第十一話 賞金稼ぎのなりそこない
「ここがギルド…雰囲気あるなぁ」
いかにも、裏社会の人間が集まりそうな建物だ。
見た目はこの時代の、少し古い市庁舎っぽい感じ。
全体的に煤けていて、なるほど数世紀前の建築物っぽいし、壁などの汚れ具合も、なんだか裏通りの空気を醸し出していた。
「さて…どんな危険な男たちが…!」
アルトは息を飲んで、ガラス張りな正面玄関を潜る。
「いらっしゃいませ~」
しかし中はとても明るくて、受付のお姉さんも元気いっぱいな感じだ。
「ギルドへようこそ! 本日は、どのようなご用件でしょうか?」
シャンデリアも輝く明るいバーのようなギルドの内装に戸惑いながら、アルトは要件を伝える。
「えっと…じゅ、重犯罪者捕獲人の、手続きといいますか…」
「承りました~。それでは六階の五番窓口まで、ご案内いたしま~す!」
もっと重々しいというか、危険な空気とかを想像していたけれど、なんだか生前の役所とかをもっとフレンドリーにした感じだ。
エレベーターで六階まで上がり、件の窓口へ。
広い窓口で手続きをしている、イカつい、いかにもな宇宙人たちも、職業柄に比して朗らかな様子だ。
「こちらで手続きを行いま~す。どうぞお席へ~」
「ど、どうも」
アルトとコハクの自動椅子が走って来て、アルトが腰を掛けても、コハクは綺麗な直立姿勢で待機の様子。
「座らないの?」
「コハクはアルト様の下僕です。控え、護衛をするのが仕事です」
「そ、そう…」
笑顔で真面目に応えられると、納得するしか出来なかった。
「そりでぃわにぃ、あのぉね、重犯罪者捕獲人のね、てちぢきをね、しましょうにぃ」
案内役とは別な異星人男性の役所員が、ひどく聞き取りづらい程の訛り具合で、アルトの手続きを受け付けてくれる。
「あんた、登録料金とか、払いぇる?」
「あ、いえ…」
少年の姿と返答に、察してくれた様子。
「あーはいはい。そりじゃあにぃ、チぃミの名前ぇ、ここにぃ登記してぇねぇ」
テーブルから立体映像で映し出された書類に、指先でサインをする。
「はぃオッケ。こぉりで今からぁ…アルトォさん? も、重犯罪者捕獲人、平たく言うと賞金稼ぎぃでス。はい免許ぉ」
立体映像がアルトの胸へと当たられると、身体に小さな感覚を覚える。
「えっとにぃ、免許出ろぉー とか思えばにぃ、反応ぉしてぇ、ホレ出るからニぃ」
「はぁ…えっと」
腕時計を見るような仕草で説明をされて、マネをしてみると、手の甲から目の前へと立体映像で、重犯罪者捕獲人の免許が浮かび上がった。
「おお…なんか 凄い!」
この時代の免許はなんであれ、みな同じシステムで所有される。
と、染み出した記憶では理解していたけれど、公男の意識としても肉体的にも、全くの初体験である。
つまりこの肉体の所有者は、免許の類を一つも持っていなかったのだ。
「えっと…あれ? この借金って項目…」
「ああ、そぉりにー」
登録手続きのお金が無いので、登録の際に、自動的に生命保険が掛けられて、それが借金として登記されていた。
「まぁにー、アルトぉさん? が、重犯罪者の一人もなんとかすりゃー、あーっちゅー間にねぇ、ホレ、チャラぁだから」
顔写真の下に、借金一ゴールドと書かれている。
地球連邦の通貨単位「十万円」が、宇宙の基軸通貨「一ゴールド」という単位。
「つまり、借金十万円…」
パっと見では少なく感じられるものの、生前の感覚からすれば、もはや人生オワル位の金額である。
この時代としては、自販機のジュースの価格でも、生前の通貨単位で言えば百万円くらいだ。
つまり、この借金を生前の通貨単位で考えると、一千億円。
この金額が、アルトの価値である。
「そう考えると、気絶しそうだよ…」
あまり意味の無いことに軽く頭を悩ませながら、アルトはこうして、借金を抱えた賞金稼ぎとしての人生をスタートさせた。
手続きを終えて、ギルドの一階にあるフロントまで、階段で下りてくる。
「アルト様、あちらの掲示板で、賞金首たちのリストが ダウンロード出来ます」
掌で示された壁には、古式ゆかしい掲示板が設置されている。
立体映像の一つを指先で触れると、掲示板の銃犯罪者リストが丸まる、アルトの免許証へとコピーされた。
「なるほど…それじゃあ、手ごろな賞金首は…」
ダウンロードしたのに壁の方のリストで見てしまうのは、単なる心理的な「それっぽい感じ」だろうか。
ランダムに並べられている手配書の写真は、みな怖い顔をした、いかにもな重犯罪者ばかり。
「百万人殺しのラムダ…銀河の強盗テリー・ジャン…連続爆破テロ犯のドルストル…。みんな 悪い連中ばかりだなあ」
犯罪歴を見ても、懲役六百年とかを、軽く超えている。
「銀河の知的生命体…いわゆる宇宙人の寿命も考慮し、量刑も判断されますので」
「なるほど…」
さすがにギルドで掲載されるだけあって、みな寿命よりも長い懲役を科されている犯罪者ばかりだ。
「みんな、凄そうだなぁ…ん?」
リスツの一番下の隅に小さく、虫眼鏡が必要なのではと思えるほどに微細な表示で、なんとアルトが指名手配犯として掲載されていた。
「ぼ、僕っ!? なんでっ?」
「はい」
主の疑問に、下僕の少女が答えてくれる。
「地球での殺人者撃退と、宇宙港までの逃走が、警察に捜査されたのでしょう。地球から逃走されましたので、アルト様は指名手配犯となりました」
「とか笑顔で話す話じゃないよね。僕も、指名手配犯…?」
正義を志していた少年からすれば。真逆の立場だ。
「っていうか、僕が指名手配犯なら、なんで賞金稼ぎになれたの? なんか、むしろ追われる側じゃないの?」
という疑問にも、コハクは答えてくれる。
「はい。重犯罪者捕獲人は、命を落とす危険が大きい職業ですので、行政としても重犯罪者と共倒れになってくれれば それはそれで…というスタンスですので」
「とか、また笑顔で話す話じゃないよね」
「指名手配犯の重犯罪者捕獲人は、特別に珍しい存在でも ありません」
というコハクの説明を、別の男が唐突に引き継ぐ。
「そうさ。そしてそういう連中は、デビューと同時に瞬殺…。そんなお前さんみたいなのを、賞金稼ぎのなりそこない…と呼ぶのさ!」
振り返ると、ウシガエルのように肥えたガマガエルみたいな顔の大柄な宇宙人が、悪い顔でニヤニヤしながら、二人を見下ろしていた。
「お前さんも指名手配犯だってのに、随分と ノンビリしてやがるなぁ、ゲッゲッゲ」
笑いながら、賞金稼ぎの男は既にレーザーガンを抜いていて、アルトの背中へと押し充てていた。
背中に当たる銃口は、意外と暖かくて柔らかいのだなと、感じる。
「く……」
今から抜いても、間に合わないだろう。
「まさか…賞金稼ぎになった途端に 終わろうなんて…」
と悔やんでいたら、コハクが優しく告げてくる。
「大丈夫で御座います。アルト様」
言われて、背中を見ると、向けられたレーザーガンとアルトの背中の間に、コハクの白い掌が挟まれている。
背中に当たる柔らかさは、少年を護る少女の掌だったのだ。
「コハク…!」
コハクは言葉の通り、アルトの身を護っている。
しかし、アルトの身は安全かもしけないけれど、コハクが負傷してしまうだろう。
心配をする少年に、女中の下僕が笑顔で告げる。
「このコハク、アルト様の所有物でございます。いついかなる時も、アルト様をお守りいたします」
賞金稼ぎが近づいてきた時には、既に警戒していたのだろう。
か弱い少女にしか見えないアンドロイドの反応に、カエルの賞金稼ぎが、僅かに驚く。
「お前っ、アンドロイドっ–ああっ!」
男が銃を引く前に、コハクはレーザーガンを握り潰す。
そして、賞金稼ぎを睨み上げる。
「アルト様に銃を向ける以上…あなたはコハクの敵対者と設定いたします」
ロボットアニメの主人公ロボみたいに、両目がビカっと輝くコハク。
「ち、チキショーめ…っ!」
カエル男が予備の銃を抜いたタイミングで、アルトは男に申し出る。
「外でやりましょう! 僕とあなた、一対一で!」
「アルト様!」
少年の提案に、男はチャンスを掴んだとニヤける。
「ヘ、ヘヘ…ぃいいだろう!」
~第十一話 終わり~
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