第41話 大蛇の昔話

龍神が大蛇おろちの頃の昔話。

ただ、コイツも桃代と一緒で、何処どこかとぼけたところがある。

よく聞いて、気になる箇所かしょを聞きのがさないようにしないと、今後の俺の人生を左右する話かもしれない。


「そうじゃのぅ、あれはずいぶんむかしの事じゃった。ワシがここで寝とったら子供の声が聞こえてきたんじゃ」

「ここに子供? この場所はそんなむかしからあるのか?」


「ワシは、【やかましいの~】おもおたんじゃが、ワシが注意する訳にもいかんじゃろう」

「まあ、そうだな。おまえに注意されたら、俺のように記憶が無くなって、ヘビがトラウマになるぜ」


「そうなんじゃ、じゃけぇワシは我慢してたんじゃ。でものぅ、その子供たちが懐中電灯を片手に、近づいて来たんじゃ」

「懐中電灯? おい龍神、なんの話をしている。桃香の話ではないのか? 桃香の時代に懐中電灯があるはずないだろう」


「あっとすまん。こりゃ紋ちゃんと桃代の話じゃった。紋ちゃんは、あの頃から桃代の尻に敷かれとったのう」

「龍神テメエ! 明日のお好み焼きは期待するなよ。肉も卵も入ってない、ソバだけの一番安いヤツだからな」


「すまんかった。せめてブタ玉でお願いじゃ」

「いいか龍神、次にふざけたら、鱗取りでスダレ頭の刑だからなッ」


「もう、そがいに怒らんとって。あっ、そうじゃ! 紋ちゃんにもワシの鱗をやろうか? 護身用にはちょうどええで」

「そんなモノは必要ない。俺は自分の身は自分で守る」


「そうか、見えなくなったら、女湯を覗き放題なのに、勿体もったいないのぅ」

「えっ?」


「え? って、なんじゃい。紋ちゃんは、そのわかりやすい性格をなんとかせんと、何時いつまでっても桃代の尻に敷かれたままじゃ」

「ぐッ、わかってるよ。今日、俺もそれを痛感していたところだぜ。それよりも早く本題を話せ」


「そがいにいそがせんでよ。なんせ千年前の事じゃから、ワシの頭のアクチュエーターも、シークとサーチに時間が掛かるんよ」

「おまえは本当にぶっ飛ばすぞ。何処どこでそんな言葉を覚えたんだッ! おまえの頭はハードディスクかッ!」


あきらかに俺をおちょくる為に覚えた言葉の気がする。もちろん、教えたのは桃代だろう。


「えっと桃香、桃香、なんじゃったっけ? ちょっと待ってな、いま順番に思い出すけぇ・・・ん~と、ん~と、ワシが本体から逃げたあと、ワシは何をしとったんかいのう? 紋ちゃんは覚えとる?」

「あのな、俺が覚えてる訳ないだろう。聞いた限りでは、おまえ自身回復するまで、大人おとなしくしてたんだろう? そのあと、ワシはまた大蛇おろちの生き残りだって、村人を襲ったんだろう?」


「そうじゃったっけ? あの頃のワシは、いきがってとがちょったけぇ、そうかもしれんね」

「おまえ、やっと足がえて、これから手もえて成体化した龍神になるはずなのに、成体化する前にボケたのか? 老化したのか? 明日はお好み焼きではなく、おかゆの方がいいのか?」


「ま、待って、いま思い出すけぇ。えっと、そう、桃香はのぅ、桃代と雰囲気がとるんじゃ。じゃけぇ、桃代は怒らせん方がええで。紋ちゃんのあごうなるけぇね」

「おまえは、また余計な事を言って。でも、それは本当なのか? 桃香と桃代がてる話を、もっと詳しく教えてくれ」


面にれ、俺が無事だった時に考えた心当たり。

桃代が桃香の生まれ変わり。

桃代が桃香にているのなら、あながち無理な推測ではないかも知れない。


「桃香はのぅ、明るくて、優しいんじゃ。自分が好きじゃった男をワシに喰われたのに、ワシを許したんじゃ」

「あの時、おまえは男が着物の中にしのばせた、フグの毒で苦しんだんだろう?」


「そうそう、あの時のワシは、フグに毒があるのを知らんけぇ、アニサキスにあたったかと思うたんじゃ」

「いいか龍神、ふざけてるとはり倒すぞ。その時代アニサキスなんて、回虫の知識はないッ!」


「ごめん、ちょっとふざけただけじゃ。いや~フグの毒はなかなか効くね。さすがのワシも、暫く動けんかったからのう」

「生きてるだけ凄いって、普通は死ぬんだよ。しかし、好きな相手を喰われて、よく桃香はおまえを許したな。俺だったら下顎したあごじゃなくて、脳天になたを振るうか、首を切り落としてやるぜ」


「怖い事を言わんでくれるか。頭を潰されたり、首を切り落とされるのは、紋ちゃんだってイヤじゃろう?」

「当たり前だろう。誰だって、そんな惨殺ざんさつ死体したいになりたく・・ない・・ぜ」


この時、俺は改めて気付かされた。

脳をくだいて鼻からき出すと、横から腹を切り裂いて心臓以外の内臓は、取り出したあと別々の容器に入れて保管する。

ひとつ間違えれば、トンデモない惨殺死体。

そんな惨殺死体もどきに包帯を巻いて、黄金のマスクをかぶり、三千年後には生き返ろうとする。

死後、そうなりたい女が身近にいる。


「すまん龍神、お互いグロい話はやめようぜ」

「そうな、せっかくのチョコがマズうなるけぇね。それでな紋ちゃん、ワシは桃香になんでワシを許したんかって、理由を聞いた事があるんじゃ」


「おっ、それは意外と重要かもしれないぜ。早く続きを話せ」

「あのな紋ちゃん、桃香が言うにはワシに喰われた男の頼みだそうじゃ。男はワシに巻き付かれて喰われそうになった時に気付いたそうじゃ。ワシの顎の下に、さかうろこがある事に」


「最初に男が襲われた時だな。でも、おまえが巻き付いているのに、なんで男は逃げ出せたの? おまえに巻き付かれて締め上げられたら、普通の人はそれだけで全身の骨がバラバラになるぜ」

「まあ、そうなんじゃが。その時な、男を助けようとして、手当たり次第桃香がいろんな物を投げてきたんじゃ。そのひとつに、ワシの苦手なモノがあったんじゃ」


「苦手なモノ? おまえのようにとぼけたバケモノに、苦手なモノがあるのか?」

「あのな、今のワシは龍神様じゃ、バケモノはやめんかい。それに、誰にでも苦手なモノはあるじゃろう。桃代が言うとったで、青大将を見て、紋ちゃんが青くなっとったって」


「また余計な事を。いいか龍神、俺がニョロニョロしたモノが苦手な理由。それは、おまえが俺に巻き付いたからだ。申し訳ないと思ったら、さっさと続きを話せ」

「あっ、そうなの? ワシが原因なの? そりゃあすまんかった。それでな、桃香の投げた壺がワシの頭に当たって割れたんよ。しかも中身はどぶろくじゃ」


「おまえ、もしかして本当に下戸げこなの? 大酒飲みのウワバミって口が大きいヘビ、

また大蛇おろちのおまえが語源じゃないの?」

「じゃから、ワシは本体から切りはなされたんじゃ。あの時も【酒の匂いがするけぇ付いて来い】って他の八本はっぽんに言われて、イヤじゃ言うのに無理矢理連れて行こうとするから、ワシだけ捨てられたんよ」


「捨てられた? 逃げたんじゃなくて? おまえ、意外と悲しい過去があるんだな。でも良かったじゃん、退治されなくて」

「まあのう、今はこうして龍神にれたし、紋ちゃんと楽しくお喋りも出来るからな。それでな、どぶろくまみれのワシは、男をっぽって体を洗いに川へ行ったんじゃ」


「なんか学者が聞いたら、袋叩きにされそうな内容だな」

「ちなみに匂いだけで酔うて、ワシはちょっとだけ嘔吐もどしたんよ。その時な、胃液で溶けかけたモノがナメクジに見えて、それ以来ナメクジも苦手なんじゃ」


「どうでもいい! そんな情報! 早く続きを話せ!」


話が飛び過ぎる、まるで桃代だ。

桃代が龍神に似たのか、龍神が桃代に似たのか、何にせよ疲れる。


俺はまとめてチョコを口に入れると、落ち着くようにした。



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