第54話 神社

俺はリュックを背負うと、桃代の手を引きながら頂上を目指し始めた。

昔は何処どこに行くにも、桃代に手を引かれて一緒に行ったのに、今は逆だ。


俺が成長したのか? 桃代が退行たいこうしたのか? どちらにしてもなつかしい。

そして・・・楽しい。


しかし、楽しんではいられない。

人が死んでるし、桃代を守る為にも早く原因を解明しないと落ち着いて暮らせない。

そんなことを思い、手を繋いで頂上を目指していると、桃代が妙な事を言い始めた。


「ねぇ、紋ちゃん。わたしはずっと待ってるの。だけど、便たよりが無いのはどうしてだと思う?」

便たより? なんのことだ。ちゃんと主語を入れて話せ」


「だからね、カイロ博物館からの便たよりが無いの」

「カイロ博物館? それって、エジプトにある博物館のことか?」


「うん、そう。ほら昔から言うでしょう。待てばカイロの便たよりありって」

「ワザとか? それとも、俺をおちょくってんのか? それを言うなら【待てば海路かいろ日和ひよりあり】だろう!」


「そうそう、今は苦しくても、我慢をしていればいつかくなるって言うことわざ。だから、紋ちゃんはあせらないでね」

「ももよ~~ッ、はげますつもりかも知れないけど、わかりづらい! なんでもかんでもエジプトをからませるな!」


俺は山をのぼるより、桃代のはげましに疲れて頂上に着いた。

まずは神社のまわりを見渡して、異変が無いか確認する。


御神体は何処どこに消えたのだろう? 本当に黄泉よみかえったとしても、何処どこかに身をひそめているはずだ。

俺は用心深く進む。


それなのに、桃代のヤツがスタスタ進んで行きやがる、俺の気遣いは台無しだぜ。


「桃代さん、もう少し考えて行動してくれません。あなた、突然襲われたらどうするの?」

「大丈夫だよ。ほらあそこ、あそこにてんちゃんが居るからね」


神社のまわりを気にしていた所為せいか? 塚の近くの木陰にいる、あまちゃんを見落としていた。

何故なぜだ? 何時いつもあの人を警戒しているのに、俺はなんて間抜けなんだ。


「てんちゃんおはよう。今日もいい天気だね」

「うむ、そうじゃのぅ。モモの言う通り気持ちのい天気じゃ。紋次郎、われに挨拶はどうした?」


「はい、おはようございますあまちゃんさん。今日も暑くなりそうですね」

「当たり前じゃ、夏なんじゃから。それよりも紋ちゃんおぬし、昨日は何か策がある口振りじゃったが、何も無くてつまらんかったぞ」


「えっと、何のことでしょう? もしかすると、分家の連中とやり合った時のことでしょうか?」

「そうじゃ、面白い見世物を期待しておったのに、時間の無駄じゃったぞ」


「そうですか、すみませんでした。俺は調べたい事があるので、これで失礼しますね」


なんだ、あのクソババア、おまえには関係ないじゃん。

なんで俺を責めるの? そもそも何処どこで見てたんだよ? 蚊に刺されて尻がかゆくなれ! などと、俺は口に出さないように心の中で悪態をつく。


結局、俺は一人で神社を調べることになり、桃代はあまちゃんと楽しくお喋りをしている・・・おまえは何しについて来たんだ?


小さな神社の中に入ると、俺は何かを探している。

何をと言われても、何か手掛かりになるモノだ。

そんなモノが有るのかさえ、わからない。

祭壇の下やそのまわり、戸棚の中などを調べてみるが、当然何も見つからない。

床や壁、気になる場所を軽く叩いて音の反響なども調べてみるが、おかしな所は見つからない。


そろそろ、イヤになってきた。


今度は外に出て神社のまわりを探して見る。

古ぼけた建物には、何度も修繕した跡がうかがえる。

神社や仏閣の参拝記念に、自分の名前を書いた千社札せんじゃふだを柱や天井に貼る。そういう所もあるが、この神社には何も貼られてない。


ただ、いくつかの落書きを見つけた。

どこの世界にも馬鹿がいる。

なんの記念だか知らないが、相合い傘を書いて、そこに各自の名前を並べるバカップル。

俺はそんな奴らが大嫌いだ。


イライラしながらも、それらを無視して俺は手掛かりを探す。

そして神社の裏で、また落書きを見つけた。

やはり相合い傘だ。死ねッ、バカップル。


そうつぶやいた手前、俺は死なないといけないようだ。

相合い傘の左右には【もも、もんじろう】そう書いてある。

おそらく、幼い頃に桃代が書いた物なのだろう、あいつはいったい何を考えているんだ。


俺は地面に両手をつけて脱力する。

すると、そこから神社の床下が見えた。

俺はスマホのライトで床下を照らして、手掛かりを探してみたが・・・何も無い。


ここの場所に関しては、何も無くてホッとした。

もしも、暗い床下に御神体が居て【こんにちは紋次郎】そう挨拶をされたなら、俺はそのままあとずさり、ついでに崖から落ちると、自分で言った通り死んでしまうだろう。


ここには何も無い。

念の為に、俺は鳥居も調べることにした。

神社と比べても一段と古ぼけた鳥居、何かあるとは思えない。

だが、決めつけてはいけない。

固定観念を捨てないと、俺のような凡人には何も見つけられないだろう。


二本の柱をよく見て調べるが、桃代のヤツ、どれだけ落書きしてんだよッ!

アイツとエジプトに行ってはイケない。ピラミッドが落書きだらけになって国際問題になるからだ。


俺は天をあおいで脱力する。

ふと見ると、鳥居の上に掛けてある神社の名前を書いたしんがくに、もも神社の文字を見つけた。

風雨にさらされたそれは、かなりかすれて読みづらい。

それでも、平仮名のももの字と神社と書いた漢字は読める。


しかし、妙な書き方だ。

ももは横書き、神社は縦書き。

そして、ももの字の下に、小さな文字で何か書いてある気がする。

ただ、小さくて、かすれているので全く読めない。もしかすると雨がにじんだだけかも知れない。


俺は確認する為に、桃代にも見てもらうことにした。


「桃代さん、あそこ、もも神社のももの字の下に、何か書いてあるように見えない?」

「ん~っ、よく見えない。紋ちゃんが肩車をしてくれたら見えるかも」


「うっ! 俺はいいけど、おまえはイヤではないの?」

「んっ? わたしはかまわないよ、紋ちゃんだったらね。だけど、他の人だと絶対にイヤよ」


何やら、変な気持ちで肩車をする。

妙齢みょうれいの女性の股座またぐらに頭を突っ込んで持ち上げる。こんな真似をして、いいのだろうか?

しかも、桃代が穿いているのは、長めとはいえスカートだ。


しかし、そんな俺の気遣いは桃代の助言で吹き飛んだ。


「紋ちゃん、スマホを貸してくれる? 写真を撮るから拡大して見てみよう」

「あ~~そうね、初めからそうすれば良かったな。桃代、おまえ最初からわかってたんだろう!」


「えへへ、怒んないでよ。でも、紋ちゃんって力強くなったわね。幼い頃、お馬さんごっこをすると、すぐ潰れてたのに」

「いいか桃代、つまらん事を言ってると、このまま振り落とすぞ。あの時俺が潰れたのは、おまえが背中の上であばれたからだ」


「あれ? そうだったっけ? まぁ、あれよ【紋ちゃんがたくましくなった】ってめてるのよ」

「もういい! 降ろすから、落ちないように注意しろ」


ゆっくりとしゃがんで桃代を降ろすと、俺の側頭部を挟んでいた、桃代の太ももから解放された。

確認する為に、画面に光が反射しないよう木陰へ行くと、撮った写真を見てみる。

だが、拡大しても肉眼ではよくわからない。

肉眼でわからなくても、パソコンに取り込んで画像処理をすれば、わかるはずだ。


帰るのを伝える為に桃代を見ると、桃代はリュックから敷物を取り出してその上で、あまちゃんと仲良くおにぎりを食べていた。



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