第18話 確認

れた桃代は、逆鱗が入る桐箱を手にすると、何も言わずに俺の前から姿を消した。

追いかけようとは思わない。

確証はないが桃代の部屋、いやかくにはひとつだけ心当たりがあるからだ。

いま押しかけても拒否される。


それよりも、俺のポンコツ頭から記憶をひねり出さないとイケない。

何処どこかに記憶があるはずなのに、脳のネットワークが一部だけ遮断されてるのかな?


まあいい、長い時間、桃代と一緒に過ごせば何か思い出せるかもしれない。

その為に恥ずかしい思いをしてデートに誘ったのだから・・・あっ、でも明日の返事を聞いてない。


まあいい、夕方また聞けばいい。

あの調子なら、ご飯を作りに来てくれる。


俺はリュックを背負うと出掛けることにした。

確認したい事がある。


外に出て軽く屈伸運動をすると、太ももを叩いて足に気合を入れる。

そしてまた、えっちらおっちら山道やまみちのぼり始める。


息を切らせて頂上に着くと、大きく呼吸を繰り返し息を整える。

あまちゃんの不在は確認済みだ。

頂上に着く前に、木のうしろに隠れて真っ先に確認させてもらった。


呼吸が落ち着いたところで神社に行くと、最初に一礼いちれいする。もちろん参拝の作法などよく知らない。

俺は靴を脱ぐと中にはいってみる。確認したい事があるからだ。


確認したい事はふたつ。

まずは御神体がなんなのか? 神社である以上、何かしら御神体がまつってあるはずだ。

見たところ、それらしき物は無い。


もしかすると、この山自体が御神体なのかも知れない? 富士山がそうだ。

もしかすると、誰かが盗んだのかも知れない? 防犯対策がガバガバだ。

引き続き調べる必要がある。


郷土資料館には、御神体に関する資料は無かった。

何をまつっているのか、知ってる人は居なかった。

中には何々だと話す人も居たが、最後に【知らんけど】を付け加えていたので正確には知らないようだった。


あと、もうひとつ。

誰に聞いても、何処どこを調べてもわからなかった事・・・それは、その大蛇おろちの生死だ。

神としてまつられて天に昇った? だとしても、すぐには無理だ。


邪悪なモノを神としてあがたてまつり、いざという時は、その力にすがって困難を解決する。

その邪悪なモノは人々に感謝され、いつしか本当の神として天に昇り、更に恩恵をもたらす。

そんな昔話は日本各地にある。


では、神になるまでその邪悪なモノは、何処どこで何をしているのだろう。

今回の場合は大蛇おろちだ。

年に一度の収穫祭の時には、沢山たくさん御供おそなえ物を献上されて、もてなされるだろう。

しかし、人を喰う事を禁じられ、年に一度の収穫祭の時にしか食事を与えられない。たまには誰か御供おそなえ物をそなえてくれるだろう。

それでも何かあれば、神頼みとしょうして頼られて、雨を降らせて川の氾濫をおさえる。

それを千年も続けさせられている。


とんでもないブラックだッ。

俺だったらすぐに逃げ出して労働基準局にチクる!


俺の推測。それはこの山の中で、何処どこかにまだ生きたまま大蛇おろちは捕らえられている。

真貝の人間が逆鱗を持っている所為せいなのか? 桃香に似た能面を着けた人にはさからえないのか? いろんな事をメモ書きにして推測してみた。


そして、昨日俺が供えた真空パックにはいった肉が無い。

腐る事をおそれて念の為に今日来てみたが、それだけが無い。


昨日俺が帰ったあとで、桃代が生肉をむさぼった? そんな想像はしたくない。

すればミイラではなく、理科室にある骨の標本になるからだ。


もしもそうなれば、骨の標本の俺は、放課後理科室に肝試しに来るガキ共をおどろかせてお漏らしするまで追いかけてやる。

そんな事を考える、俺はやっぱりバカだと思う。


暑さで思考がボヤけたが、【肉は大蛇おろちの食料になった】そう推測するしかない。

昨日俺が帰ったあとで、桃代が大蛇おろちに与えたのではないかと推測している。

そんな推測をする、俺はやっぱりバカなんだと思う。


桃代は大蛇おろちの事を何か知っている。

俺にはまだ話せないのか? 俺をまだ信用してないのか? その所為せいで、ふざけた事を話して俺をためしているのか? まあ、今のところはまだわからない。


俺は神社と塚に一礼いちれいすると、この場をあとにする。

帰りは滝の方に足を延ばして、明日の下見をする事にした。

まだ桃代の返事を聞いてないのに、気持ちが先走りしているかも知れない。


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