第145話 分家

桃代のシミュレーションを読む為に、かなりの時間をようしたのだろう、分家の連中が集まり始めた。

はなから、俺と桃代は中で話をするつもりがない。

ばあさんを連れて来た桜子に頼み、庭で待つように伝えてもらう。


待ち合わせをしていたのだろう、グループで来た分家も居る。

数は力なり、そのつもりなのか、初めて見る顔もたくさんいる。


まあ、確かに俺は桃代の言う通り、当主になって日が浅い、知らない人が居るのは当然だと思う。

それにしても人が多い、余計な人が混ざっている気がする。


分家の人間が全て揃うのを待ってるかのように、桃代はなかなか腰を上げない。

渋めのお茶を飲みながら、モニターを見ている。

俺はモニターが気になり覗いてみると、ピラミッドの頂上に隠された、高感度カメラの捉える映像だった。


桃代さん、あなたにはのぞきの趣味でもあるの?

意味がわからず眺めていると、すぐにその意味を理解した。


日傘で隠れて顔は見えないが、あのババアッ、いま唾を吐きやがった。

こっちの野郎はタバコを投げ捨てると、火も消さない。

あっちの方ではガムの包み紙を捨てるヤツ、飲み終わったコーヒー缶を捨てるヤツ。

・・・・・なんだこいつ等。

桜子と桜子のばあさんは、その都度火を消して、吸殻やゴミを拾い集めている。


「紋ちゃんも見たでしょう。これが分家の本性。わたしの時もそうだった。本家の若い当主を舐めてるの。それなのに、わたし達の前ではしおらしくする。こんな奴らを信用できる訳がない」

「桃代さん、俺は舐められてもいいし、バカにされてもいい。今までの人生そんな感じだったから。だからね、過激な事はしないでね」


「ダメ! 紋ちゃんが軽く扱われるのは、わたしが我慢できない。紋ちゃんが居なければ、わたしもあの人達もハブの助に殺されていたかもしれないのに、感謝の欠片かけらもない」

「いいよ別に。あんな奴らのうわつらの感謝には何も価値はないし、恩に着せるつもりも無い。桃代さんがわかってくれてるだけで、俺は満足だから」


「むふっ、わたしの事が好きでたまらないのね。仕方がない、今日から一緒の布団で眠ってあげる」

「ももよさん、俺の事を一番舐めているのは、きっとあなたですよ。ほら、もういいからさっさと用意をしろ。ゴミ拾いをしてくれる桜子と婆さんに悪いだろう」


桃代は何時いつもの【えへへ】笑いで誤魔化すと、着替えに行く。


今日は白ではなく、薄桃色のワンピースを着て、大きな麦わら帽子をかぶっている。

当然のように、腰の辺りにモモマークが付けてある。

面倒なので聞かないが、なんなんだ、そのモモマークは? 何か意味があるのか?


腰からぐるりと回って大きな胸、胸から顔へ、じっくりと桃代を見たが、何時いつものふざけた表情が消えていた。


桃代は一つ息を吐き出すと、リュックの中に用意をしていた荷物を入れる。

俺が背負う、俺のリュックなんだから、入れる前に何か言え。


準備が終わると、桃代は俺の手を引きながら一緒に外に出て行く。

すると、慌ててタバコを投げ捨てるヤツ、横を向いて噛んでるガムを吐き捨てるヤツ、バカな男がたくさん居る。今更背筋を伸ばしても意味あるかッ!


俺は捨てられたタバコを拾い、そいつの高そうなスーツの胸ポケットに入れてやる。

もちろん落とし物を拾ったからと、一割の謝礼を要求するつもりはない。

まだ火がくすぶっているが、俺は気にしない。

自分の身が焦がれれば、その危険性を理解できるだろうから気にしない。

まわりでは、バカな男達が、ガムや吸殻を拾っている。


「おい放火魔、放火未遂でそこのざいえんの世話になるか?」

「も、申し訳ありません当主様。わたしくの息子が失礼をしました。ほらッ、早く、貴方も謝りなさい!」


「いや、謝罪はらない。その代わり今日を限りに、二度と真貝の私有地に立ち入るな」

「ぐッ・・・こ、この・・・ッ。」


息子なのかオッサンなのか、何か言おうとするが、俺は謝罪を受けるつもりがない。

息子は不貞腐ふてくされているが、ババアは必死に謝っている。

でもその日傘・・・おまえが唾を吐いていた下品なババアだよな。

松慕まつぼの配偶者ッ。


俺はババアと息子を無視して、みんなをまとめて付いて来るようあざみに伝える。

ここで話をするつもりはない、頂上まで連れて行き、広場で話をするつもりだ。


本家は俺と桃代の二人だけだが、分家は六つ、それぞれの代表にその配偶者、更に息子や娘など、かなりの人数になっている。

いくら母屋が広いとはいえ、二十人以上の人間が、一つの部屋で話をすると息がつまる。


あざみは俺の意図を汲み取ると、上手くみんなをまとめてあとに続いて付いて来る。

今のところ、分家の中で信用できそうなのは、松慕まつぼによって冷遇されていた、桜子の秋野家とあざみくらいだろう。


松慕まつぼやぶたけ、更に草生そうせい、この絶縁した三家は話にならない、ざいえんはまだよくわからない。


俺と桃代は先頭を歩いているが、後ろからぶつくさと男達の声が聞こえる。

【暑い、疲れた、しんどい】愚痴のつもりだろうが、俺には本家に対する文句にしか聞こえない。反省しない奴ら。


そもそも呼んでないのに来るなよな。


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