第180話 思い出した事

桃代はふみを読みながら、気になる部分を自分のノートに書き出している。

そうは言っても昔のふみだ、当然粗末な紙なので、色あせてかすれた上に、ところどころ虫に食われた箇所や、破れた箇所もある。

しかも書き残したのは子供だ。

読み進めるうち、一通のふみに対して、時間が掛かるようになってきた。


もちろん、俺を心配しての事なので文句は言えない。

手伝う事を許されず、ジャングル風呂にも行けない俺は、気になる点をもう一度考える。

悪夢の内容を聞かせた時に、桃代に指摘された矛盾点についてだ。


確かに侍は一人に見えた・・・ぼろい舟の板の隙間から覗いただけなので、他の奴らに気付けなかった? 

いや、そうじゃない、侍のインパクトが強過ぎたんだ。

突然平和な島にやって来て、顔見知りのおばちゃんや、一緒に遊んだ子供達を、次々と血まみれにして殺害したのだから。


でも待てよ、何かヘンだぞ? 

悪夢の内容を俺の想像力が、勝手に補完しているだけなのかも知れないが、なんで女と子供だけなんだ? 男の奴らはどうした? それに侍が身に着けてるかみしも? 何か憶えがある? 何に対して憶えがあるんだ? 


そんな事を考えて、ノートにメモをしていると、食事が運ばれて来た。

テーブルの上の物を一旦片付けて、食事をしながら考え続けていると、またしても桃代に頭をはたかれた。


「もう、そんなにむずかしい顔で食事をしないの。消化に悪いでしょう」

「うん、わかったから頭をはたくな。ユリ、おまえはニヤニヤするな。桜子、おまえは自分の嫌いなおかずを俺の茶碗に入れるな」


「ねぇ、紋ちゃん。もしかして何か思い出したの? もしもそうなら、ちゃんと伝えてね」

「あのな桃代、悪夢の中で殺されていたのは女と子供だけだった。なんで男が居ないのかなって、思ったんだよ。あとあの悪夢なんだけど、それ自体をあなたが見せた。そういう事ではないよな?」


「紋次郎君、何バカな事を言ってるのッ。桃代姉さんにそんな事が、出来る訳ないでしょうッ」

「そうなんだよな。ちなみに、悪夢の中に桃代さんが友情出演をした記憶はありますか?」


「紋次郎君、あなたの夢に桃代さんが出てたとしても、桃代さん本人に分かる訳ないでしょう」

「まあ、そうだよな。それよりも桃代の方こそどうなんだ、何か解明しました?」


「まあねっ、あまり気分の良い話ではないから、食事中は話したくない。でも、今の話は気になる。確かに男の人が居ないのはおかしいよね。それと、これだけは言っておく。悪夢を見せたのはわたしではないよ。あと、夢の中にわたしがいた。そう思う根拠が何かあるはずよ、よく思い出して」

「うん、それがハッキリしなくて、また何か思い出したら伝えるよ」


「よし、今日はここまでにしましょう。情報を小出しにすると、紋ちゃんの記憶が変に影響されて、違う物に書き換えられる可能性があるからね」

「悪いなモモちゃん。そういう事だから、ユリと桜子は食事が済んだら、さっさと自分の部屋に帰れ」


「何言ってんの紋次郎君。部屋はこのひと部屋しか取ってないよ。というか取れなかったんだよ。他の部屋に空きがなくて」

「はぁ? なんでだよ、ユリも居るのに。どうせまたおまえのミスなんだろう桜子」


「紋次郎君、何も事情を知らないくせに、そういう言い方は無いでしょう・・・わたしのミスだけど」

「悪かったよ・・・って、やっぱりおまえのミスじゃんか。じゃあ、襖の向こうの部屋で俺は寝るから、おまえたち三人はこっちの部屋な」


「また~ダメに決まってるでしょう。もしも、夜中にれていかれたらどうするの? 何時いつものように、わたしと一緒だよ」

「いいな~わたしも桃代さんの隣で眠りたい。ねぇ紋次郎君、この部屋で全員一緒に眠りません?」


「ユリ、おまえも桜子と一緒で実はバカだろう。しょうもない事を言ってないで、次の行動に移れ。俺は風呂から出たらさっさと寝る」

「よし、では、ユリと桜子はジャングル風呂に行きなさい。わたしは紋ちゃんと一緒に内風呂に入るから」


「ももよ~桜子がやらしい目で俺を見るから、おまえもユリと一緒にジャングル風呂に行けよ。」

「もう、紋ちゃんさぁ、また自分の状況を忘れたの? あなたを一人に出来ないから、みんな集まって居るのに」


「そうですね、すみません。無駄な抵抗なのは分かってました。ただ人前で、いちゃいちゃしてると思われたくなかったんです」

「まぁいいけど。じゃあ、ユリと桜子はお風呂に行きなさい。今日は疲れたから早めに休みましょう」


桃代の号令で、ユリと桜子は速やかにジャングル風呂に行く用意をしている。


食事の片付けは仲居さんがしてくれるので、俺も手伝い早く終らせる。

ユリは仲居さんが出て行くと【紋次郎君は優しいですね】っと、めてくれるが、そうではない。

ただ単に他人がいるのがイヤなのだ。


まあ、それでもユリは慣れてきたので我慢してやる。


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