだっけ、桃代が濃い目に作ってくれた甘いカルピス。

ただでさえ甘めに作ってくれてるのに、原液をそのまま凍らせて、氷の代わりに使用して、溶ければ溶けるほど甘くなり、歯が痛くなる地獄のカルピス。


甘過ぎると愚痴をこぼすと、【氷はカルピスではなくコーラスだから、凍らさないと仕方がないのよ。】っと、訳のわからない言い訳をされ、乳歯が虫歯になりかけた幼い頃の思い出。


思い出すとムカムカしてくるぜ。


俺はユリに冷たい水を貰うと一気に飲み干し、キーコとは逆隣りに座る桃代に話しかけた。


「なあ桃代、明日はどの辺りを調べるつもり? 寺の南西って言っても地図上では、人のいない森みたいだから、漠然と見て回ったところで、迷子になるのがオチだぜ」

「んっ、見る場所は決めてるから、迷子にはならないよ。心配だったら龍神様にも一緒に来てもらう?」


「えっ? 龍神も一緒に行っていいの? でなくて、見る場所を決めてるの?」

「当たり前でしょう。ほら、この地図を見れば、すぐにわかるでしょう」


「すみません。さっきも言った通り、何も考えてなかったのでわからないです」

「もうッ、じゃあ、わたしの思う事や、感じた事を説明するから、みんなもちゃんと聞きなさい」


龍神の言うように、【桃代には全貌が見えている】のかも知れない。

ただ、なんでそんなに偉そうな言い方なんだ?


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