第164話 露払い

他所よその家を圧倒するデカい門。

門を支える隣の柱には、鬼門おにかどの名前が彫ってある表札がかかげられている。

ここがユリの家なのだろう。


確かに、家の裏手には、小さな山らしきモノがある。

海風をしのぐ為の、人工的な丘に見えなくもない。

形状はピラミッドに似ている、桃代が興味を惹かれる訳だ。


しかし、これをブルドーザーで潰すつもりだったなら、アイツの頭の中は、すでに潰れているのかもしれない。


まず、俺はユリの携帯に連絡する。

年頃の娘の家に見知らぬ男が突然訪ねて来たら、ユリの家族が困惑するし変な誤解をされるかも知れない。

それに、この家の規模ならば、ユリは箱入り娘の可能性がある。

下手をすると、あらぬ容疑をかけられて、警察を呼ばれかねない。


まあ、俺の勝手な憶測なのだが、離島の人間は金を落とす観光客には人当たりが良いが、若い娘を連れ去る、島民以外の人間には警戒心が強い・・・気がする。


スマホを取り出して、連絡先をタッチすると、すぐにユリに繋がった。

電波状態は悪くないみたいだ。


「もしもし、ユリか? 紋次郎ですが、いまあなたのいえの前です。悪いけど、迎えに出て来てくれません」

「へっ? 紋次郎君? なんでわたしより先にうちに着いてるの? わたしは午前中の連絡船に乗れなくて、午後一の連絡船に乗って、いま島に着いたところなんだよ」


「そうなの? まあいいや。いいかユリ、余計な事を考えるな。いま、おまえがいる場所からここまで、どれくらいかかる?」

「えっ! ここから? わたしはまだ港だから、歩いて三十分くらい掛かるわよ。というか誤魔化さないでよ、同じ連絡船に乗っていたとしても、なんでもううちの前にいるのよ?」


「そうか、じゃあ十五分待ってやる。死ぬ気で走って来い。おまえが【待ってる】って言ったのに、俺を待たせてどうする」

「紋次郎君って、意外と鬼だね。質問には答えないし、年上のお姉さんに優しくするつもりもない。そんなんじゃ桃代さんに嫌われるよ」


「いいかユリ、自慢じゃないが俺は結構イヤなヤツだ。早く来ないと、俺をぞんざいに扱ったって、桃代にチクってやるぜ」

「本当に自慢じゃないッ。やめてお願い、桃代さんに変な事を言わないで!」


俺は笑いながら通話を終了すると、静かに待ち続ける。

あれだけあおれば、少しくらい、親父の心配を忘れられるだろう。


そんな事を考えていると、十分もしないうちにユリは帰って来た・・・自転車で。

まあ、確かに【俺はここまでどれくらい?】そうは聞いたが、自転車があるのなら、歩きの時間で答えるな。


俺の目の前で止まったユリは、おそらく自転車の立ちぎを懸命にして、急いだのだろう。

汗をいて息を切らしているのは仕方がない。だが、タイトスカートがズリ上がり、パンツが露わになっていた。

本人は苦しいのか、息を切らしたまま、まだそれに気が付いてない。


この状態をコイツの家族が見たら、どう思うだろう。

桜子なら、的確に状況判断をしたうえで、一度は俺をののしり、笑い話にしてくれるだろう。

しかし、俺の事を知らないユリの家族は、強姦魔に襲われていると思うのではないか?


「おいッ、ユリ、早くスカートを直せ。もしもこの場面を誰かに見られたら、どうなるか考えてみろ」

「ヒ~~ッ、わたしのパンツが丸出しになってる! もしかして紋次郎君は、また見たの? えっ? もしかして、桃代さんも一緒に来てるの?」


「いいから、まずは落ち着け。仮に桃代が一緒なら、おまえは友達の縁を切られるぞ。俺は首が切られるし。よし直ったな。じゃあ玄関からではなく、庭の方に俺を連れて行け」

「はい、では、ぐるりと回って行きましょう。それから、あとでいいですから、先回り出来た理由を教えて下さいよ」


「そんな事はどうでもいい。それよりも、どうしてこうなっているか、その理由の方が重要だろう。昨日、桃代を訪ねなかったら、おまえも親父と一緒に倒れてたかも知れないのに」

「あっと、すみません、その通りです。平気なのは、桃代さんと紋次郎君のおかげです。原因の三角山の事も気になりますが、父の事が心配ですので、先に見てもらえたらと思います」


「そうだな、それは理解している。だから、つまらない事を聞かないで、さっさと案内しろ」


正直なところ、俺はユリやユリの親父の事はどうでもいい。

俺のやるべき事は、桃代が安全に過ごせるように、露払いをする事だ。


桃代がここに来る。

龍神に死亡予告をされた、俺の問題を解決する為だ。

それでもピラミッド山に興味を持っている以上は、中に入って、ありもしない財宝を探したり、訳の分からないミイラごっこをして楽しむだろう。


目的より原因のピラミッド山への興味の方が、比重が大きい気もするが、桃代に危険が及ばぬように、何が起きているのか早く調べないと・・・・。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る