第184話 シュシュ
キーコは強く握った俺の手を、緩めることなく引っ張ると、人のいない繁華街の外れの方に無言のままで連れて行く。
マズかったかな? もしかすると、キーコの自尊心を傷つけちゃったかな?
俺にはキーコの今の気持ちがわからない。
急ぐあまりに髪飾りにしていた花が落ちても、キーコは気付く事なく、俺の呼び止めに止まる事なく歩み続けた。
繁華街を通り過ぎて人の賑わいがなくなると、キーコは歩く速度を落として、誰も居ない海岸に到着すると砂浜に腰を下ろした。
「どうしたキーコ、こんな所に座り込んで。島の案内をしてくれるんじゃないのか?」
「・・・ねぇ、教えて紋次郎君、どうしてあたしに優しくしてくれるの?」
「何言ってんだ、対価だって言っただろう。それに、初めて会った時、おまえが協力をしてくれたから、しんどい思いをしなくて済んだのに・・・本当に、あの時は助かったぜ」
「そうなの? 実はね、あたしは男の人が怖かったの。でも、勇気を出して近付いて良かったよ」
「おまえ、その割には初対面の俺をおちょくっていたくせに・・・本当に男が怖いのか?」
「うん、昔の嫌な思い出があるから。でもね、紋次郎君だけは別だよ。見た瞬間、初めて男の人の味方が現れたって、直感したの」
「いいぞキーコ、これからも直感は大切にしろ。俺も直感は大切にしている。ちょっと待て、ジッとしていろ。おまえが急ぐから、髪飾りの花が落ちたのに気付かなかっただろう」
「あれ? お花が無くなってる。も~う、落ちた時に教えてくれたたら良かったのに」
「あのな~教えてやったよ。でも、無視したのはキーコの方だろう」
「うっ、だって・・・こんなにきれいな服を着せてくれて、【可愛い】って誉めてくれたから、あたしはもう、うれしいのと恥ずかしのとで、何も耳に届かなかったんだよ」
「いいからジッとしていろ、この為にシュシュを買った。あの花と同じオレンジ色だ。これなら
「これ、髪の毛を束ねる物なんだ、ありがとう。この
「リュックだから。キーコ、おまえは子供の癖にときどき妙な言葉を使うな」
「そんな事を言ったって、荷物を背負う道具を、あたしは
「ほれ、出来たぞ。髪の毛を輪っかに通すだけだから、明日から自分でやれよ」
俺は小さな鏡をリュックの中から取り出すと、キーコに髪形の確認をさせてやる。
ふんわりとした白いワンピースに、オレンジ色のシュシュがよく映える。
しばらく鏡を見ていたキーコは、下を向くと小さな声で泣き出してしまった。
・・・・へっ? ちょっと待て、なんでキーコは泣いてんだ?
「ごめん紋次郎君。髪を
「そうか、優しい母ちゃんだったんだな。でも、キーコは大袈裟だぞ、これくらいの事で泣くな。もっと強くなれ」
「うん、分かった、強くなる。ありがとうね・・・それで、モンちゃんはこの島の、どういう所を案内して欲しいの?」
「おっ、元気が出たな。いいぞキーコ、これからは強く自分勝手に生きろ。それでな、俺が案内してほしい場所は、
「うん、まぁ、いっぱい知ってるよ。だけど、遊び半分で見に行くと危険だよ」
「危険? キーコ、おまえは危険な目に遭った事があるのか?」
「うん、一度だけね。だけど、あんな危険なヤツはこの島に居ない。だから大丈夫だよ。あっ、でも、あっちの浜辺に変なヤツがいる。そこには近づかない方がいい」
「あっちの浜辺って、どの辺り? もしかして、キーコは幽霊とかが見える人?」
「内緒だよ。あたしには人間以外の物の怪が見えるの」
「マジかッ! キーコおまえスゲーな・・・って、ウソなんだろ。また俺をおちょくるつもりなんだろう」
「まぁ、信じるかどうかは紋次郎君に任せるよ。それじゃあ行こう。この姿のおかげで別人になったみたい。ワクワクする」
「待てキーコ、一つ注意をしておく。さっきのように、俺を引っ張るのは構わない。ただし、ヘビがいたら手を離せ。それから、ヘビが出そうな場所は歩くな」
「へっ? もしかして、モンちゃんはヘビが怖いの?」
「そうだ、俺はニョロニョロしたモノが苦手だ。特にヘビ! アイツは俺の天敵だ」
キーコは我慢しているのだろう。
奥歯を噛みしめて、笑いを
だって、仕方がないだろう、苦手なんだから、怖いんだから。
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