この夏は君と一緒に

この夏は君と一緒に

作者 暁菜

https://kakuyomu.jp/works/16816700426009033805



 鈴谷恭平は親友の春原悠太の亡姉、夏奈とくり返す夏休みを過ごし、彼女に思いを告げて前へと進んでいく物語。



 上の句のようなタイトル。下の句はどう続くのかといえば、「読んでのお楽しみに」である。


 主人公、鈴谷恭平の一人称「俺」で書かれた文体。

 ジャンルがSFとなっている。なので、一見普通そうに見えて、トリッキーな出来事が起きるのかもしれない。


 こういう作品が夏に映画公開されていると、十代の子たちは見に行くのかしらん。


 会話の中に「豊島」と出てくる。

 瀬戸内海の東部、香川県と岡山県の中間あたりに位置し、小豆島の西方およそ四キロにある豊島を舞台にしているのかもしれない。


 親友の春原悠太がみつけた山奥の一軒家へと案内された主人公の恭平。

 どんな家屋なのだろう。昭和初期の、窓ガラスのない田舎の家だろうか。藁葺の家か、瓦葺きの家か。トタンは使われているのだろうか。それともとなりのトトロに出てきた草壁さんの家みたいな感じか。「全体的に木は黒ずみ傷んでいて、ちょっと力を加えようものなら簡単に壊れてしまいそう」とある。ボロ家といいたいのかもしれない。

 そもそもこの家や土地は、誰の持ち物だったのだろう。

 廊下を土足で入っている。しかも「意外と綺麗だ」と入ってから言っている。入る前に縁側からまわって中を覗いたり、玄関から入ったときにも注意深く見渡さなかったのだろうか。玄関を開けたとき「昭和を感じさせるレトロな空間」としか書いてない。どんなレトロ空間なのだろう。

 どうやらこの家を秘密基地にしようとでも考えたのか、掃除を始めようとする。

 靴は脱いだのだろうか?

 掃除道具を持ってきていない主人公は、「そこら辺探せばなんかあるだろ」と確信を持って悠太に言う。「前にもこうして、誰かとここを掃除した気がする。それも何度も」とあるので、彼は以前、この家に来たことがあるのだろう。覚えていないのは、それだけ幼かったか、外的要因でわすれてしまっているのか。あるいは……。

 悠太が「……いつになったら終わるんだ」と意味ありげな言葉を言っている。悠太はすべて知っていて、知らないもしくは忘れているのは主人公の恭平だけかもしれない。


 こういう違和感をおぼえるセリフには、作者の何かしらの意図、もしくは伏線が潜んでいるにちがいない。


「なんて?」という主人公の問いかけに、「なんでもない」といって、誘った悠太は先に帰ってしまう。彼から説明できない事情があるのだろう。

 掃除をしていると茶髪少女が現れる。悠太は彼女がこの家に住んでいるのを知っていたのだろう。背丈が主人公と同じくらいとある。そもそも主人公の年齢はいくつで、どのくらいの身長なのか。後に彼が中学生だとわかる。

 恭平の名前を知っているだけでなく「相変わらず可愛いなーって」とつぶやく彼女の名は夏奈。同じ身長で、同い年の相手だったら、女子から男子に「相変わらず可愛い」とはなかなか言わない。もし言う場合があるなら、女子が年上で相手が年下の場合だ。

 主人公は「まるで俺のこと知っている風に話す。間違いなくこの子とは初対面のはず。なのに、そうじゃないと自分自身が否定している。根拠も記憶もないのに」と心の内を語っている。

 彼女と初対面ではない、と知っているのに覚えていないのがわかる。

 記憶が消去されているのだろうか。

 いっしょにすんなりご飯を食べ、それから彼女といっしょに一カ月あまり、夏のイベントでもある釣りやスイカ割り、花火などを毎日を楽しんでいく。

 一カ月もいっしょにいて、親は心配しないのだろうか。彼女はこの家に一人で住んでいると言っているが、彼女には親はいないのか。電気はなかったのに、スイカを冷やす桶の中に入っていた氷はどこから工面したのだろうか。野菜は畑、魚は川と、自給自足のような生活を送ってきて、どこから氷を手に入れたのかが不思議だ。

 ひょっとすると、頼まれて悠太が運んできたのかもしれない。

 そうでないとしても、この世界全体が不思議なので、不思議な力が働いているのかもしれない。


 気づけば、主人公は自室のベッドで母親に起こされ目を覚ます。夢オチかと思わせるも、課題に手が付かない中、悠太に山奥へと再び連れて行かれる。

「思い出せ」「振り返るな、走れ!」と言ったのは、悠太だろう。

 いい加減同じ夏をくり返すのが嫌になり、終止符を打ったのは主人公の恭平ではなく、悠太だったのだ。


 思いを告げあえた二人。

 夏奈は消え、くり返す夏も終わった。

 悠太は「ありがとう。これで、姉貴も安心して眠れる」と心底思ったにちがいない。姉の心残りのために、弟である彼は手伝わされてきたのだ。主人公はその度に記憶がリセットされていた。けれど、弟の悠太はそうではなかったのではないか。だから、「……いつになったら終わるんだ」とはじめにぼやいたのだ。

 涼宮ハルヒの話にあった『エンドレスエイト』みたいなくり返す日々から解放されたのだ。姉の墓くらい喜んで作るだろう。

 どうして悠太がここまで協力してくれたのかといえば、夏奈の弟だからに他ならない。姉というのは、ずっと弟に甘えていたいからこそ仲良くしようと、あれやこれやと世話を焼くごとく支配下に置き、弟は姉の無茶振りに振り回されながら気の利く人間へと育っていく。でもさすがに、亡くなってまで振り回されることに疲れたのだろう。墓参りに恭平だけしかいないのは、そういう理由からにちがいない。

 おかげで恭平は、前へと進むことが出来たのだ。


  

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