第153話 甕(かめ)

ある日の事だった、日課である桃香の塚に行ったあと居間でのんびりしていると、はなれにある桃代の議長室に俺は呼び出された。

グループを総括するという意味で、桃代は議長なんだそうだ。


扉の前でノックをすると、【どうぞ】っと、中から桃代にうながされたので入室する。

中に入ると部屋の奥に、デカく重厚な机があり、そこに桃代は座っていた。

扉の近くには普通の事務机があり、桜子はそこに座って、パソコンとにらめっこをしている。


部屋の真ん中には、立派な応接セットがあり、ソファには知らない女性が一人で座っていた。


桃代は俺が部屋に入ると、席を立ちソファの方に移動して、俺に向かって手招きをする。

訳のわからないまま移動をすると、女性は大学時代の同期生だと紹介されて、テーブルを挟んで座ると、俺の隣に座る桃代が話を始めた。


「こちら、わたしの同期生で、同じサークルの副会長をしていた鬼門おにかどユリさん。何かわたし達に相談なんだって、紋ちゃんも一緒に聞いてあげて」

「はじめまして、真貝紋次郎です」


「こちらこそ、はじめまして、鬼門おにかどユリです。あなたが紋次郎君なんだ。桃代さんの為に、千年後に黄泉返るミイラ男なるんでしょう」

「ッ!・・・・・・話は聞きましたので、これで失礼します。桃代さん、あとで話がありますッ」


俺は初対面の人間に、おちょくられるのが嫌いだ。

経験者の桜子と、しくじった顔をした桃代が、出来て行く俺を止めようとする。

その様子を見ていた鬼門おにかどユリは、急いで謝罪を始めた。


「ご、ごめんなさい紋次郎君。今のはホンのお茶目です。だからお願い、話を聞いて。桃代さんが会長を務めていた、盗掘とうくつ強奪ごうだつサークルも関係している話なの」

鬼門おにかどさん、今回だけですよ・・・あと、桃代、おまえの入っていたサークルって、そんな名前だったっけ?」


「ユリあなた、何度言ったらわかるのッ。サークル名は強奪ごうだつ略奪りゃくだつサークルでしょう。紋ちゃんが間違うから気を付けなさい!」

「ミステリー発掘盗掘ミイラ研究会じゃないのかよッ! 強奪ごうだつ略奪りゃくだつもどこにも入ってない。おまえは大学で何をしてたんだッ」


「怒んないでよ、ちょっとしたジョークじゃない。それで、話ってなんなのユリ」

「あれ? えっと、意外です、桃代さんも冗談を言うのですね。オッパイ以外は、硬い人だと思ってました」


「ユリ、余計な事は言わなくていい。あとそれでは、硬いと堅いの意味が混同するわよ」

「あ~すみません。えっと、それでは始めます。実はですね、桃代さんが【ピラミッドに似てる】ってサークル全員で調査に来た、我が家の裏にある三角山の件なんですが、このあいだのゲリラ豪雨の時にですね、山の一部が崩れて、岩で塞いだ入り口が見つかったんです。桃代さんが一番興味を持たれてましたから、連絡を取った次第です」


「うそ! あのピラミッド山の入り口が見つかったの? それで、中からは何が出てきたの! ミイラ? 財宝? 黄金のマスクは?」

「落ち着いて下さい桃代さん。ミイラも財宝もありません。ただ、素焼きのかめが一つありました」


かめ? なぁんだっ、ミイラじゃないのか。あれでしょう、むかし埋葬するのに棺桶として使ったかめでしょう。中の遺骨は、ちゃんと埋葬し直してあげなさい」

「いえ、それが、中身がですね、人間の髪の毛らしき物や動物の骨など、あとは甲虫こうちゅうなんかの残骸が入ってて、わたしはもう気味が悪くて・・・・」


「んっ、その中身? 何か魔女の瓶に似てるわね。もう少し詳しく、見つけた時の状況を聞かせてくれる」


鬼門おにかどユリは神妙な面持ちで話を続けた、聞いた限りでは、こんな感じだった。

ユリの住居は瀬戸内海にある離島で、自宅裏にある小さな山が、雨で土砂崩れを起こして、崩れた場所から、岩で塞いだ横穴が出てきたそうだ。


土砂の勢いで岩が動き隙間が出来たので、身体からだが小さくて知識のあるユリが、家族が見守る中、父親と一緒に入ったそうだ・・・父親が入れるのなら身体からだの大きさは関係ない気がする。

もちろん、その疑問をユリに問わない。桃代が真剣な顔をしているからだ。


暗く狭い横穴を明かりを片手に進み、たいして歩く事もなく、丸くひらけた場所に到着すると、その中央にかめが一つ置かれていたらしい。

かめの上には木のふたがしてあり、更にその上に、大きな石が置かれていたそうだ。

石を下ろしてふたを開けると、鼻を突くような異臭がして、中を照らすと話に出てきた物が入っていたらしい。


俺は話を聞きながらノートに書き留めて、それに対する考えも書いている。


まあ、話の限りでは、入り口を岩で隠していた理由は、なんとなくわかる。

中を荒らされたくないからだろう。


隙間があるのなら、俺も入る。

もちろん、お宝目当てでだ。


しかし、中に入るとかめしかなく、そのかめにはふたがしてあり、ふたの上に大きな石が置かれていたら不味いだろう。

中に漬物が入っているとは思えない。


どう考えて、生きたモノを閉じ込めて、逃げられないようにふたをした。

しかも入り口も閉じて、見えないように隠している。

部屋の中にヤバい奴を封印したのか、かめ自体がヤバい呪物としか考えられない。


だが、さすがは桃代の知り合い、かめをひっくり返して、黄金の財宝を探したそうだ。

どう考えても、ヤバい物にしか思えないかめなのに、気味が悪いと言いながら、そこまでやる図太い神経、俺はこの女の方が気味が悪かった。


それから、桃代が言った、魔女の瓶ってなんだ?


まあ、何にせよ、俺はこの手の薄気味悪い物に、関わりたくない。

それなのに、どうして俺を同席させる必要がある?


「ねぇユリ、その空間や、かめに関する記録は何か無いの? あなたの家には蔵があったでしょう、中に文献や巻物とかは無かったの?」

「今のところ、それらしき文献は、まだ見つかって無いです。でも桃代さんでしたら、何か知ってるかと思いまして・・・」


「だから、あの時にブルドーザーで山を壊しておけばよかったのに。あの山は、ユリの家が所有してる山なんでしょう」

「無理を言わないで下さいよ。爺さんと父さんが生きてるあいだはダメだって、納得してくれたじゃないですか」


「そうだっけ? どう見てもピラミッドにしか見えないあの山なのに、わたしの手で入り口を見つけたかったなぁ」

「桃代さん、他所よその家で破壊活動をすると、オイラは怒りますぜ。それから、なんでこの話に俺を同席させたの?」


「うっ、破壊活動はしません。だから怒らないでください。それから、同席してもらったのは、ユリの家も一応は真貝の親戚筋だから、紋ちゃんにも聞いてもらった方がいいかと思って」

「あのな~ももよ、おまえが危険な場所には近付くなって、俺に釘を刺したんだろう。変な事に巻き込まれたら、どうするつもりだ?」


「変な事って、酷い。困った事があれば、真貝の当主に相談しなさいって、親戚筋のわたし達はそう教えられていたのに」

「・・・・はぁ? そうなの? なあ桜子、そうなのか?」


「ヘッ、わたし? そうだね、わたしのところは親父がやらかしちゃったから、本家には頼れなかったけど。そうでなければ松慕まつぼさん達分家の人が、本家からあんなにお金を借りられる訳がないでしょう」

「ふ~ん、まあいいや。当主は桃代さんなので、桃代に相談してください。オイラは、最近太り気味のポチを、散歩に連れて行く時間なので失礼しますね」


「へっ? 何言ってんの? わたしは当主代理だよ、当主はまだ紋ちゃんのままだよ」

「!? ももよ~ッ、当主はおまえに返しただろう。なんで、そのままなんだよッ」


「だぁって、わたしより紋ちゃんの方がひとけが良いから、仕方がないじゃない。その分の面倒事は引き受けてあげてるのに・・・じゃあ、わたしの代わりに議長をやる?」

「うっ、ごめんなさい。俺に経営は無理です・・・えっ! じゃあ、当主は俺なのに、小間使こまづかいをさせられてたの?」


「じゃあ、議長をやる?」

「いえ、小間使こまづかいで結構です。雑用はなんなりと、お申し付けください」


「紋次郎君、当主のくせに情けない姿を見せないでよッ。そんなだから、桃代姉さんが苦労するんでしょう」

「うっ、当主の肩書がどんどん地に落ちる。すみません秘書の桜子さん・・・って、調子に乗るなよ桜子。おまえまで俺をパシリにして、アイスを買いに行かせた事を、梅さんにチクるぜ」


「ひッ、婆ちゃんには内緒にしてください。婆ちゃんって、妙に紋次郎君の事を気に入っているから、悪口を言うとわたしが怒られるんだよ」

「あら桜子。あなた、紋ちゃんの悪口を梅さんに言ってるの? それはダメね。明日から平社員になる?」


「ヒ~ッ、勘弁してください、わたしは絶対いじめられます。桃代姉さんに連れられて何処どこの会社に行っても、お局様らしき人が睨むんです」

「あの~~ 桃代さん、話がれてると思うのですが。お願いッ、当主の紋次郎君、わたしと一緒に島に来て、現物を見てください」


「えっ! イヤです。桃代さん以外の女性と出掛けたら、浮気を疑われて酷い目に遭いますから。そうだろうモモ」

「紋ちゃん・・・わたしもピラミッド山の中を見てみたい。早目の夏休みをたっぷり取るから、一緒に行こう」


桃代が決定すると、俺に拒否権はない。

ましてピラミッドの単語が出てきた以上は、尚更だ。

桃代の都合がつくまでは、しばらくユリは母屋に滞在する事になった。


このあと、大変な事に巻き込まれて行くのだが、俺はまだそれに気付いてない。

ただ、桃代のスケジュールを管理している桜子だけは、すでに大変になっていた。


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