第79話

家を出る時には夕方近くになっていたから、きっとそのくらいの時間だろう。



「そうみたいね。真琴ちゃんが帰って行くわ」



ネックレスが少し離れた場所で湖面を見ながらそう言った。



どうやらネックレスは真琴の様子を追いかけているようだ。



3人の友人たちが教室から下駄箱へと歩いていると、数人の男子生徒が声をかけて来た。



僕はその男子生徒たちを見て身を震わせる。



こいつらは他のクラスだが、校内でもタチが悪い事で有名になっている。



僕もこいつらには散々嫌な目に遭わされてきたんだ。



「お前ら、これから付き合えよ」



短髪の、田村という生徒が浩たちを誘っている。



浩は田村に怯えているようで、1人一番後ろで様子をうかがっている。



「俺たち、これから病院へ行くんだ」



そう言ったのは金光良(カネミツ リョウ)だった。



いつも僕とテストの点数を競い合っている相手だ。



良は田村に怯えた表情も見せず、真っ直ぐに見返している。



「病院?」



「あぁ。ルキの見舞いだ」



良の言葉を聞いて僕は心臓が跳ね上がるのを感じていた。



みんなが僕の事を気にかけてくれているなんて、思っていなかった。



嬉しさと嫌悪感の両方の気持ちが湧き上がってくるのを感じる。



今更僕の事を気にかけたってもう遅い。



僕はあの町にはいないのだから。



「ルキって、車に轢かれたダッセー奴のことか?」



田村がケラケラと笑いながらそう言った。



「ルキはダサくない」



そう言ったのは白石優弥(シライシ ユウヤ)だった。



優弥はスポーツ万能で、どんな競技でもこなせるすごい奴。



僕だって勝てたためしはない。



「なんだよ。ルキはダサいって言ってたのはお前らだろ?」



ノリが悪い優弥たちを見て、田村たちは不機嫌そうに顔を歪めた。



その場にいなくても、悪い雰囲気が立ち込めているのが伝わって来る。



「あれは本気で言っていたワケじゃない。ルキは勉強もできるし、スポーツもできる。すごい奴だ」



そう言ったのは2人の後ろに隠れていた浩だったのだ。



僕は驚いて浩を見た。

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