第198話 変人

大きな声で泣いたのが、恥ずかしかったのかも知れない。

キーコは泣き止むと赤い目をして、テレた笑顔を俺に見せた。


言葉数の少ない食事も終り、ごみを片付けながらキーコの顔をふと見ると、心配そうな表情をしている。

時間が経つにつれ冷静になり、俺の話した内容に憂いが浮かび、不安になったのかも知れない。

キーコを安心させる為に、俺は軽い口調で声を掛けた。


「どうしたキーコ? なんでそんな顔をしている?」

「あのね、本当に、あたしが一緒に暮らしてもいいのかなって、あたしが一緒だと、きっとモンちゃんに迷惑が掛かるよ」


「いいかキーコ、その心配は無用だ。そろそろ俺を信用しろ。ただ、問題が無い事もない。もしかするとキーコの方に迷惑が掛かるかも知れない。だけど家出はしないでね」

「違う違う、ちゃんと信用してるよ。ただ不安だったの、ごめんね。もちろん家出なんてしません。それで紹介したい人は、どういう人なの?」


「あのなキーコ、これから紹介する人は、俺が生れて初めて出来た味方で、俺の奥様だ。凄く頭が良くて優しい人なんだけど・・・その反面、凄く変で、凄く変で、凄く変な人なんだけど、嫌いにならないでくれ」

「えっ! 奥さんが居るの? そうかぁ、モンちゃんを好きになって、モンちゃんが好きになる人かぁ、あたしも絶対好きになる。でも、変って言い過ぎ。会うのが楽しみ」


「あとな、はじめに謝っておく。ごめんなキーコ。昨日、島の案内をしてもらった時に、最後に見た変な化け物、あれな、あれも俺の知り合いなんだ」

「・・・ えッ!? うそッ! だって、あれはどう見ても龍だよ、鬼のあたしでも怖いのに・・・えッ!」


「まあな、一応龍神なんだけど、かなりふざけたヤツで、昨日も腹が立ったから椅子で殴ってやったぜ」

「えっ、えっ、ちょっと待って、それはおかしいでしょう。骸骨がいこつは怖がるくせに龍を殴れるって、モンちゃんが一番変な人だよ」


「あのな、そうなるまでに、俺にも色々あったんだよ。だから、逃げないで、居なくならないでキーコさん」

「ぷっ、やっぱりモンちゃんって面白い。そうか、龍神様と知り合いなんだ。でも、モンちゃんはヘビとかニョロニョロしたモノが苦手って、言ってなかった?」


「言ったな。しかも、その原因はアイツだ。幼い頃の俺に、まだ龍神になる前の大蛇おろちのアイツが巻き付いて気絶したのが、原因なんだ」

「うわ~ッ、よく死ななかったね。というか、よく喰われなかったね」


「ん?・・・まあな、散々俺をおちょくり、別の意味で人を喰ったヤツだけど、十数年前に人を喰ってたら、いま龍神になってないぜ」

「そうなの? でも、あたしは人ではないよ。いきなりあたしを食べたりしない?」


「それは絶対にないよ、そこは安心してくれ。でも変なヤツだから、ちょっかいを出さないように注意しておく。よし、まずは先に龍神の方から行くか」

「う~っ、ちょっと怖いけど、モンちゃんが一緒なら頑張る」


怖がるキーコを連れて、龍神のいる浜辺に向かう途中で、如何いかにとぼけたヤツなのか、龍神の話をしながら仲良く歩き、浜辺に着く頃には、龍神に対するキーコの恐怖心も薄らいでいた。


「お~い龍神、何処どこに居る? 朝ごはんを持って来たぞ、姿を現わせ」

「・・・」


「あれ? 居ない? もしかして桃代に呼び出された? でもなぁ、あれだけ酒瓶が転がってたから、宴会に参加した奴らは相当酒くさいはずなのに、アイツ耐えられるのかな?」

「モンちゃん、姿は見えないけど何処どこかに居る。心臓のドキドキが止まらないもん。あたし、やっぱり怖い」


「おい龍神、さっさと姿を見せろ。それとキーコを怖がらせたら、おまえとの仲も今日限りだぜ」

「・・・なんじゃい紋次郎ッ。ちょっとワシに冷とうないか? ワシよりそっちの鬼の子供の方が大切なんか?」


「やっと姿を現わしたな。いいか龍神、キモい言い方をするなッ。その物言いを続けると、そのうち桃代が誤解するぜ。そうなるとどうなるか考えてみろ」

「あっと、今のはウソです。じゃけぇ、桃代さんに変な告げ口をせんとってな。それで、キーコ言う名前じゃったよな。ワシは見ての通り龍神様じゃ。まあ、紋ちゃんの守り神ちゅうやつじゃ」


「いいか龍神、調子に乗るな。おまえは守り神のつもりでも、俺には厄病神の意味合いの方が強いからな」

「また~紋ちゃんはすぐに意地悪を言うのう。最近のワシは役に立っとるじゃろう。こないだも変な恨みを流してやったのに・・・」


「変な恨み?・・・ねぇモンちゃん、もしかして、かめの中によどんでいたあたしの恨みの思いを受け取ってくれたの? それで、あたしになった夢を見る事が出来たの?」

「まあ、おそらく、そうなんだろう。俺は変な体質らしいからな。でもそのおかげでキーコと知り合えた。悪い事ばかりじゃないぜ」


「ありがとう・・・でも、もう無茶はしないで。鬼の恨みなんて人間が受け取ると、七日の内に死んじゃうよ」

「あのね、キーコさん。今後、何があっても俺を恨まないでね。オイラはまだ死にたくない」


「も~~っ、恨む訳ないでしょう。モンちゃんが味方って決めたのは、あたしの勝手。それなのにモンちゃんを恨んだら、ただの逆恨さかうらみだよ」

「どうじゃキーコ、紋ちゃんと一緒におると退屈せん。しかも面白い。これからも仲良うしてやってくれ」


「は、はい龍神様。あたしの方こそ、よろしくお願いします」

「まあ、そがいに緊張せんでええで。それよりも紋ちゃん、ワシの朝ごはんは何かいのう?」


「ちょっと待ってろ、いま袋から出してやる。焼きそばパンだけど、ソース味は好きだろう。俺とキーコは食べなかったから三つとも食べていいぜ」

「う、やっぱり紋ちゃんは、ワシの事をよくわかっとる。キーコ、おまえの分も食べてええの?」


「はい、あたしは胸がいっぱいなので、あまり食べられません。どうぞ龍神様、食べてください」

「う、ええ子じゃのう。気に入ったぞキーコ、今後は何かあったらワシを頼りにしんさい」


焼きそばパンで態度を変える龍神・・・相変わらず安いヤツ。

ちょいちょい保護者目線で喋っているのが気になるが、俺はそんなおまえが、相変わらず大好きだぜ。


龍神の腹ごしらえが済むと、いよいよ本丸、桃代の元に行く事にした。


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