第67話
暗い軒下にカエルが入り込んで数分が経過していた。
時々「うわっ!」とか「真っ暗で何も見えない!」と言ったカエルの声が聞こえて来る以外には何も変化は見られない。
本当に軒下に雨の形をしたキラキラ光るものなんてあるのだろうかと、首をかしげる。
その時だった。
不意に軒下から何かが飛び出して来た。
それがなんなのか確認するより先に傘がそれを握りしめていた。
「あった! 雨に似た形のキラキラ光る物!」
傘はそう言い、何かを両手で握りしめて喜んでいる。
一体なんだろう?
そう思って近づいて手の中を確認してみると、雨の形をした水色のネックレスだったのだ。
そのネックレスは傘の手の中ガタガタと震えている。
「なんだよ、あったのか?」
軒下からそんな声が聞こえて来たカエルが出て来た。
その体には沢山の泥と蜘蛛の巣が張り付いていて、無様な格好だ。
「探し物はネックレスだったみたい」
僕はそう言い、傘が持っているネックレスへ視線を向けた。
ネックレスは手の中でジタバタと暴れて逃げたそうにしている。
が、その体を傘は離そうとしない。
ようやく出会えた恋人のようにネックレスにほおずりなんてしている。
「相当嫌がってるな」
カエルが言った。
誰がどう見てもネックレスは拷問を受けているように見える。
「君たち2人は知り合いなの?」
僕が聞くと傘は左右に首を振った。
「いいえ。だけど傘と雨は一心同体よ」
「だけどそれは雨じゃなくて、雨に似た形をしているネックレスだよね……?」
「そんなの関係ないわ」
傘はまだネックレスに頬ずりをしている。
ネックレスは泣き出しそうな顔をしている。
傘の一方的な片想いである事に間違いはなさそうだ。
人間の世界でいうストーカーというレベルまで到達しているかもしれない。
「とにかく、一旦家に入らないか? カエルは泥まみれだし、ネックレスは混乱してるみたいだし」
僕がそう言うと、傘は渋々と言った様子で頷いたのだった。
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