第196話 どっちが過保護

夜中に呼び出されて妙な時間を過ごした割に、俺は何時いつもの時間に起床した。

昨夜の出来事について、桃代に報告をしないといけない。

俺は寝ていた布団をたたみ、桃代に声を掛けてみるが、桃代は起きる気配がまるでない。


仕方がないので寝ている桃代の隣に座り、肩を揺すってみたが、それでも起きない。

あれ? どうした? 何時いつもならすぐ起きるのに、今日に限って何故なぜ起きない?

また、訳のわからない眠り姫ごっこでも、しているつもりか?


昨夜の報告と裏鬼門の調査、そしてキーコの所に行く事など、予定が目白押しの俺は、余裕がなかったようで見落としていた。

きっと二日酔いの所為せいだ。


この状態で桃代を起こすのは、少し具合が悪い。

もしも、頭痛がしていれば不機嫌だし、下手に酒が残っていれば、ベタベタ絡まれて鬱陶しい。

報告は、桃代が自然に目を覚ませ、酒が抜けているのを確認してからにしようと思う。


念の為に呼吸を確認し、生きてる事に安堵して、客間を出たあと居間に行き朝の挨拶を終わらせる。


用意をされる前に椿さんに朝食を断ると、俺はリュックを背負って散歩に出かけた。

のんびりと歩き、途中で買い物を済ませると、昨日案内をされたいわく付きの場所に向かう。


記憶を辿り目的地に着くと、目の前には、行く手をさえぎるように、ばってんマークの足止めが存在している。

おそらく、この防空ぼうくうごうの中にキーコは居る・・・と思う。


俺は及び腰のまま、立ち入り禁止の板の隙間をくぐり抜け、岩壁がんぺきにぽっかりあいた洞窟に入る。

龍神は、キーコが何処どこに潜んでいるのか、具体的な明言をしなかった。

桃代が口止めを、していたのかも知れない。

だが、キーコの様子を伝えてくれた時に【岩壁がんぺきの穴】っと、龍神が口にしたのでピンと来た。


はいひとの居ないこの場所は、隠れる場所には丁度いい、絶好のロケーションだ。

もちろんキーコが居ると思うのだが、もしかすると他にも似たようなロケーションがあり、そこに居るのかも知れない。


しかし、俺の直感は、ここで間違いないと告げている。

なので直感に従って足を進める、読み通り、なんとなく何か居る気がする。


だが、俺の直感は、悪い方にはよく当たるのだが、良い方にはあまり当たらない。

何か居るにしても、せめて生きてる者が居てくれ・・・ヘビはイヤだけど、猪までなら我慢する。


中に入ると湾曲しているこの洞窟を、龍神のヤツはどうやって奥の様子を探ったのだろう? 雑なアイツがする事だ、キーコに迷惑を掛けてなければいいが。


外から入る光のおかげで、中はたいして暗くない。

ちょっとずつ慎重に進み、突き当たりのひらけた場所が見えてきた。

何か物音がする、やっぱりな、このひらけた場所がキーコのかくなんだ。


俺は意を決してひらけた場所に飛び出すと、キーコを探す為に周りを見渡すが、そこには乳繰り合うバカップルが居た。

ド、ド、ド阿呆あほうッ、朝からこんな場所でいちゃいちゃしてんじゃねッ!


俺を無視してたわむれるバカな二人を罵倒して、イライラしながら外に出ると、そこには軽蔑の眼差しで俺を見る、キーコがポツンと立っていた。


「何してるのモンちゃん、朝から覗き? いくらなんでも、死人しびと逢瀬おうせを覗かなくてもいいのに」

「へッ? キーコ・・・もうッ、心配したんだぞ。昨日呼び止めたのに、なんで逃げた・・・ちょっと待て、今なんて言った?」


「モンちゃんが朝から他人の秘め事を覗く、ど変態だって言ったのよ」

「キーコさん、お願いです、もう少し柔らかい言葉で表現してください。小さな子供に【ど変態】って言われると泣きそうになる・・・って、そうじゃねえッ、いま【死人しびと逢瀬おうせ】って言ったのか? アイツら死人しびとなのか?」


「そうだけど・・・モンちゃん、気付いてなかったの? だって二人とも骸骨がいこつだったでしょう」

「うっ、そう言われると、服は着ていたけどチラッと見えた身体からだは、あちらこちらスカスカだったような気がする・・・って、それはどうでもいいッ。いいかキーコ、俺はおまえを探しに来たんだ。決して覗きに来たんじゃない。だから、誰にも言わないでください」


「モンちゃん、大丈夫? 何か情緒不安定になってない?」

「違うだろうッ、なんで俺が心配されてんだ。いいからこっちに来い。朝ごはんを買ってきた、一緒にたべよう」


「もう、強引なんだから。でも、少し待っててくれる、中から荷物を取って来る」

「いいだろう。だけど、俺も一緒に行く」


「んっ、逃げたりしないから大丈夫だよ。今日のモンちゃんは何か過保護だね」

「そうじゃねえ、ひとりここで待つのが怖いからだ」


軽蔑の眼差しが、哀れんだ眼差しに変わり、キーコは俺の手を握ると動じることなく中に入って行く。


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