第17話 逆鱗
座卓の上に置かれたそれは、想像以上の大きさだった。
昭和の時代、生まれた時に産院で貰う
これを探すのに時間が掛かるって【おまえの部屋はどれだけ散らかってんだよッ!】なんて言いそうになる。
でも言わない、せっかく桃代の機嫌が
俺は、おそるおそる
何かの
一度目の原因は、目の前で桃色のシャツを抱き締めている。
その照れた仕草に、違う意味のドキドキが
ドキドキしながら
上の部分の綿を取り除くと、更に綿の上、中央に逆鱗が
思ったよりも、かなり大きい。
ただ、手で触れると粉々になりそうな気がする。それだけの年代を感じられた。
俺は逆鱗その物には興味がない。そもそもこれが
写真を撮り終わると、綿を元に戻して
「なぁモモ、この逆鱗なんだけど、今まで通り、おまえの部屋で保管してくれない?」
「えっと、どうして? これは現当主の紋ちゃんが持ってないと」
「うん、わかってる。少しだけでいいんだ。俺の中の疑問が解決したら、俺が保管する。モモには絶対に迷惑を掛けない」
「疑問? 紋ちゃんは何か疑問があるの。わたしがぴゅぴゅっと解決してあげるよ」
「うん、そのぴゅぴゅっとの意味がわかんないけど、なんか下品だからやめて」
俺は自分の中で優先順位をつけた。
逆鱗や能面の事だけでなく、分家の連中も後回しだ。
今一番大切な事は桃代の事だと思う、そう俺の直感が告げている。
噂好きなババア達、暇を持て余す店主達、その誰もが知っていた真貝の先代当主。
その人となりが、あまりにも違い過ぎる。
真面目な優等生、
それなのに、その全ての逆をいく俺の目の前にいる先代、コイツは一体誰なんだ?
ただし今の状態では、何を聞いてもはぐらかされる。
しかし、ヒントはもらった。
【二度目のプレゼント】じゃあ、一度目は何をプレゼントしたのか思い出せばいい。
あとは俺の頭の問題だ。
俺は幼い時の事故の
事故の時、頭部を強打したのかも知れない。
両親の悲惨な死体を見た
精密検査の結果では、異常は見つからなかった
医者に言わせれば、この手の症例はよくあるそうだ。
もう少し、時間が欲しい。
なんとかして、桃代の事を思い出さないとイケない。
コイツは俺自身に思い出して欲しい、そう望んでいる気がする。
俺は桃代に、ちょっとした提案をしてみた。
「なあ、モモちゃん。
「なぁ~に、どうしたの? 今ではダメなの? 今は話せない事なの?」
「あ、いや、昨日神社に行く途中で滝があるのが見えたから、水遊びにでも行かない?」
「はは~ん、なるほど、滝の裏を掘って財宝を隠すのね。紋ちゃん、なかなか良い所に目を付けたわね」
「うん、その財宝を隠すとか、探すとか、いい加減そっちの発想はやめてくれない」
「え~~だって、お宝を埋めて地図を残しておけば、わたしと紋ちゃんの子孫は喜ぶよ」
「あのなモモ。世間では、それを脱税って言うんだぜ。喜ぶのは税務署だけだぜ」
「何を言ってんの、お宝にもいろいろ種類があるでしょう。さっき貰ったシャツだって、わたしには宝物なのよ」
「だからな、そんな物を埋めたら、今度は不法投棄になるぞ。頼むからその手の話は黄金のマスクだけにしてくれよ」
「も~う、紋ちゃんは夢がないわね。若いんだから小さくまとまらないでよ」
「そんな事はない。俺にも夢はある。モモと結婚して家庭を築く、なんてどうだ?」
「えっ? わたしと・・・」
桃代は下を向いて頬が桃色になっている。
俺は自分が結婚詐欺師になった気がした。
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