第171話 島流し

俺と桃代は手を繋ぎ、桟橋の見える場所まで仲良く歩いて行くと、午前の連絡船はすでに到着していた。

下船していた桜子は桃代を見つけると、急いで駆け寄って来るが、梅さんをほったらかしにしてどうする、もう少し自分の身内に気を遣ってやれ。


しかも、このあとで、宿の連絡ミスを怒られるのに、そんなに嬉しそうな顔で手を振って、ほんと俺とは別方向のバカだよな。


無事に到着した桜子は、喜んだあと、桃代に連絡ミスを怒られてシュンとしていた。

自分のミスなのだから、それは仕方がないだろう。

それなのに、何故なぜ? 俺を睨む。


荷物を置く為に旅館に戻ると、ロビーにはユリが一人で待っていた。

俺がシャワーを浴びてる時に、桃代が連絡をしてたのはユリなのだろう。

再会の挨拶をしたあとで、桃代と梅さんがフロントにチェックインの手続きに行くと、ユリと桜子はここぞとばかりに、俺に抗議を始めた。


「紋次郎君、どうして昨日は居なくなったんですか、わたしはちゃんとお礼をして、ウチに泊まってもらう予定だったんですよ」

「そうだよ、紋次郎君がユリさんの家に泊まれば、わたしの連絡ミスはバレなかったのに」


「父が回復したあとで、どういう事なのか家族に説明をしたんですが、そうしたら、【早く紋次郎さんを連れて来なさい】って、怒られちゃいましたよ」

「そうだよ、わたしも桃代姉さんに怒られたんだよ、紋次郎君が海岸で漂流者になってるから」


「いいかユリ、俺はやる事があるから【行かない】って、言ったよな。ほら、桃代が戻ってくるぞ、今の話を聞かれると面倒な事になるから、この辺にしておけ。桜子、おまえは調子に乗ってると桟橋からブン投げるぞッ」

「お待たせ、取りあえず荷物を置いたらユリの家に行こうか。ピラミッド山の中を見てみたいし、なんの為に作られたのか、蔵の中で文献を探したいからね」


桃代が戻って来たので、俺はユリの愚痴から解放されて、桜子は何時いつものように笑って誤魔化していた。


荷物を部屋に置くと、ユリの家までのんびり歩き、鬼門家おにかどけのデカい門をくぐると、家族の人たちに迎えられて、昨日のお礼を言われるが、俺は正直どうでもいい。

桃代が危険な目に遭わないように、ある程度は自分で調べるつもりだったのに、桃代がこの場を仕切り始めて、俺の計画は台無しだ。


いよいよ調査という段階で、桃代の段取りが発表された。


「では、洞穴に入り中を調べるのは、わたしと紋次郎の二人でするから、ユリは家族と一緒に蔵の中で文献を探しなさい。桜子はわたしの手伝いね。梅さんは鬼門おにかどの婆様と同級生なんでしょう。縁側で昔話でもしてなさい」

「・・・・えっ! 婆ちゃんは、ユリさんの婆ちゃんと同級生なの? なんでわたしは知らないの、どうして桃代姉さんは知ってるの?」


「桜子や、そうでなければ、わたしがここに来る理由がないでしょう。あなたは本当に、考えが及ばないねぇ」

「うっ、最近の婆ちゃんは、紋次郎君みたいな言い方をする。ちっくしょう! 紋次郎のヤツ~」


「桜子、おまえは本当にバカだよな。この場で俺を悪く言うと、桃代と梅さんに睨まれるのに、どうして理解が出来ない」

「あっと、すみません。紋次郎君には何故なぜだか何でも言えちゃうもので、決して悪く取らないでください」


「まぁいいわ。度が過ぎないようにしなさい。じゃあ、ユリは巻物や書物を蔵から出して、何処どこかにまとめておきなさい。後でわたしも見るから」

「桃代さん、一応はわたしの家なので、わたしもそちらを手伝います。お客様に何かあれば、鬼門おにかどの恥になりますから」


「ユリ、あなたの気持ちはわかるけど、また妙なモノに取り憑かれたらどうするの? そうなると、誰が大変なのか考えてみなさい」

「でも・・・それだと、桃代さんにも紋次郎君にも申し訳ないです。それに、わたしも何か役に立ちたいですから・・・」


「ユリ、はっきりと言う、おまえが居ると邪魔だ。桃代と桜子も同じように邪魔だ。俺が安全と思うまで、誰も近づくな」

「おや~わたしの事まで邪魔って言いました? そうなの? 紋ちゃんはわたしが邪魔なの? 返答次第では、このままこの島に島流しよ」


「あのな~ももよ。いい加減に時代劇の影響はやめろ。昨日は打ち首獄門で、今日は島流しか?」

「だって、わたしが見てないと、また無茶をするでしょう。だったら、二度と無茶が出来ないように、今すぐ内臓を抜いてミイラになる?」


「怖い怖い、なんで内臓を抜こうとするの、ユリがドン引きしてますよ。どうする? 下手に役に立とうとすると、ユリの内臓が抜かれるかもしれないぜ」

「すみません、まだ生きたいので蔵の方で頑張ります。桃代さん、もうワガママは言いません」


「さて、どうする紋次郎。まだ、わたしを邪魔者扱いするつもり? それともミイラになる?」


なんだ? このかなってない理屈はッ、選択肢が無茶苦茶過ぎるだろう。

まあ、わかっていたけど、桃代を抑え込むのは俺には無理だった。


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