檻の祈り

檻の祈り

作者 陽子

https://kakuyomu.jp/works/16816700426540079599


 コダ国の山岳部隊『黒牙』の頭ユジは戦に疲れ、降伏して助命を乞うために敵である琦震国に内通していたが、部下の勘違いから部隊が全滅、国の破滅を追いやった狂人とされ、自分は国を裏切ったのに部下をかばったと賞され、真実を打ち明けることも出来ず、また自ら死ねず、誰か自分を罰してくれと祈りつづける物語。



「NieR」シリーズ最新作のスマートフォン向けタイトル『NieR Re[in]carnation』の「すべての祈りは、『檻』の中に」を思わせるようなタイトルがつけられている。輪廻転生を題材にした物語なのかしらん。読んでみなければわからない。

 サブタイトルに「ユジ」「瑛青」「丹惟」「文浩」「蔡」「蓮葉」「ツァイ」「ユジ」と中華系らしき名前がつけられ、九話にはなにもついていない。それぞれのキャラクター視点で語られているのかもしれない。


 誤字脱字等は目をつむる。


 上橋菜穂子の守り人シリーズや獣の奏者、鹿の王などの東洋や中央アジアを舞台にしたファンタジーに、科捜研の女をかけ合わせたようなミステリー作品。異世界ファンタジーと言えば、中世西洋風が多い中、東洋風ファンタジーを描いていて、実に面白い。

 三人称で書かれた文体。話が進むごとに人物視点が変わる。一話はコダ国の山岳部隊『黒牙』の頭・ユジ視点。二話は琦震国の兵士・瑛青視点。三話は弓震学台の医師・丹惟視点。四話は解剖専門の医師・文浩視点。五話は古書研究をする書士・蔡視点。六話は琦震国の軍人・蓮葉視点。七話以降はユジ視点。状況描写より説明が多く、全体的にふわっとした感じ。三人称作品でみられる説明や登場人物の多く、性別や年齢などのわかりにくさもみられる。

 感想を書きやすくするために一話を七話と八話の間に組み込み、二話からはじめる。この順番で掲載してもよかった気がする。


 琦震国は、世界の北端にある山間のコダ国とずっと争ってきた。コダには鉱山資源が大量に存在する。手に入れば莫大な利益を生む。今回でけりをつけるつもりで軍が派遣された。一兵士の瑛青は妻子の待つ国に早く帰りたがっていた。

 琦震国と辺境の小国コダ国との戦力差は歴然だった。にもかかわらず勝てないのは、山岳部隊『黒牙』のせいだ。『黒牙』を率いるユジは恐ろしく強い。正確に急所を突く腕は人間離れしていたし、隊の立て直しも撤退の判断も鋭い。だが、山岳から少し離れた長峻江の畔まで敵をおびき出すことに成功した。琦震国にとって有利な戦況にあるのは、間諜――内通者がいるらしい。今回は倒せる、と士気が上がる。だが、平野でも彼らは強く、撤退をくり返し、四度目の突撃をかけることとなった。

 だが隊列の歩く速度が遅くなる。お前行ってこい、と誰かに小突かれた瑛青は前に出て見に行くと、酷い死臭と折り重なった死体でできた黒い山でユジが、自身の左腕に剣を振り下ろすのをみた。


 二話は「瑛青は屈み込んでいて、さっさと歩けと後ろから男の怒声が聞こえ、背中を蹴られる」と場面からはじまる。蹴られては倒れ、起き上がって、また突き飛ばされたのかしらん。

 きっと、瑛青は屈んでいる状態からよいしょと立ち上がったところを、後ろから蹴られ倒れそうになったのではと推測。

 同じシーンを別角度から撮影して強調させたいみたいな、書き方だ。おそらく、戦場は地獄だみたいなことを書きたいのかもしれない。戦場というより、戦地へ赴くのが過酷だと伝えたいのかしらん。

 琦震国の軍は山間にあるコダ国の国境付近か、領土に進行しているところなのだろう。山道は険しいのかもしれないけれど、いまどこを進んでいるのかがわからない。味方の軍の規模も、兵士である瑛青の服装や装備とかも。

 コダの黒牙たちの服装、黒くて裾の長い詰襟の着物は書かれている。中毒死したからか、鎧などは身につけていないのだろう。

 死体の山に立つ黒牙の頭のユジは、同じ着物をきているのだろう。日に透けて、金髪が輝き、腰に剣があるのがわかる。ということは、太陽を背にしているユジを、瑛青は見ている。

 ユジは、ツァイの名誉を守るために彼女を殺し、部下の死体を運んでは斬り、山のように積んでいったのだろう。そのあと、琦震国の軍をみて左腕を斬る。

 けれど、彼女の名誉を守るためには、ユジはここで死ぬしかない。

 味方の部下を殺したのは自分だと汚名をかぶっても、コダ国は彼を許さないし、琦震国軍も味方殺しなら雇えないから殺すしかない。

 あとで解剖して、たまたま真相がわかっただけであって、この時点ではどこからも引き取り手がなくなった状況に陥っているユジは自決するしか選択肢がない。

 でも自分では死ねない。あとで助かって「殺してくれ」なんていうのだったら、琦震国軍に切り込んでいけばよかったのだ。内通相手とはいえ、軍の上層部しか自分が内通者とはしらない。末端の兵士たちは敵として殺してくれる。それをしないで、みずから首を切らず腹も斬らず、かわりに利き腕の左腕を斬って、戦いの意志はもうないとみせても、助かる可能性が高い。

 戦に疲れたにしても、仮にも黒牙の頭として戦場でも恐れられていたにしては、優柔不断で煮え切らない。

 この彼の弱さが、本作の結末を生むのだろう。


 弓震学台の医院に左腕を切られた兵士が運ばれてきたと女医士の桂花に医師の丹惟は起こされる。戦場の怪我人は戦場で治療する。重症だとしても民間の医院に運ばれる。弓震学台の医院で診るのは、治療を諦められた患者か、王族か、犯罪者だけ。

 第三医務室に入ると、青い顔をした瑛青と寝台に横たわる金髪のユジがいた。瑛青から、全滅した敵兵の死体の中にいたユジが左腕を自分で切ったのをみたと説明を聞く。丹惟は、桂花に呼ばれた解剖専門の医師の文浩と治療に当たる。桂花が輸血を運んできたとき、治療室の外に立って見ていた瑛青が「助けないでください、あれは人間じゃない」とつぶやいた。


 戦場から弓震学台まで、どれだけの距離があるのだろう。応急処置をして運ばれたけど、血が止まらず、敵兵だったため、ほかの医院には連れて行けず、弓震学台まで運ばれた。それでもまだユジは生きているので、戦場から弓震学台までは近いのかもしれない。

 運ばれてきた移動手段はなんだろう。馬? 馬車? 空を飛んできたとか、近くに川が流れていて下ってきたとか。

 戦場は平地まで降りてきていたとあるので、街道がそれなりにあるところだったのかもしれない。

 瑛青はユジに付き添っている。お前が最初に見つけたのだからお前が行けといわれたのだろう。弓震学台につれてきたのは、軍の偉い人からの指示だろう。

 当初の予定では、黒牙と戦闘して、戦力を失ったところで黒牙は降伏。その際、頭であるユジは処刑されるのではなく、琦震国軍の兵士として向かい入れられるというそういう手はずになっていたのだろう。その際、生き残っていた他の兵士たちも、同じように雇われてるというのが、ユジと琦震国軍の上層部とで話していたことだったと推測する。それが、黒牙はみんな死んでて、ユジは片腕を切り落として発見されたので、事情を聞いてみよう、ということになったのだろう。

 治療室とか、止血状況とか描写が少ないのでわかりにくい。

 輸血技術がある。血の種類があるということも知っているのだ。輸血パックはどうしているのだろう。かなり技術が高い。適合する型の人を集めて、注射器で採血し、それを持ってきてつかうのかしらん。


 治療後。図書館で丹惟は文浩に、眠っている敵兵ユジは自分の部下を皆殺しにしたらしいと軍上層部と弓震学台の上の人たちはみているらしいと告げ、「生かしてどうするんだか」とぼやく。

 文浩は解剖したい気持ちをつぶやけば、「生臭い会話するのはやめてください」と古書研究担当書士の蔡は冷たい声を上げた。好奇心の強い蔡はユジについて二人から話を聞きたかったのだ。

 一人で一個隊全滅させたのなんておかしい――と話していた文浩の肩をたたいたのは、医士筆頭の趙千。軍部機密により、一番広い第一治療室に行くよう命じられ指示に従うよう釘をさされる。治療室にいけば、扉の前に女の軍人、蓮葉が立っていた。長峻江で殺された兵士の死因を調べてほしい、しかも口外禁止で。趙千が用意した助手は、口の硬い文浩の知らない医士ばかりだった。

 日暮れまで掛かり、左肩から、斜め下に切り裂かれたことが死因の原因だった。丹惟と話していると蔡が知りたくて顔を出す。目をさませば本人に聞けばいいと文浩の言葉に、確かにと顔を見合わす丹惟と蔡。そこに桂花が「ユジが目を覚ました」と走り込んできた。


 図書館とあるけれど、どんな図書館なのだろう。広さやまどりはどうなっているのだろう。本といっているけれど、紙でできたものなのか、木や竹に文字が書いてあるのを本と読んでいるのか。それらの本も、江戸時代の日本みたいに紐で綴じ、平積みにして保管してあるのか、今風の本棚に立てて入れてあるのか。本が読める卓、テーブルがあるみたいだけれども、一つだけなのかしらん。

 文浩が「一個隊全滅」といっている。

 一個小隊なのか、中隊なのか、大隊なのか。それぞれで人数が違うし、現代と本作の世界の一個隊の人数も違うだろう。仮に、黒牙が一個小隊で三十人くらいだったとする。三十人に、翻弄されて勝ててこなかった琦震国軍ってどうなの、となる。一騎当千の強者揃いだったのかもしれないが、異世界転生した際に神様からもらったレアスキル持ちの集団だったら、なるほどとなるのだけれども、そういう作品ではなさそう。

 だとすると、琦震国軍が何度戦っても勝てないとなると、黒牙は一個大隊の五百から千人くらいの人数だった。そう考えると、なんとか納得できる。

 問題は、そんな大人数が中毒死して、そのあとユジ一人で部下の死体を一人ひとり斬って死体の山とするのは何日かかるのだろう。それは無理がありそう。

 一個中隊の百人規模だったとしても、としっくりこない。はじめは人数が多かったけど、戦闘によってだんだん数が減り、最終的には一個小隊まで減ってしまったところで中毒死が起きた、と考えるのが無難なのかしらん。

 口外禁止とあるけれど、「弓震学台の医院で診るのは、治療を諦められた患者か、王族か、犯罪者だけ」なので、普段から口外できるような場所ではないと思われる。なので、また口外禁止の案件ね、くらいに思っているはずだし、医師に限らず、弓震学台で働いている人は口が固くなければならないと思われる。仲間内でも、むやみにしゃべって広げないように、という箝口令はあるのだろう。

 だから仲のいい数人だけでしゃべっていたところを、偉い人である医士筆頭の趙千にみつかってしまった、という感じなのだろう。

 文浩の解剖は日暮れまでかかったとある。

 いつからはじめたのがわからないので、長いのか短いのかすらわからない。図書館が医師たちのベッドみたいな、休息所として使われている。そこで顔を合わしている内に、蔡とも知り合いになっていったのだろう。

 解剖したのは、ツァイだけでなく、他の死体も何体か解剖していると思われる。だから、ツァイは斬られて死に、他の兵士は中毒死が死因だとわかったのだろう。

 ということは、急いでユジを弓震学台に運ぶとともに、黒牙の兵士の死体三体も運んだに違いない。状況をきちんと調べようとする上層部の判断が垣間見える。


 目を覚ましたユジに「ここは琦震国の弓震学台だ」と左腕の具合を見ながら丹惟が告げる。何があったか尋ねると、さっさと殺してくれればよかったのにとつぶやくユジ。コダ国は琦震国に服属したと蔡が彼に告げたとき、蓮葉が尋問しに現れる。峠を越したばかりですぐ悪くなると丹惟がいうと、尋問出来ると判断されるまで監視を置くことを告げて出ていった。

 昔の法令集をもって図書館にやってきた蔡は卓で寝ている丹惟を起こし、罪人であるユジを檻兵として扱うのは国の綻びとなるあら処刑したほうがいいという。弓震学台は業深い連中の集まりだから判断できないし、誰が裁けばいいのだろうと呟く丹惟に蔡は答えられなかった。


 ユジが目を覚ましたのは、治療室なのかしらん。それとも病室のようなベッドなのか。部屋に扉があるのがわかる。話していたときに蓮葉が尋問の話をしに現れる。いつの間に扉を開けて入ってきたのだろう。はじめから部屋の隅にいたのかしらん。

 ユジが目を覚ましたあと、図書館の卓で死んだように丹惟が寝ている。三日ぶりらしい。

 卓に突っ伏しているのか、それとも卓の上で大の字になって仰向けになって寝ているのか。いびきもかかず、呼吸をしているのかすらわからないような静かに寝ているのだろう。

 部屋が暗いとか明るいとか、時間もよくわからない。何に忙しいかわからないけれど、丹惟は多忙で時間間隔がないのだろう。寝不足で頭もはっきりしていないと思うのだけれども、蔡ときちんと話しているところを見ると、丹惟という人は現在の状況に慣れるほど長く働いているのだろう。

 蔡もそうなのだろうか。自分の興味を調べるために法士から本を借り、丹惟を探して話しかけに図書館に現れている。彼は丹惟ほど、時間間隔がわからないわけではなさそう。

 業の話が出てくる。人の行いの結果、善き未来になるのか悪しき未来となるのか。悪い未来を望まないのなら、善行を積まねばならない。自分たちのしていることが善行なのか悪行なのか、それは誰にも判断できないといっているのだ。

 

 治療室の廊下でユジの監視をしている蓮葉は、腕が血まみれの文浩と会う。猿の解剖をしていたと言い、自分の服の袖で床後をふこうとする。廊下を歩いてきた桂花を呼び、彼女が拭いておくから着替えてくださいといって文浩を追い出し、吹き始める。と、治療室から丹惟が出てきて蓮葉に、軍人なら監視ついでに手伝いもできるだろうと、ユジの歩く練習の付き添いを頼む。

 適当に歩きながら自分はどうなるのか問うユジに、普通なら処刑だがそんな様子もないと答える蓮葉。腕でなく首を切ればよかったのに怖かったとユジが呟く。

 解剖の結果、コダ国の黒牙の兵士たちは死んでから斬られていた。しかも紅燐草の中毒症状が出ていた。誰かが飲食に混ぜだのだ。そして一人だけ中毒症状が出なかったのは、斬られて死んだ若い女の兵士だけ。解剖すれば部下を殺したのはユジではないと告げると、蓮葉はユジに首を絞められる。殺してくれと懇願するユジ。蔡がユジを突き飛ばして止めに入った。侮辱することをいったので不問にする、傷が痛みなら先生に見てもらいましょうと蓮葉が告げると、ユジの顔に失望が浮かんだ。


 猿の解剖は、文浩の趣味というか研究なのだろう。衛生面が彼には欠如している。それとも弓震学台では徹底されていないのか。もともと衛生についての考えが足らない世界かもしれない。

 現実でも、手洗いが大事だといわれるようになったのは一九世紀後半。

 それまでは一般的ではなかった。ハンガリー人医師ゼンメルワイス・イグナーツは消毒の先駆者だったが、手洗いを医療の改善と結びつけて説いたことで嘲笑されていたほどだ。

 解剖から、紅燐草の中毒症状がでていたのがわかる。以降、赤燐草と表現されている。誤字なのかしらん。麻薬の一種だろう。コカの葉を噛んで戦場に赴いた部族がいたのを思い出す。

 蓮葉の首に手をかけ、反抗を見せて殺してもらおうとするユジ。それをするなら、戦場で敵軍に殺してもらえばよかったのだ。死にたいのか生きたいのか、矛盾を抱え持つのが人間なのだろう。 


 ユジが目をさますと、寝台の脇に蔡が座っていた。彼は監視役の手当をしている間の代わりだという。なぜ蓮葉の首を締めたの聞かれ、「自分で死ねればいいけど怖いから」と答え、敵に殺されれば罪も軽くなる気がしたと胸の中で呟く。

 なにもしていないと、黒牙にいたツァイや仲間を思い出す。最後の戦いのとき、内通者がいると噂が広がっていた。隊内の雰囲気は険悪で小競り合いも起きていた。ツァイの兄が内通者と疑われて殺された。反論すれば内通者にされてしまう。頼れるのはユジだけ、死にたくない、と彼女は泣きそうな声を上げて震えていたが、泣いてはいなかった。

 紅燐草の管理をしていたのはツァイだ。さっさと国に返していれば、黒牙はもっと真っ当に滅んだだろうとユジは思った。


 紅燐草の管理をしていたのはツァイだったとある。管理を一人に任せてはいけない。仕事を教えるためにも少なくとも二人、ないし三人で管理はしないといけない。危険物ならなおさらだ。それが出来なかったのは、一個隊の人数が減ったため、もあるかもしれない。

 どちらにしてもユジの責任だ。一人にまかせると勝手に使われてしまうというのは、現実世界でもよくみられる犯罪の形の一つだ。


 他国にも知れ渡るほど有名な弓震学台は「琦震国の頭脳」と呼ばれ、優秀な学者が集められている。建物には医院なども併設され、最先端の技術が日々生み出されていた。

 露台で星を見る左腕のないユダに声をかけた古書研究担当書士の蔡は、星の位置から暦を計算する。暦士ではないが、「知らないことばかりは不安だから」とやり方を教わって自分で計算をしていた。ユジに古書研究について質問されると、「ひたすら古い記録を解読する。過去の積み重ねが今であり、自分がなんの上に立っているのか、自身の歴史を失うと不安になると思う」と語るが、ユジは「過去なんて消えた方が、生きるのが楽」と答える。

 蔡は、気が狂って部下を殺し自ら左腕を切り落とした敵国の軍人に皆が怖がっていることを伝え、どうして自分で切り落としたのか尋ねる。なぜ生かされているのかとユジのつぶやきに「琦震国の為に戦ってもらう気かもしれませんね」と蔡は笑う。

 首を切らず左腕を生への未練の現れで、従ってしまいそうな自分に恐れながら、戦場には戻りたいと思っていなかった。


 ユジは一人で弓震学台内を歩けるまでに回復したのだろう。

 蔡は興味を持ったことについて自分の分野外でも首を突っ込んでいくのがわかる。どこで災害が起きたかなどの地理もしらべ、他国と戦争をする際に地形を利用して勝利に導くために、ゆくゆくは駆り出されるかもしれない。

 監視とまでは行かないまでも、ユジをみているように蔡は丹惟からいわれているかもしれない。

  

 ユジが黙り込んでいると、何を考えているのかと蔡に聞かれ、結構長くいるものだと思ってと答える。守れなかった故国に行くのは辛いですかと聞く蔡に、聞いてどうするとユジが言えば、申し訳無さそうに目を伏せ「知りたい」と答え、解剖をした文浩から口外禁止と注釈しつつ、軍部から近々ユジが部下を皆殺しをしたわけではないと公表されることを告げた。

 蔡はユジに自身の考えを披露する。黒牙の兵士たちの死因は紅燐草による中毒死。ユジが殺したのは若い女軍人一人だけ。その女はなぜか部隊に中毒死を引き起こした。戦闘で死んだということに見せかけたくて、死体に傷をつけた。女の名誉のために。

 これは檻兵として受け入れる為の布石だと蔡はユジに自分の考えを告げる。その女が内通者だったかと聞かれ、ユジははっきり否定した。

 ツァイは精神的に追い詰められ、周りがすべて疑わしいと思い、正気ではなかった。内通者はいなくなり役に立ったかと笑う彼女を、最悪の犯罪者として名を残さぬためにユジは彼女を斬ったのだ。

 ユジの言葉を聞いた蔡は、知ることは業だと呟く。ユジはツァイの命を守りたかった。それを踏みにじっていいのかわからないと告げた蔡は、知らないふりをすると口にした。

 結局、ツァイは国を滅ぼした大罪人となる。名誉を守るには殺すしかないと思ったから殺し、自分を罰するために左腕を斬った。なのに公表される。殺した意味がなくなる。信じていたユジに裏切られ、殺され、国を滅ぼす原因となった。

 どうしても隠したいなら露台から飛び降りても止めません、と言い残し、蔡は出ていった。


 蔡は自分の推論から、検討をつけていた。はじめはツァイが内通者と思っていてから、だからユジは彼女を斬ったのだろうと思って納得していた。でも、違うと知り、ユジが内通者だと気づいたのだろう。

 ユジが内通者だった場合、ツァイが中毒死を引き起こしたのは想定外だったのでは、と蔡は考え、今回の結果はユジが望んだ結果ではなかった。それがわかったから、「隠したいなら露台から飛び降りても止めません」といって立ち去るのだ。

 蔡としては、知りたいことを知ったけど、自分にはどうしてあげることも出来ない、だから立ち去ったのだろう。死ぬ機会を与えるのが、せめてものユジに対する救いだと思ったのだ。

 

 崖の端に張り出すように造られた露台からユジは見下ろす。暗い穴があいていた。知らないことは不安といっていたのに、蔡は誰が内通者か問わなかった。

 いくら檻兵制度があったとしても従うとは限らない。ユジは従う、と琦震国軍部は判断したのは、彼が内通者だから。

 戦に疲れ、相手を強くし、適当なところで降伏して助命を乞うために敵である琦震国にユジが内通していたのを知るのは琦震国軍の上層部だけ。

 ツァイは殺され、死んだあとも解剖され、国を滅ぼした狂人扱いとなる。国を裏切ったユジは、部下をかばったと美談にされる。

 自分の罪を告白する勇気も死ぬ勇気もない。自分で自分を正せないから、星空のもと、誰か罰してくれと祈るのだった。


 ユジの生き方も業の一つとして書かれている。彼の取った行いにより招いた結果なのだ。おそらく、ユジには心許せる相談できる相手がいなかったのだろう。一人で抱え込み、戦に疲れ果ててしまった。戦の前線から退いてあとは誰かに任せればよかった。おそらくユジより強い者が他にいなかったのだ。

 国を守るため、死にたくない一心から取った行動は、国や仲間を売って自分だけ生き延びる行動だった。結果、彼が欲した形となった。罰して祈るのは、行動する前に考えや見通しが甘かったのだろう。一人で考え込まず、困ったら誰かに相談する。それが出来ていたら、違った結末をむかえられただろう。

 読後、タイトルを見て、ユジは自ら檻に入り、自分の行いを悔やみ続けて祈り続けていくのかとおもうと、なんとも悲しくなる。

 どうしていいかわからない時は、誰かに相談する、一人で抱え込まない。でなければ、ユジのような生き方を選んでしまうことを本作は教えてくれているのかもしれない。



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