宝石の罪

宝石の罪

作者 古川暁

https://kakuyomu.jp/works/1177354054921078123


 原っぱで繰り広げられるポピーや青筋鳳蝶、鬼蜘蛛とモルフォ蝶と人間のやり取りを達観して見る年老いた木兎の物語。



 美しさは罪~ほほえみさえ罪~黒いバラの花トゲがあるように優しくつつみこんでゆく~という歌が聞こえてきそうな聞こえないような、そんなタイトルがついている。

 魅了され、人生を振り回された人にとって罪なるは宝石、ということかしらん。読んでみなければわからない。

 前後編に分かれている。作者によれば、風刺ファンタジーとある。

 風刺とは、それとなくそしり、遠まわしに社会や人物の欠陥などを批評することをいう。


 文章の書き方、誤字脱字等については目をつむる。書き終わったら一度音読して、気になるところかおかしなところがないか確かめると、より良くなる気がする。


 他の人がなかなか書かないような話に挑んだ意欲作。

 二人称小説とあるけれども、三人称の神視点とモルフォ蝶視点、木菟視点で書かれた文体に感じる。

 二人称小説は、虚構の主人公の指示において呼びかけ代名詞を用いる。地の文で「あなた、君、お前」などによって主人公が指し示して人称空間をテーマとする物語だ。本作では、前篇のセリフで「君」と使われ、地の文には用いられていない。

 蝶たちのセリフと思われる部分も、誰がどう話しているのかがわかりにくいため、単に蝶たち同士の会話にも読める。ラジオドラマにしたら、わかりやすくなる気がした。

 また、二人称小説とは、読者を登場人物に見立てて、強制的に物語に参加させ、作者によって物語の主人公にさせられて行動を強要される。そのため、効果的な物語展開ができる。

 本作は、うまく効果を発揮できているかはわからない。

 ただ、作者さんは二人称小説の持つ効果を用いて、伝えたいことがあったのだろうと推測する。


 本作から、みなしごハッチやジャングル大帝など昔のアニメでよくみられたような、花や昆虫などを借りて、恋愛の不条理や社会批判を込めた風刺作品に感じる。人間だけの視点で物事を捉えて生きると傲慢が募ることを諭したいのかもしれない。


 社会とはもともと理不尽なものなので、問題の半分はミスマッチで起きている。だから、必ずしも当の本人に非があるわけではない。自分は頑張っている、でも周囲は配慮してくれない。その思い込みから、自分は特別だという考えを育てて、ますます理不尽を感じていく。かといって、理不尽を我慢すればいいわけでもない。

 なぜ理不尽が起こるのか。本作ではポピーや青筋鳳蝶、鬼蜘蛛とモルフォ蝶と人間、木菟を登場させて、描いている。


 前半、ポピーが咲き乱れる原っぱで青筋鳳蝶が舞っていると、モルフォ蝶が現れる。鬼蜘蛛はその美しさに心惹かれ、蜘蛛の巣にかかったモルフォ蝶に愛しているんだとささやくも伝わらない。そこへ人間の親子がモルフォ蝶を捕まえ、蜘蛛は子供に踏み潰されてしまう。ポピーも踏み荒らされ、原っぱの秩序を壊して人間は去っていった。


「人間のようなことを言いたくはないが、『外来種』はモルフォ蝶だけではない。そう、近頃はアネモネの花たちが増えて困っていたのだ」と、おそらく木菟がいっている。

 アネモネの原産地はヨーロッパ南部や地中海沿岸地域。日本には江戸時代末期から明治時代にかけて伝わってきたという。

 フクロウの仲間である木菟の寿命は平均で二十年。ペットとして飼われたフクロウの中には六十年生きたものもいたというけど、本作に登場する木菟は、やけに人間について詳しそうなので、かつてペットとして飼われていた経験があるかもしれない。それでもそんな木菟が「近頃」という場合は、それほど昔のことを指しているとは考えにくい。

 少なくとも、いつも訪れる原っぱでの近頃、なのだろう。

 原っぱにアネモネが咲くようになってきた。

 そのアネモネとは、ジャパニーズアネモのことかしらんと考えてみる。

 漢字では秋明菊と書き、中国原産の宿根草で、日本には古い時代入り、京都の貴船地方に野生化したことから貴船菊という。だがキク科ではなくアネモネと同じキンポウゲ科の花。それがヨーロッパに渡り、品種改良されてジャパニーズアネモネと呼ばれるようになった。

 でも、草丈の低いコンパクトな秋明菊が日本の福島県矢祭園芸が開発され、人気を呼んでいるという。

 そんな秋明菊が増えてきたのかしらん。それとも百年以上前に持ち込まれてしれっと「昔から咲いてますけど何か?」みたいな顔をして咲いているアネモネのことをいっているのだろうか。


 ポピーは、ケシ科の植物全てを言い表す呼び名。ひなげしもケシ科の植物。なのでポピーと呼ぶことは間違いではない。

 でも、「ひなげし=ポピー」は少し違う。他のナガミヒナゲシ、モンツキヒナゲシ、ケシ、アツミゲシもポピーと呼ぶ。ひなげしをポピーと呼ぶなら、シャーレイポピーと呼ぶのが正しい。

 なので本作の原っぱに出てくる麗春花にポピーとルビがふってあるということは、外来種かもしれない。


 鬼蜘蛛は日本では北海道から琉球列島にまで広く見られる。ただし伊豆諸島にはいるが、小笠原諸島では記録がない。国外では台湾、韓国、中国にも生息している。


 アオスジアゲハは東アジア・東南アジア各国・オーストラリア北部など広く分布し、日本ではかつては九州などの南日本に生息していたが、温暖化の影響で生息域を北へ広げ、いまでは青森県でもみられるまでになっている。

 なので、本作の舞台がたとえば東北だった場合、ポピーも青筋鳳蝶も、もともとこの原っぱが生息地域ではなかったという意味では、外来種かもしれない。

 

 モルフォ蝶は、およそ八十種が北アメリカ南部から中南米に生息する、森の宝石とよばれる大型の青い蝶。幼虫はマメ科など双子葉植物を食べる。

 日本がマメ科の植物を輸入する場合、中国や東南アジアの近隣経由すると予想。また、外来生物の上陸を避ける為に税関での検疫が行われているので、生きたまま卵や幼虫で持ち込むことはまず不可能と思われる。仮に成虫が貨物船や客船にもぐりこんでいたとしても、中南米から二週間以上、海上で餌もなく生きていられる可能性はない。

 日本動物園水族館協に加盟している九十の動植物、五十の水族館の中で、モルフォ蝶を飼育しているところは存在しない。また非加盟の飼育展示施設も国内にはない。

 かつてはブラジルで土産物としてモルフォ蝶の標本が売られていたが、現在はワシントン条約で輸出禁止され、日本への輸入も禁止されている。

 コスタリカでは土産物として標本が売られているらしい。買えるかは不明。ペルーでも見られるが国内採集はできない。INRENAの輸出許可証があればペルー国内での昆虫採集および標本の持ち出しは可能という話もあるが、ワシントン条約により、自然に生息している固体に関してはその輸出入は禁止されている。ただ、ペルー政府が主導するエコプロジェクトの管理下で進められている人工繁殖で飼育されたものは、商業目的での輸出入が可能となっている。

 とはいえ、ブラジルを含めて基本は採取できない。

 卵から死ぬまでは約百十五日。成虫の寿命は約一カ月。毒があるため捕食者はあまりいない。 成虫は花の蜜よりも腐った果実、動物の死骸、キノコなどを好む。

 なので、原っぱに現れたのは、モルフォ蝶ではなく、それに似た別の蝶の可能性も考えられるのではないかしらん。たとえば、ミドリシジミチョウ。大きいもので羽を広げて五十ミリメートルを超えるので見栄えがあり、光沢も翅の形もモルフォチョウに似ている。

 そもそも、モルフォ蝶をみたことがなければ、目の前に飛んでいる青い蝶を「モルフォ蝶」と呼ぶのは難しい。やはり木菟は、かつてペットとして飼われていた経験があるのだろう。


 後半、モルフォ蝶の由来はギリシャ神話に登場する美の女神アフロディーテの枕詞「形、美、 外見」に由来する。つかまえられたモルフォ蝶はここはどこかと問いかけていたが、「なんの変哲も無い平和な原っぱ」で自然の摂理が繰り返されていく様を見ながら木菟が飛び立っていく。


 読後、いろいろ考えた。一方的な片思いから相手を傷つけてしまう行為と、美しいもののために自然の秩序を踏み荒らして破壊する浅ましさを描きながら、この世は理不尽に満ちていると本作は語りたいのかしらん。

 互いに身勝手で生きているから、理不尽は生まれる。現状を変えたいと思いつつも、世の中のほとんどの人が挑戦しないおかけで世界は出来ている。一握りの挑戦者が世を動かしているから、大多数の人達はこの世が行きにくいと感じる。

 この世は理不尽だと割り切った上で、世の仕組みを知り、どうしたら理不尽ではなくなるのか行動しなければ、知らず知らずのうちに誰かの理不尽の火種になって他人から批評やそしりをうけるようになってしまう。

 読み手に考えて行動してほしいから、二人称小説に作者は挑んだのかもしれない。










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