第7話 訪問者

俺は寝ころんだまま、考えている。

どうして桃代がまた現れたのか? 桃代の部屋は何処どこなのか? 懐中電灯を見つけた部屋には箪笥たんすが無かった。

着替えの出来ないあの部屋で、寝起ねおきをするのは無理な気がする。


いくら広い家だとしても、昨日と今日で全ての部屋を見たつもりだ。

それなのに、年頃の女の子らしい可愛い部屋を見ていない。


そんな事を思い考えながら、俺はしばらく待ち続けた。

しかし、何時いつまでっても桃代は戻って来ない。

心配するつもりは無いが、また居なくなるのでは? そう思い、少しの不安で気持ちが揺れる。

だが、腹が満たされて寝ころぶ俺は、待ってるあいだに眠ってしまったようだ。


眠っているあいだに時間が過ぎたのだろう、俺は人の足音で目を覚ました。

桃代の足音ではない。

何故なぜなら、複数人の足音だからだ。


突然グサッとされるのは、さすがに勘弁願いたい。

俺は薄目を開けてあたりの様子をうかがう。


ここは俺の家のなのに、どうして勝手にはいってくる? 誰に許しを得たんだ? 

そもそもどうやってはいって来たんだ? 

玄関の鍵を掛けたのか思い出そうとするが、起きたばかりの俺の頭は、それを思い出さない。

全ての人が入り終わったのか、静かになった。

俺は身体からだを動かさないように、薄目のまま不審者の様子をうかがう。


ぼんやりとしか見えないが、5~6人はいる。

奴らは正座をして、手を畳に置き、頭を下げて土下座をしているように見える。


これならば、グサッとされる心配はない。

俺は起き上がると、胡坐あぐらをかいて声を掛けた。


「誰だ、おまえら? 何の用だ? ここは俺の家だぜ、なんで勝手にはいってくる?」

「申し訳ありません真貝様。取り急ぎ、あなたにお伝えしないといけない話があります」


「うん? あんたは弁護士のやぶたけさん。なんで弁護士のあんたが不法侵入をしてんだ?」

「申し訳ありません。しかし、貴方様のお役目と、迫り来る危機に関してお伝えしなければ大変な事になりますので・・・」


「ハァ? お役目? 危機? なんだそりゃあ? 知っての通り俺は何の取り柄もない、ただのボンクラだぜ」

「はい、貴方様はただのボンクラだと思います。しかし、この真貝の一族です」


「あのな~そこは否定しろよ。ハッキリ断言されると傷付くだろう」

「いえ、貴方様は真貝紋次郎。現在はマガイモンなのですから、ボンクラなのは事実です。そして、これから力を付けて頂かないと、近い内に死ぬ事になります」


「どういう事だ、死ぬなんておだやかじゃねえな。なんで俺が死ぬんだ?」


俺はイライラしていた。

突然乱入されて、ボンクラだのマガイモンだのざまに言われたうえに【死ぬ】とまで言われれば気分を害さないヤツは居ない。

まあ、ボンクラは俺が言った言葉だが、それはどうでもいい。


俺の不機嫌な口調に気をつかい別の男が頭を上げると、やぶたけいましめて自己紹介を始めた。


「初めまして、わたくしは世話係兼まとめ役の松慕まつぼと申します」

「なんだ、竹やぶの次は松ぼっくりか。おまえら全員俺の気分を逆撫さかなですると、警察に引き渡すぜ」


「申し訳ありません御当主様。そんなつもりは微塵みじんもありません。ちなみにここにおりますのが、この地域の警察署長のざいえんです」

「最悪だな、やっぱり警察もグルか。おかしいと思ってたんだよ」


「と言いますと、御当主様は何か気付かれていたのですか?」

「当たり前だろう、警察がいちいち俺に捜査報告をして来るかッ。しかも、司法解剖の結果まで教える? あり得ねぇよ」


「そんな事はありませんぞ、真貝様。最近の警察は、市民に配慮をしてますから」

「ぬかせッ、配慮してる警察が、勝手に市民の家に入るんじゃねぇ」


自己紹介のつもりだろうか、残りの三人も順番に頭を上げて名乗るが、最初のヤツは名乗る必要もない。


「どうですか真貝のボン様、拙僧が差し上げた、お祓い道具は役に立ちましたか?」

「あ~ッ、クソ坊主。あんた、それ本気で言ってんのか? まるで役に立たなかったぜ」


「おかしいですな、拙僧が念を込めた物なのに、間違った使い方をしませんでした」

「ボケッ、嫌って言うほど、正しい使い方をしたぜ」


桃代が消費したとは言わない。

説明するのが面倒だから? そうではない、俺がコイツを全く信用してないからだ。

当たり前だろう、コイツに貰ったお祓い道具は役に立ってないのだから。

そもそも金を払わせたくせに、何が差し上げただ。あつかましくて腹が立つぜ。


次の奴も胡散臭うさんくさい。


「あざみ商店のあざみで御座います。まさか、貴方様が紋次郎様とはつゆらず、昨日さくじつは失礼をしました」

「あんたかい、不愛想な店主。あんたの店で買ったガリガリ君、当たりでもう一本だったけど、二度と行く気が無いから捨てちゃったぜ」


「流石です紋次郎様。そんな所で、無駄な運を使ってはなりません」


無駄な運。

その一言が、妙に頭の中にこびり付く。

他のヤツラも【余計な事を言うな】そんな顔をしてあざみを見ている。

どういう意味なのか聞こうとするが、最後の一人が顔を上げて挨拶を始めたので、驚いた俺は聞きそびれた。


「紋次郎君、久しぶり・・・でもないか。この前駅で会ったものね」

「おまえは桜子? なんでおまえがここにいる? どういう事だ? おまえら一体なんの集団だ?」


むさ苦しいジジイ達、加齢臭がただよいそうで、早く追い出したかった。

しかし、元同僚の若い女が笑顔で話し掛けて来たので、もう少し我慢をしてやる事にした。



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