第115話 ハッタリ

結界のける時間・・・それを前もって、俺はあまちゃんに聞いていた。

その時間に合わせて、両手を前に出して気合を入れると、さも自分が結界を消したふうよそおう。

ただのハッタリなのだが、相手をまどわせるには充分だった。


ハブの助は自分が壊せなかった結界を、あっさりと消し去ったので俺を警戒している。

同じく龍神も大きく目を見開いて、驚いた表情をしている。


確かに俺は何も力を持っていない、やる事なす事すべてが裏目に出るバカな男だが、ここに来て桃代のミスリードのおかげで鍛えられ、それを習得していた。


さえぎる物が無くなった今現在、ヤツは何時いつでも俺を襲えるし何時いつでもれの力を発揮できる。

しかし、ありもしない俺の力を警戒し襲い掛かれない。

この警戒心が俺には必要だった。


当初の作戦では、俺が走り回り、追い切れないハブの助が龍神に乗って追いかけて来る。

その予定でいたが、肉が再生したハブの助と競争になれば、追いつかれる可能性がある。

あの肉は筋肉だ。あんな再生は想定外なんだから、ヤツの能力は未知数だ。

つかまればあっという間にミイラになる、それをさける為には俺を警戒させる必要がある。

行き当たりばったりで考えた苦肉の策だが、効果はあった。


ハブの助は新しく手に入れた穢れの力を早く試したい、そんな様子がうかがえる。

しかし、相手の力も警戒しなければ、そんなジレンマもうかがえる。


あとはハブの助が龍神をどう扱うか、それに賭けるしかない。

今後も龍神を利用するつもりなら、無理な攻撃はさせないはずだ。

二手ふたてに分かれてはさちにする。

それが賢いやり方だと思うが、それをされると俺はひとまりもない。


桃代の話では、モモが当主になった頃、大蛇おろちおとろえていたと聞いた。つまり、あまり大切にされてなかったのではないか?

であるならば、ハブの助は龍神を捨て駒にする。

ヤツは安全な場所に隠れて隙をうかがい、ある程度のお膳立てを龍神にさせる。それで龍神が傷つこうが関知しない。そのうえで隙が出来た俺を襲う。そんな予測を立てている。


俺は龍神の攻撃をかわし続ければいい。

かわせない攻撃ならば、この木刀で退ければいい。

更に警戒心をあおる為に、灯油を染み込ませたタオルの部分に火をつける。


一度でも権力を持った老害は短気だ。

物事が思い通りにいかないと、強引に力を使って相手を潰しにかかる。

龍神に股がり同時攻撃して来るのを待てばいい、そうすれば俺の計画通りになる。


何ひとつ計画通りに進んだ事のない俺の作戦なのだが、桃代の為に頑張るしかない。


思った通りハブの助は俺と距離を取り、龍神に向い【大蛇おろち】と声を掛けた。


大蛇おろち! その小僧を虫の息に変えろッ。ただし殺すな。死体になると気枯けがれの効果が見れんでのう」

「ヒーッ、紋ちゃん逃げて! 身体からだがワシの言う事を聞かんのじゃ。ついでにその火の点いた棒で殴らんとって」


「龍神テメエ、殴られたくなかったら、少しは術に抵抗しろよな!」


体長20メートル位はある龍神の身体からだ、頭のつのけても次は手足の爪、尻尾の先のトゲ、全てをけないとヤツの一度の攻撃は終わらない。


昨日味わった攻撃だ、桃香を背負ってない分、今日は楽にけられる。

その楽になった余裕をハブの助の警戒に気を回すが、案の定ヤツは距離を取り、自分の居場所を悟られないように俺のうしろの方で姿を隠している。


化け物の癖に姑息な行動をとるのは、長いあいだに染みついた老害特有の汚さだと思う。

とにかく、俺はける事だけに専念すればいい。

けきれない、そんな動きを龍神がすると、木刀で小突いてなんとか逃げる。

ハブの助が近付くと、火の点いた木刀を振り回して威嚇する。


何かで読んだ事がある。

どんなに穢れた者や穢れた場所も、燃やしてしまえば浄化ができる。

嘘か本当か、それは知らない。

何も力を持ってない俺が出来る唯一の抵抗力、それが火の点いた木刀だった。

ただハブの助が大蛇おろちの力を思い出し、雨を降らせれば、今の状態はあっというに逆転する。

俺はハブの助が冷静にならないよう、言葉と行動でおちょくり続けた。


かなりの時間を走り回り、俺は息が上ってきている。

龍神の体当たりを全力でかわし、時には転げまわり、時にはジャンプしてかわし続ける。

実のところ、かなりキツい。

出来ないのはわかっているが、一度タイムと言って休憩をとりたい。

頼む龍神! もっと手加減してくれ、俺とおまえの仲だろう。


表情に出ないよう、余裕があるフリを続けていると、ハブの助がイライラしているのがよくわかる。


もう少しだ、頑張れ俺。



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